表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
泥をまさぐる(仮題)
73/144

04

「では、この書類への双方の署名を以って納税の完了とさせていただきます、この部分に署名をお願いします……ありがとうございます、ではこちらの入国許可証をお受け取り下さい、滞在中はこの入国許可証を常に携帯していただくことになります」


「あ、はい」


「また余剰分の買い取りについてもこちらの窓口で処理しておりますので手続きを引き続き行わせていただきます、買い取りについての書類はこちらになります、こちらからの支払いについては現金・同価値の現物・及び総合ギルドにお持ちの口座を指定していただいた場合にはそちらへの振込みが可能になっています」



 現物できっちりと過不足無く払うというのも難しい為、勇人たちのような場合に手間を省く為に同じ窓口での処理となっているのだろう



「んー(口座でいいか)」


(ええ)


「じゃあ……口座……で、よし、お願いします」


「ひ、う、承りましたっ」



 勇人がごそごそとシリウスの懐を探って引っ張り出し提出したギルド証を見て職員の表情は青く凍りついた


 ユェヴォルグ・ウル……目の前の男が誇張でなく化け物だという事実に、強烈な眩暈が職員を襲う

 ここは原始の魔女の国、魔女も囲われた男達も並以上の者達ばかりだが、それでもアーシャルハイヴの最高位を退けることができるかどうかは分からない


 彼女にできることは、可能な限りこの男を刺激せず、注意喚起を発令することだけだ

 だが、襲い来る寒気と眩暈は体の動きを鈍らせ、思ったように動かない


 なんとか神経を逆撫でしないよう手が震えるのを抑えながらギルド証を受け取り、手続きを済ませ、粗相の無いようにそれを返却する、大きく息をつきたくなったがまだ我慢だ



「手続きが、完了しました、後日、支払われます、ので、何かありましたら、ご相談、くだ、さい」


「はい、えーと、じゃあこれで手続きは全部終りで後は入国してもいいということですね」


「は、はい、入国に、おきましては、ご入用であれば、護身……用の、魔具を、貸し出して、おりますので、一番端の、あちらの、窓口で、入国、許可証を、提出……した上で、お求め、下さい」


「ああ、はい」



 窓口職員の女性はすっかり脅えているが、勇人たちにできるのは早々に離れてやることだけだろう

 そう思って護身用の魔具……まぁつまり男をかどわかされない為のアイテムを貸してもらうためにさっさとこの場を離れることにした


 一方、なんとかこの場を乗り切った職員は注意喚起を出そうと思ってはいたが、引いた血の気がそれを許さず、勇人達が離れると張っていた気が緩み ずるずると座り込む始末



「ちょ、大丈夫アンタっ?!」



 座り込んだ職員に気付き、窓口奥で事務作業をしていた同僚が彼女の元へ駆け寄るが、ろくな返事もできずにいる


 既に入国者の情報は共有されているが、魔具の貸し出し窓口にいるのはまだ年若い青年だ

 アーシャルハイヴの恐ろしさなど、噂話を聞いたとしても誇張された眉唾物だとしか思ってはいないだろう

 なんとかそれを自分を支える同僚に伝えたいが、どうにも言葉が出せずにいる



「すいません、魔具を借りたいんですけど」


「あ、ええ、はい」



 入国税の支払い窓口の方の騒ぎが気にはなるものの、業務が優先されると貸し出し窓口の職員は勇人たちに対応した



「魔具を借りる方の入国許可証の提出をお願いします」


「はい」



 勇人が先程 二枚一緒に受け取ったまま仕舞わずにいた入国許可証のシリウスの分を提出すると職員が受け取って登録情報と照らし合わせる


 ぴくりと職員の表情が変わったが、勇人はそれを黙殺した

 どうせ反応した部分はアーシャルハイヴの部分だろう

 ……問題は、その後だ



「確認させていただきました、問題ありません、入国許可証をお返しします、……ではこちらの魔具の中からお好きな部位に装着するものを一つお選び下さい」



 職員が窓口カウンターの下から薄いクッションが敷き詰められたトレイをカウンターの上に載せる

 その上には様々な形状の装身魔具が並べられていた



(どれもマトモな石ではありません、効力は気休め程すら無いでしょう)


「へーえ」



 シリウスの見立てで、すぐさま魔具に嵌め込まれた魔石が役に立たない屑石だと判断される



「とりあえず、一番動きに妨げにならないのはどれだ」


「……それにしておきましょう」



 指輪やサークレット、腕輪、首飾り、耳飾り等々、並べられたそれらの中からシリウスは無難な腕輪を指し示す



「こちらですね、ではどうぞ、出国の際には必ずご返却下さい、また破損の際には場合によって弁償していただくこともありますので、取り扱いにはお気をつけ下さい」


「取り扱いね、ああ、うん、えーと、価値が上がった場合も弁償になんのかな? それとも差分の代金でも払ってもらえんのかな?」


「は?」


「あーいや、いーやいーや、じゃあこれ借りてくから」


「あ、はい、どうぞ」



 アーシャルハイヴの筈の男が、あっさりと贋物の魔具を持っていく、その様子に、なんだこんな程度なのか、と職員の青年は思ったがそれは顔には出さないよう魔具の貸し出し記録をつける


 それを装着しないまま、ヴェルグを待とうと待ち合いスペースの隅に行こうとした時だった



「よう、手続きは終ったか?」


「ああ、ついさっき」


「よし、じゃあこっちだ、着いて来てくれ」



 今出てきた通路を戻るヴェルグの後を勇人たちも着いて行く



「おっとそうだ、魔具は借りたのか?」


「あー……こんなのをな」


「……すまねぇな、ちょっと行ってマトモなモン出させてくっからここで待っててくれや」


「いや、これは石がマトモならちゃんと機能すんのか?」


「あ? あ、ああ、マトモな石がついてりゃな」



 ヴェルグが苦虫を噛み潰したようにそう吐き出すと、シリウスが勇人の手に持たれていた腕輪の魔石周辺をついっと指先でなぞる

 するとヴェルグの目の前で嵌め込まれた魔石に隣接した部分の金属が融解し、シリウスはそこから屑石を摘み上げ勇人の手の平に落とす



「っ……おい」



 ヴェルグの制止を無視するシリウスはぐっと手の平を握り込み、その後開かれた手の平には、ころりと先程外した屑石と同じ程度の大きさの月色の石が転がっている



「月晶石っ! あんた、月の君か?!」


「はぁ?」



 掴み掛からんばかりの勢いのヴェルグを、シリウスは厭そうに一歩引いて避けた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ