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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
泥をまさぐる(仮題)
77/144

08

「はぁん、この屑石の嵌った腕輪をねぇ……まぁそんなモンに引っ掛かるような奴ァ大したモンじゃないから狙うのも大した魔女じゃないさ」


「結局狙われるんじゃねーか」


「魔女の噂を知った上で対策まで他人任せにしてるようなバカなんぞ あたしの知ったこっちゃないね、……さあ茶が入った、茶菓子は好きに摘みな」


「あ、どうも」



 出された茶をいただきますとふぅふぅ冷ましながら勇人は口にする

 先程の月晶石は既にルフィーナの手の中だ



「……随分勢い良く吸い込むね、精製率が高い、純度も混じり物が無い、その上この大きさ……自然物とも思えないが、人造物にも見えない……」


「ああ、ソイツが手の内から出てきたのを見た時、俺ァ月の君かと思ったぜ」


「あん? バカ言ってんじゃないよ、本当にいたとしてもありゃあ魂を吸い取る魔性だって話しだろ、会ってたらお前は疾うの昔におっ死んでるよ」


「分かってるってぇの、ったく夢が無ェんだよ夢が」


「何言ってんだい、あたしもお前も夢みたいなもん造っておまんま食ってんだよ、これほど夢溢れる人生もそうそう無いだろうさ」


「けっ」


「吸い込むって?」


「あん? あぁ、魔素だよ、あんたにゃあ見えないんだね、茶のお代わりはそこのポットの中、菓子の追加はほら、足んなきゃその棚の中、水周りはそっちの扉、他の部屋は入れないからね、外へ出ても構わないが草原の外にゃ出られないよ、温和しくしてな」



 小さな子供をいなすように茶と菓子を追加して矢継ぎ早に捲くし立てた後、ルフィーナとヴェルグは勇人には分からない会話に没頭していってしまう



「……まそ(あれ? 蓄積すんのは魔力じゃなかったっけか?)」


(一般人が水と呼び、科学者がH2Oと呼ぶ程度の違いです)


(んー……分からん)


(その月晶石に宿る魔力は、より近付けて表現するとO3です)


(……なんでそこへきてオゾン? H2OとO3は全くの別物だろ)


(当て嵌めた化学式を引き摺らないで下さい、仮称であって水とオゾンが一緒だという話しではありません……話しを戻しますよ、仮に魔素を"O"とします、そして人の生命力を"H"とします、結合すると魔力、H2Oになります、人によってはHO2だったり2H2Oだったり不純物や第三第四の要素が含まれたり他にも様々なバリエーションがありますがそこは割愛します)



 更には魔素にも生命力にもそれぞれ様々に属性があったりするのだがシリウスはソレらも割愛した、話の焦点はそこではない



(ああ! おう、なるほど! それで一般人と科学者の違いな、確かにこの二人は研究畑っぽいもんな、っつーとさっきは素人向けに魔力って説明してくれたのか……あれ? オゾンどこいった?)


(O3は人の生命力などの要素を持たずに魔素のみで結合した状態です、ですから魔石などは人の魔力を直に充填しなければ大概O3状態です)


(あぁ~なるほど!)


(H2OとO3、どちらも結果的に魔力であることに変わりありません、ただしそれぞれ品質はピンキリです)


(へぇー……あ、不純物とかの要素って何だ?)


(例えば怒りや悲しみ、妬みだとか慈愛だとか憎しみだとか、そういう意識的な要素です)


(……負の要素多いな……あれ? さっき出したばっかの石にもう魔力が貯まってんのか?)


(月晶石は他の石よりも引き寄せる性質が強いんですよ)


(あぁ、なるほどな、他の魔石じゃ魔力が空のままいつ貯まるか分かんねーから貯まる前にココでの用事が終っちまうなんてことにもなりかねないってことか)


(そうです)


(んで、ココはわざわざ魔女が国を築く程の土地だから、他の土地よりも魔素が濃くて すぐに魔力が貯まる、……と こういうワケか)


(ええ)



 つまり、すぐに使い物になるようにと、わざわざ月晶石を選んだということだ

 やっと理解してスッキリした勇人は茶菓子をひょいと摘んでシリウスの口へ運ぶ

 さくさくと香ばしく、勇人はふにゃりと幸せそうに味わった


 科学者(仮)二人は あーでもないこーでもないと勇人とシリウスを放置して先程の作業部屋に行ったり別の部屋に行ったり外に行ったりどこかと連絡をとったりと、二人の世界から戻ってきそうに無い


 そのまま寝落ちして……眼を覚まし……寝落ちして……眼を覚まし…………



「おい、もう夜中なんだが」


「聞こえていませんよ」


「……こいつら便所とか大丈夫なのか?」


「他人の生理現象など知ったことではありません」



 勇人の見る限りだが、二人は食事だとかトイレだとかそういった行動は一切とっておらず、寝ていた間のことをシリウスに訪ねても勇人が見ていた時と変わらないという話だった


 彼らは研究に没頭して寝食その他諸々を忘れるこういった人種向けの下着(意味深)を着用しているわけだが、当然のことながら勇人はそんなこと知るはずもなく、シリウスは透視で確認ができるがそんなことには毛頭興味が無い、つまり端的に言うと どうでもいい


 三大欲求よりも探求欲が勝っている彼らは、その後 勇人が盛大に良い匂いをさせて用意した夕食をシリウスが喰らい尽くす間もこちらに眼を向けず、声を掛けても今重要なところだからと後回し


 ついには二人は翌日の昼まで放置された



「おーい、いい加減にしろ!」



 正しくは、放置を強制終了させた

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