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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
泥をまさぐる(仮題)
72/144

03

「ってぇな兄貴風吹かせやがってこの暴力野郎!」


「言葉が通じねぇヤツにゃァ通じる言語で話し掛けるしかねぇだろうが!」


「そりゃ俺のことかクソ兄貴!!」



 爺と孫、百歩譲って老け顔の父親と遅くにできた息子といった外見の男二人が客の前だと言うのに派手に殴り合うが勇人もシリウスも特に驚きは無い

 あえて驚くとしたら、ここまで外見年齢が離れているのに兄貴だの何だのという言葉だろう

 まぁ養子とか同じ師に就く弟子同士の弟分とかの線もあるので、おかしいと言う程でもないが、視覚と聴覚の齟齬を感じずにはいられない光景であることだけは間違いない



「今までにも散々注意したにも関わらず毎度毎度テメェは」


「そうやって甘やかすから付け上がるんですよ」


「ッ……そうだな、すまん」



 暫定兄が更に説教を続けようとしたところに、寒々としたシリウスの言葉で水が差された



「ハァ? 甘やかすだァ?」


「鑑定士のクセに節穴かよ、爺さん、他の鑑定士頼めるか? アンタができんならアンタでも構わない」


「ふし、……ンだとこのアマァ!」


「言われても仕方が無ェと思わねぇのか!」


「ぐっ?!」



 今度こそ手加減無しに意識を刈り取られ、ウィルグはどさりと床に伏す

 無様に倒れたところを猫の子のように襟首を掴まれたウィルグは鑑定室の外で待機していた職員に向かって放り投げられた



「悪ィがソイツ、お袋の塒にぶち込んどいてくれや」


「はいはい、まったく程々にして下さいよ、心の広いお客さんばかりじゃないんですから」


「おう、面倒掛けちまってすまねぇな」


「じゃあ後は頼みますよ、その現物は鑑定が終ってもこの部屋に置いといて下さいね、部屋から出しておくと影響受ける人が出てしまいますからね」


「ああ、分かってる分かってる、行ってくれや」



 扉を除く総ての壁面に沿うように配置されたテーブルの上に並べられた品々を鑑定し用紙に記入していく老人の手元を見ながら勇人が口を開く



「ここじゃソレを鑑定できるのはさっきのヤツだけだって聞いたんだがな」


「ああ、俺が引退したからな」


「なるほど、確かに嘘は無かったわけだ」


「すまねぇな、百二十年ぶりに親父が見つかった時の子供だから子育てをすっかり忘れたお袋が甘やかしちまってよ、後から気付いたお袋が自ら矯正しようとしたんだが大分遅かったみてぇだ、まぁ俺も結局はこうして甘やかしちまったわけだが」



 人前で客が怒り出す前に怒鳴りつけて有耶無耶にすることで庇う、この老人がやったのはそういうことだ

 当の本人は庇われていることに気付いてすらもいない



「あー……(マジで血が繋がってんのか)えーと、爺さん少なくとも百二十歳越えてんだな」


「あ? ああ、嬢ちゃん長命種に会うのは初めてか?」


「嬢ちゃ……ぁー、いや、初めてでもないが、そんなに年の離れた兄弟を見るのは初めてだな」


「そうか、そういや外じゃあ珍しいかもな、前の親父はドゥルアグ族……まぁ兎に角長命種で、寿命をまっとうして死んだんだが、生まれ変わった親父は今度は短命種でな、その生まれ変わった親父との間に生まれたのがさっきの愚弟だ、短命種だと思うとついつい甘やかしちまってな、嬢ちゃん達にゃ迷惑掛けて悪かった」


「へぇ(ドゥアルグ族って何だ)」


(ドゥルアグ族です、ラノベ的に言うと巨体のドワーフです)


(あーなるほどな)


「モノはここに出てるモンだけか?」


「ああ、二人分の入国税に足りそうか?」


「余るくらいだな、こっちが鑑定額、隣が査定額だ」


「……現実的な金額じゃないな」


「少ないか? 悪ィがこれ以上は出せねぇぞ」


「いや、巨額すぎるって話しだ、俺は一介の小庶民なもんでね」


「うん? ああ、そうか、この生業をやってると金銭感覚は合わねぇからな、まぁ多いに越したこたァねぇさ、ちょうど需要があっからこの値段で引き取らせてもらうことになるが、余剰分についても買い取らせて欲しい、支払いは金でも別の物品でも大抵は対応できる」


「へぇ、需要ね、それで核出せと言ってきたわけか」


「そうだ、こっちの都合だが申し訳なかったな」


「まぁそんなこともあるさ、核は出せないけどな、加工できる腕の持ち主を探してんだ」


「なるほど、そりゃ出せるわけねぇな、詫びに扱えるヤツを紹介できるかも知んねぇ、核を見せてもらえるか?」


「ああ、いいよ」



 事も無げに取り出された大ぶりの核が手渡され、老人は肝が冷えていく

 渡した瞬間に盗られるという可能性を、この娘は全く考慮していない


 余程平和ボケしているのかと普通は思うだろうが、そうではないことは老人にはすぐに判断できた

 盗られても、瞬時に取り返せる、否、相手の手の内に握られている状態ですら、問題にならないと言っているということだろう


 それは この娘を抱える男によって、一瞬で覆せる、考える必要すらないと



「あぁ……こりゃ、すげぇな、想像以上だ、こいつがありゃあ随分と助かるんだが、仕方ねぇ」



 戻された核を受け取った勇人は、ずぼりと雑に荷袋に突っ込む



「悪いがこれは駄目だ」


「ああ、分かってるさ、どんな風に加工してぇんだ?」


「こいつを均等に砕いて風と火の属性を付与してもらいたい」


「砕く、そりゃあ惜しいな……二つに砕くのか?」


「いや、そうだな……(現時点で風と火の浄化持ちは何人いるんだ?)」


(正確には知りませんがそれぞれ二百人程はいるんじゃないですか)


(……多いな)


(土以外の浄化は力を大きく保つ必要がありませんから大陸を満遍なく覆えるように分割数が多いんですよ)


(なるほどな、んー……あるかどうかは兎も角 将来的な増員分込みで六百ぐらいに割ったら屑になっちまうか?)


(恐らく大丈夫ですが足りなければ追加で獲ってくるだけです)


「んー、粒揃えて六百ぐらいに砕きたいな」


「ろっぴゃく……ああ、いや、未練がましくてすまねぇ、分かった、扱える人間は心当たりがある、俺の紹介でいいなら紹介する」


「頼むよ」


「よし、じゃあ、支払いの手続きを済ませちまおう、終ったら案内する、俺はヴェルグだ」


「ああ、俺は勇人、こいつはシリウス」


「そうか、よし、査定書が書き上がった、これを窓口に提出して入国税の支払いと余剰分の売買を完了させてくれ、俺ァここを施錠して職員に引き渡すから窓口前で待っててくれや」


「分かった」


「窓口への案内はいらねぇな?」


「道は覚えてる」



 鑑定はあっさり終り、二人は受け取った査定書を手に窓口へと戻った

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