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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
奈落へ昇る(仮題)
68/144

06

「タイム」


「「たいむ?」」



 すとんとシリウスの膝から降りた勇人はシリウスの手を掴むと部屋の隅まで引っ張っていき、屈み込んで面を突き合せる


 因みにシリウスの空いた手にはしっかりと大皿と箸が確保されていた、成人男性の握り拳並の角煮がひょいひょいとその口に消えていく

 開いた口の大きさと角煮の大きさがどう見ても合ってないだろ、という突っ込みは哀しいかなどこからも無い



(おい、なんか流れがおかしいぞ、っていうか流れがヤバイぞ)


(見たことがありましたか)


(無い、けど聞いたことはあった、前の浄化ン時 最初上から渡された荷物に路銀なんて入って無かったからな、すぐに巫女たちから財布渡されて管理はしたし途中薪売ったりもしたが、それだけにしては幾ら肉類は現地調達とは言えお前ら大食い四人の胃袋満たし続けても財布が空になることも無く何時の間にか補充されてたし、魔属退治は基本奉仕だし途中お袋さんが患者を診ることはあっても基本タダだったから財源は何かと思ってな)



 共働きの両親に代わり自分達を育ててくれた祖母を手伝って家計管理もしていたので、シリウス並の大飯食らいが他に三人もいれば否が応でも財布事情は気になる

 ツケだったりして後で借金にでもなっては大変だと巫女の一人に聞いた時に教えてもらったのだ


 今し方ラドゥが見せた薬指の刺青がその時に教えてもらった財源でまず間違いないだろう

 確か上位の貴族階級以上で一般的な婚姻の証しだ


 シリウスが元々所属していた教団以外にも多くの宗教がやっている副業とでも言えばいいだろうか

 料金は寄進という形で支払われるが、払われる額は払う者の見栄が多大に影響されている


 勇人は実際の現場を見たことは無いが浄化の為に御山から下りて下界を練り歩いていた時、足りない食材の為にちょくちょく町へ寄っていたがその時は巫女たちと別行動をとることが多かった、恐らくその時にカップルを祝福して寄進を得ていたのだろう


 どうせ見掛けだけの飾りのようなものなんだろうと勇人は認識していたが、こういう話の中に出てくるということは、精神感応系の術に対して力を発揮するのものだということだ


 権力持ちや金持ちがそういった術に掛けられると困るということでそういった術を施すのだろうが、だったら子供のうちにやっておけと言いたい



(何で結婚を機に今更そんなもんすんのかね)


(魔女がコレを怒らせたんですよ)


(ぁー……ソレか、嫁がいたんだっけ)



 コレと額の第三の眼をシリウスが箸で指すと、うんざりとした顔で勇人が思い出す

 確か嫁がいて、その嫁のお陰でシリウスの義母親は死後とはいえ事無きを得たことがあった

 つまり、ラドゥの言う"既婚者だろうが構わず奪い取る"をやろうとして怒らせたわけか


 まぁ現代に伝わっているその刺青がオリジナルを再現できているかどうかは知らないが、それは兎も角として、だ


 一時的に指輪を嵌めてフリをするだけなら兎も角、刺青はまずいだろう、刺青は

 そんなもの入れて帰れば何と言われるか……


 諸々あって取り上げ損なった薙刀をぶん回し怒髪天を衝く祖母をやけにリアルに想像した勇人は ぶるっと身震いをして腕をさする

 問題は刺青もそうだが、その場所と形状が一番の刺激理由だろうと思うが口には出さないシリウスだった



(兎も角、指輪とかそんな女の子が喜びそうな話題出されても困る、お前何か違うネタ……お前にゃ無理かぁぁぁああああああッ!)


(思い出していただけて光栄です)


(いやでも待てよ、レプスは父親のせいで結婚について拒否反応持ってる可能性もあるよな、そこを突……いやダメだろソレ、下手すると一生独身宣言とか、十代の女の子の人生には影響がデカすぎる、えぇえええ、なんかうまい回避うまい回避)


「二人の永遠の愛を強固に御守りするんだべな! そりゃあ祝ってもらわなきゃなんねぇべ! 貴族じゃなぐでもご寄進ばすればやっでもらえんならやっだ方がええべな! おら結構貯金ば貯まっできだから、がっつりご寄進するだなや!!」


「まてまてまてまておいこらおっさんタイムッつったろうがぁぁあああああああ!!」


「タイムで通じるわけないでしょう」


「早く言えよそれぇぇええええぇえええええええっ!」


「腹に力を入れるなと何度言わせたら気が済むんですか」


「今日まだ一回目だよ!」



 発狂する勇人を抱え直したシリウスはイスに座り直して腹部を固定し、すっかり角煮が消え失せた皿からぷるんとした煮凝りを摘み上げて勇人の口の中に放り込む


 ラドゥは手袋を嵌め直した手で食事を再開しながらその様子を眺めた

 先程の反応で婚姻の輪を知っているというのがどうも意外に感じてならない

 普段の様子から夫婦だろうと中りをつけていたが、両者のその指に輪が無いことから貴族の出身ではないだろうと思っていたからだ


 市井ならば夫婦であると周囲の人間関係に宣言する程度で夫婦になってしまうし、そもそも入れる籍も存在しない

 戸籍のようなものは貴族だけのものだ、もし同じような役割を持たせたいのなら、例えばシリウスはそれが可能だろう

 アーシャルハイヴの登録情報に配偶者を加えればいい、だが勇人の反応を見ると、どうもそういう風でもない


 多くは無いがアレも本人以外が閲覧できる情報だ、そういった層の人間に弱味を曝さない為にだろうか、それならば悪いことをした……とも思うが


 それなら最初から誰が見ても夫婦だと思うような素振りすら控えるだろう



(それに、時折見掛けるあの動き)



 勇人の口に煮凝りを運ぶ何回かに一回、その胸の辺りに箸を持っていくことがある

 ラドゥは自身の子供が幼い頃にそういうことがあったからこそ、彼には心当たりがあった


 アレは膝に幼い子供を抱いて食事をさせる時にする動きだ

 何も居ない勇人の膝に、まるで誰かが抱えられているように

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