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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
求めたものは
8/144

04

「さ、レプスの部屋はここだぞ」


「え」


「一番安い部屋だからきっとベッドとかあんま上等じゃないし多分かなり狭い……当たり、狭いなぁここ」



 勇人がガチャリと鍵を差し込んで開けた扉の向こうは、小さな寝台が一台、それだけだ

 壁にフックが数個 設けられいる他には何も無い、何せ扉を開けて一歩で寝台に辿り着いてしまう

 そのため扉は外開きだが、この区画は安い部屋の集まりの為に廊下も狭い、出入りはそうとう気を使わなければならないだろう

 その上 燭台が無いということは火を使うな、ということだ、まぁ木製の壁も床も珍しいものではないが、これだけ狭い部屋で逃げ場の無い空の上なのだからそれも致し方ない



「一番安いって言ってもそれなりの値段なんだがなぁ……」


「あ、の、こご、わだすが一人で?」


「うん、女の子だからな、ちゃんとしないと」


「え、あの、カミシロさまは? 隣だすか??」


「いや、隣の区画なんだ、この辺りは防犯の為に女だけ、俺とこいつは二人で一人部屋使うんだけど」


「ぇえ?! そ、そんだらおらと一緒でもっ」


「はは、そうだなぁ……」



 勇人はぽつりと呟いた



「物理的にはその部屋割りが最適なんだろうけどな」


「ぇ」


「ま、外でする話じゃないだろ、ちょっと窮屈にしちまうけど入らせてもらうぞ」



 勇人に促されて寝台を椅子代わりに三人で座る、三人と言っても勇人は何時も通りシリウスの膝の上だ、シリウスはレプスと平行に座るがその膝の上の勇人はレプスに身体を向けるように斜めに収まっている

 レプスとシリウスとの間には人一人ほどが余裕で座れる程度の空間が開けてあるがそれでも圧迫感を感じずにはいられない



(……狭いべ)



 気のせいか木張りの壁や床まできしきしと軋むような幻聴すら聞こえる程だ、勇人もシリウスも反応しないので精神的なものから来る幻聴に違いないとレプスは結論付ける

 早く話を終えて部屋の圧迫感を一人で稼いでいるシリウスが出て行ってくれないかな、と思っているレプスを他所に勇人は荷袋から糸の束を取り出した



(え、なんか繕うもんがあったべか?)



 勇人はレプスの方……いや、その手前を確認し時折頷きながら糸の色を組み合わせる



「よし、こんなもんだろ」


「へぁ?!」



 組み合わせが決まったのかと思えば、勇人の顔の横に下がっていたシリウスの髪を数本ぶちっと引き抜いた

 慄くレプスなど気にも留めない勇人は糸と髪を編み始め、少し編むと自分の腹に回っていたシリウスの腕をぺちぺち叩く

 すると促されたシリウスが腹に回していた手を開いた、その手の平の中には――



「え、宝石?」


「あんまり立派なやつだと泥棒に狙われるからその辺で売られるくらいのやっすいやつだけどな」


「……穴が開いてるべ」



 小さな宝石、いや、天然石には穴が開いており、そこに糸を通し組み込むようにして編んでいく



「なんだべな……きれいだす」


「ミサンガっていうんだ」


「みしゃんが」


「そう、ミサンガ、俺の故郷では願掛けやお守りなんかによく使われてる、弟と妹に教えるためにクラスメイトの女子に習ったりネットで色んな編み方勉強したりしたんだ、後で時間がある時にレプスにも教えるからしっかり覚えるんだぞ、……よし、ほら、かわいいだろ?」



 手際よく編まれたそれは、レプスの腕に飾られた

 どうしてか、その色は彼女の好きな色合いでできている



「お、わ、わだすにだすか?」


「うん、お袋さんと話したい時にな……うーん、足りないか?」


「そのようですね」


「え?」


「まぁこんなことするの初めてだしなぁ、駄目だったら仕方ない女の子の部屋に長居することになっちまうが……」



 言いながらまた糸を選び出し、シリウスの髪を数本抜いて先程とは違う編み目で編み込みながら話しはじめた



「うーん、そうだな、レプスは今回の旅のこと どこまで聞いてる?」


「え、あ、探しもんをすると、聞いただす」


「それだけ?」


「はいだす」


「うっわ、やる気あんのか上は」


「あるわけないでしょう」


「だよなぁ……大抵どこの組織も体制を変えんの嫌がるもんなぁ」


「体制……だすか?」


「あぁ、うーん」


「別に言っても構わないでしょう」


「いや、レプスの立場が悪くなるかもしんないだろ」


「なっても構いませんよ」


「ぇえ?! な、なんでだべ!」



 唐突な暴言にレプスは叫び混じりにシリウスを凝視する、何かこの男の恨みでも買ったのだろうか、カミシロさまの胸に顔をうずめたことだろうか

 アレは不可抗力だ、とっても気持ちよかったが不可抗力だった、女神さまに誓ってもいい



「貴女は今回の旅で還俗資金を貯めて移住先を決めて名前も変えてそのまま高飛びするんですから別にいいでしょう」


「へぁ?」


「あ、そっか、そうだよな、うん、そうだそうだ、じゃあ任せた」


「……」



 何を任せたのか、レプスの視線の先でシリウスは圧力を掛けるかのように無言で勇人の旋毛を見ていたが当の勇人は一欠片も気にせずにミサンガを編み続ける、その速度は、先程とは違い時間を掛けるかのように酷くのんびりとしている

 やがて小さく溜め息をついたシリウスは、視線をレプスに向けることはせず、勇人の頭に顎を乗せるようにして前を向いたまま話し始めた



「……子供が」


「んぇ?」


「神殿に、引き取られた子供が、どうなるか、……ご存知ですか?」


「……」



 知っている、それを気の毒に思い、けれどどうしてやることもできないことも、レプスは重く感じる頭を僅かにゆっくりと頷くように傾けた



「では、なぜ、そんな扱いを受けるのかは?」


「……」



 これにはレプスは首を横に振る、意味など、あるのか

 いや、寧ろ、意味も無くあんな仕打ちを受けるほうが、余程……



「神子……上位の巫女や神官の力のことは知っていますか」


「ちがら……ってぇと、火やら、水やらのあれだすか?」


「いえ、浄化の」


「じょーか……そういえば、ちぃと前も、大掛かりな浄化があっだて」



 セラスヴァージュ大陸では、魔属……魔に属する生物の割合がある一定を超えると大陸全土に及ぶ大規模な浄化が一部の神子、巫女や神官によって行われており、そのことは大陸に住む者ならば片田舎の小さな子供でも知っている当たり前の事実だ


 その神子たちは、稀なる能力を継いでいる

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