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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
泥をまさぐる(仮題)
70/144

01

「入国したいんですが」


「はい、ではお手続きの後、入国税を支払っていただくことになります、こちらの書類に必要事項を総て記入した後、あちらの窓口にご提出頂きます、税額や支払い方法の他に注意事項なども記載してありますので書類を読み飛ばししないようお気をつけ下さい、記入に際してはあちらのカウンターに筆記具がありますのでご自由にお使い下さい、また、カウンター以外での記入も可能ですので混雑の際には局外での記入もご一考下さい」


「わかりました……あぁー……、これ経費で落ちんのかな」


「多分落ちませんね」


「あの、入国税の支払いって領収書貰えます?」


「支払い時に言っていただければ発行致します」


「分かりました、ありがとう、えっと、書き損じ用にもう一枚申し込み用紙貰えます?」


「どうぞ」


「どうも、えーと、あと忘れもんないな」


「取り敢えず、一旦離れましょう」


「ん」



 勇人一行は込み合ったカウンターには近寄らず、取り敢えずレンレーファの入国管理局舎を出た



「ぁー……取り敢えずレプス、悪いんだけど教団に問い合わせしてもらえるか?」


「何をだすか?」


「入国税を払わなきゃなんだけど、ちょっと金額がなぁ……」


「……………………ヒェッ?!」



 勇人が先程受け取った申し込み用紙の一部をそっと指差すと、暫しの沈黙のあとレプスがずさっと遠ざかる

 心臓のあたりを庇うように手を添えて脅えるレプスの様子にラドゥも用紙を覗き込むと、ご立派な金額が記載されていた



「ほう、これはこれは、噂には聞いていたが、脚色の無い事実だったとはな」



 滞在期間が例え十分だとしても一ヶ月だとしても金額は変わらない、入国税額一人三億クレヴ、一昔前の掛け捨て保険のように、出国したからといってキャッシュバックは無い

 因みに出国税は発生しないがお得感は皆無だ


 冗談のような金額だが冗談ではない

 この金額は牽制を兼ねており、こんな馬鹿のような額を払ってでも入国したいという一部の人間だけがそれを払う


 魔女の国に入国したいなどという者は、大抵ロクなモンではない、この額を払ってでもどうしても入りたいのか、と こうして篩いに掛けることで多少なりともリスクを減らしておこうというわけだ、そしてそれでも入国して来る者は"獲物"である


 どこの魔女の国でも入国税は高いが、この国は殊更に高い

 ラドゥによれば冗談のような額の噂だけは多くの者の間に流れていたが、彼は高いとしても尾ひれ背びれが付いたものだろうと認識していたらしい



「……経費として落ちるか、聞いてみてくれるか?」


「わ……わが、……わがりますだっ」


「一応、何で入国する必要があるのかとか、一通り経緯を書類で提出するから、それ添えて」


「は、は、はいだすっ」



 片田舎の家族経営の小さな商家の娘には非現実的な金額に妙な動悸息切れが止まらないレプスはふらふらしながら入国管理局舎に隣接するギルドの中に入っていく


 その後を勇人たちも着いて行く、大丈夫かと声を掛けたいところだが、下手に声を掛けると心臓が止まりそうな様子のレプスに迂闊に声を掛けることも憚られる



(右手と右足が同時に出てるな……)


(なかなか古典的な動揺の仕方ですね)


(古典的とか言うな)



 窓口で通信用の申し込み用紙を申請するレプスを待つ間、テーブル席を確保した勇人たちは、早速座って高額の入国税が発生する国へ入国しなければならない経緯などを書類に纏める


 書き込むのはシリウスだが、文書を考えるのは勇人だ

 ラドゥは頭数に入らないとしても三人分で九億、どう楽観的に考えても無理だろうが、聞くだけは聞く



「あ、レプスこっちこっち、おーい」


「はゎっ?! は、はいだす!」



 申し込み用紙と書類用の箱を受け取ったレプスがふらふらとギルドの外へ歩いて行こうとするのを呼び止めると、レプスはびくりとなってきょろきょろと勇人を探し、他の客にぶつかりそうになりながら慌てて勇人たちの下へ戻る



「んじゃ、この経緯を書いた紙と、予備で貰っといた入国申請書類、一緒に頼むわ」


「は、はひだひゅ!」



 ぷるぷるしながら書類を入れた箱に、早急に要返信と書き加えた申し込み用紙を添えたレプスはぎくしゃくしながら再び窓口に向かい、職員から通信札の提示を求められて慌てて荷袋の中をかき回した

 探し物というものは焦っている時に限って中々見つからないもので、レプスは職員に無言で見つめられながら半泣きの末、やっとの思いで通信札を提示する


 そんなこんなで三十分後、意外に返事は早かった



「……だよな」



 九億などという馬鹿げた額にそうそう許可が下りる筈も無い

 元々、上はわざわざ現状を変える気などないのだ、今のままで充分に神子と浄化の力の管理ができていると考えている

 良し悪しは兎も角としてバランスはとれているのだから無理に体制を変えてわざわざ面倒ごとを増やしたくは無い、というのが隠す気も無い露骨な本音だろう



「あー……取り敢えず、ここ読む限りではその価値があれば物品でも可、とは書いてある、まだ何体分か売らずに残しておいたのがあったよな、アレ、九億分あるか?」


「さあ、わたしはそういった眼は持ち合わせていませんから専門家に見てもらうしかないでしょうね」


「だよな」


「あ、あのぅ……」


「ん?」


「お、おら、留守番すでるだなす」


「あー……いいのか?」


「はいだす」


「ならば、わたしが彼女の護衛を務めよう、女性の一人歩きは物騒だからな」


「おねげぇします!」


「……ヨロシクオネガイシマス」


「ああ、貸しにしておこう、しっかりと恩に着てくれ」


「……アア、ハイ」



 こうしてラドゥへの貸しはこつこつと地道に蓄積されていた

何とか更新に間に合いましたが、かみすぎて鼻の皮が……薬塗ってもすぐ鼻かむ羽目になるんで一緒に薬も拭き取れちゃうし、薬は六時間空けて飲まないとだし、鼻かみすぎて水分足りなくなるし……うぅぅ


ところで、章タイトルが結局仮題のまま今章も仮題……orz

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