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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
泥をまさぐる(仮題)
75/144

06

「これ、ぅんまいだす!」


「そうか、それは良かった」



 勇人が口にするような類いの料理しか注文しないレプスにラドゥは奢りということで魚料理や鳥料理を注文する


 最初は遠慮していた彼女だが、カミシロだったら遠慮なく食べろと言うのではないか、とレプスを諭したところ、何とか納得したようだ


 善意が無いわけではないが、勿論レプスを元気付けることだけが目的ではない

 ラドゥはレプスが出された料理を器用にナイフとフォークで骨と肉を取り分けていく様子をじっと注意深く見ていた



(……多少ぎこちないがしっかりと作法が仕込まれているな)



 国によってテーブルマナーにも多少の差異はあるが、共通している部分は多い

 そういった振れ幅を抜きにしても、レプスの作法は貴族のものだ


 骨の付いたままの肉料理、魚料理、スープ、デザート、食事中食事後のカトラリーの置き方

 流石にコース料理に誘うことは難しいので、コースで出そうな料理を色々な店で個別で注文して探ってみていた


 字を書いているところも何度か見たが、彼女の頭の中には手本となる整った字の形があり、ソレに近付けようと書いているように見え、長文の纏め方にもそういった様子が伺える

 食事や読み書きに限らず、あらゆる行動の端々にそういったものが潜んでいるようにラドゥには感じられた



(……ふぅむ)



 勇人達が留守にしている間にこつこつと懐柔しただけあって、幾らかの身の上話しも彼女から聞き出すことに成功してはいるが、その中に貴族を思わせるような要素は無い


 文字は実家が小さな商家だったことから共通語を覚えており、親が貴族の落とし種ということも無く、帳簿に関係のある単語が辛うじて読める程度だったそうだ

 勿論、貴族ではないので学校に通ったわけでもなく、近所で読み書きができる者は殆どいなかったらしい

 そして読み書きができてもそれは共通語ではなかったそうだ


 逆にレプスの方が親よりも堪能だった程で幼い頃から共通語に触れていた為に堪能になったのだろうとレプスは思っており、彼女の話しでは親もそう思っていたらしい


 兎に角、限られた環境でそれ以外に共通語を覚えた経路が思い至らない、という状況だ


 テーブルマナーについてもそれは同じで、基本的に食事で使う道具はスプーンであり、切り分けが必要な料理は予め切られた状態で配膳され、ナイフやフォークは田舎を出るまでは使ったことが無かったという話を聞いている


 では神属してから覚えたのかと問えば、最初に面接があり その中で共通語の受け答えが少しと、その後に読み書きができるか試験を受けただけだという

 恐らくその時の試験結果によりレプスはこの任についているのだがそれは兎も角として、教団でもやはりカトラリーについては田舎と同様だったらしい


 ならば勇人たちから……とも思ったが、その考えはラドゥ自ら即座に否定した


 普段から同席する食事の席で見る限りでは彼らの食べる所作は美しいものの、ソレは基本的にハシを用いた所作でありラドゥにはその作法が正しいのかどうかすら分からない

 レプスの故郷に合わせてか彼女の為にスプーンは出すものの、スプーンは作法が曖昧なことが多い部類のカトラリーであり、彼女の他はハシ以外のカトラリーを殆ど使用しないようだ


 稀に使ったとしてもそれは貴族の作法とは全く異なる、これらのことから勇人達から教えられたわけではないだろうと判断する

 第一、"ハシ"自体が希少なカトラリーであり、ラドゥが知る限り国単位で一般的に使用している国家は無い


 今回、テーブルマナーの確認をしようと思ったのは入国税に関して問い合わせる書類を書いたところを見た為だ


 シリウスは共通語を書くが読み易さを追求した書体であり美しさというものは端から求めてすらいない、勇人が考え口にした文章は事務的なものが極まったようなもので、軍の報告書でもここまで簡潔ではないだろうという程の分かりやすさだ、レプスの身の上話しが無かったとしても、このことから読み書きを教えたのは勇人たちではないということが分かる



(……ざっと総合して考えると まだ社交界入り前の……それどころか家庭教師に作法を教わっている最中の幼子のようだな)



 ダンスや礼儀作法などもできれば確認したいが、その辺りのところを確認できるような巧い誘導先が思いつかない以上はこれ以上調べようが無い


 ラドゥがこのようなことを気にするのは勿論理由があってのことだ

 もしもシリウスが、ラドゥ達一族が探している本人でなかったとしても血縁であった場合

 ……今のところ根拠と言えるものは何一つ見つかっていないが、他人の空似では済ませられない程の容貌だ、無関係ではないと思いたいところだが、まぁ希望的観測がそのまま現実になったとして、だ


 何か繋がりになる人物が必要だろう


 例え血縁だったとしてもシリウスがラドゥ達の下に根を下ろすとは考え難い

 となれば、シリウスと勇人 二人が眼を掛けているレプスを取り込むのが最良だという考えだ


 できれば、彼女に根を下ろしてもらいたい

 読み書きやテーブルマナーなどを考慮すれば、良家の仕事を紹介してもいい

 上下関係が発生することで気まずくなることも考えると出来れば避けた方がいいが、本音ではシリウスとの繋がりを考えればラドゥの実家や本家での仕事を作り紹介するのが一番良いだろう


 勿論、打算だけではなくラドゥは本心としてもレプスを善良な好ましい人物であると思ってはいるが、それはあくまでも他人に対する評価であり、身内に勝るものではない


 シリウスはラドゥ達が探すその者の名を知らないとは言ったが、それが真実であるとは限らず

 本当に知らないのだとしても、シリウスが認識していないだけで繋がりが在るという可能性は捨てきれない


 やっと掴んだ糸を手放す気は更々無いのだ


 ……ただ、せめて

 シリウス達のように、この娘が幸せになる手助けはしてやりたいとは思う



(……さて、国に誘う前にどれだけ懐柔できるか)

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