05
「レンレーファば魔女の国さ言うことだすが、どげな国だすか」
「あー……基本的に女の国だな」
「それは少し省略し過ぎじゃないかい?」
「……そーっすね」
ラドゥの突っ込みに勇人は当たり障りの無い(つもりの)苦笑いで応じる
このおっさん、すっかりレプスを懐柔しており、食事時になると「おら呼んでくるだす!」とレプスがご飯コールをするようになってしまっていた
そのせいかどうかは分からないが、言葉遣いもわざとらしかった当初と比べてなんだか馴れ馴れしい
まぁ、水の都でシリウス達が荷(家)運びしている間中、祭りを楽しむレプスのお目付け役(という名のお守り)をしてくれたので、そのせいだろう
楽しい記憶の中に根深く蔓延る親切なおっさん(しかも、お小遣いは渡してあったのに財布を買って出るという)、そりゃ懐くわな
自分自身がそう育てられたのと幼い弟妹の面倒を見てきた経験から、食事で仲間外れというのも端から頭に無く
その上 勇人の微妙な空気を感じ取っているのか、このおっさんは毎回手土産付きであり、よく観察しているようで、しっかりとゼリーやムース、飴菓子など口の中で融けて形を無くすものを選ぶという誰をターゲットに絞れば一番効果的かを弁えたデキる男ぶりに、勇人はいかんともしがたいもやもやを抱えている
勇人に既婚で二世帯住宅な義実家同居の歳の近い女親戚や女友達でもいれば「アンタそれ二世帯でお互いのプライベートは守るからって同居捻じ込まれた上に、子供を舅姑に懐柔されて済し崩しに完全同居に持ち込まれてるよーなもんよね」と突っ込んでくれたかもしれないが、そんな女友達も親戚も存在せず、いかんともしがたいもやもやは消えないのであった
因みに言うまでも無く、現状の場合の夫は空気が読めていない、あるいは読めても我関せずとばかりに食事を続けるという、まんま現在進行形の誰かさんそのものでアウェー感半端ナく孤軍奮闘である、勇人本人にそういう自覚は無いとしても
「レンレーファとは国を興した魔女の名前であり大概の魔女の国と同じように女性主導の小さな国家だ」
「たいがいの……」
「世界は広大だからね、魔女は小さな国を作ることで自分達を守っている、要請があれば敵対国双方に魔女を貸与することもあるが、敵対国が同じ魔女の国に対して要請することはないだろうな」
ぱっと考え付くのは内通の可能性の話だろう、まぁそんなかわいい問題で済めばいいが、それは兎も角としてとラドゥは続ける
「魔女の国はどの国も基本的に女だけの国であり、生まれた子供が男であれば国の外で育てられてそのまま巣立ち、女であれば魔女になるならないに関わらずその国で生きる権利を得る、存在する男は基本的に流通の為の商人で、それも限られた区画にしか出入りできない」
「……男が嫌いなんだべか」
「魔術師との成り立ちの違いだな」
ラドゥの言葉に、なるほどと言いつつも分かっていなそうな顔でレプスが頷く
魔術師には男も女もどちらもいることを思い出したのだろう
「さて、レンレーファは魔女の国らしく女性主導国家だが、国内には男がいる、しかも一妻多夫が如実に現れた結果か女に比べて男が圧倒的に多い、それも強い男ばかりだ」
「男が好ぎなんだべな!」
「……レプス、その発言は、誤解されるからやめような?」
「?? はいだす」
ぐったりと勇人が言うと、やはり分かっていなそうな顔でレプスは頷いた
その様子にくっくっと笑いを噛み殺してラドゥは講釈を続ける
「レンレーファの魔女は原始の魔女と呼ばれる、通称 隷配と呼ばれる男たちを現代においても従えているからだ」
「れーはいだすか?」
勇人の耳には礼拝と聞こえるが、シリウスが閲覧した資料を覗き見した知識で違うのは分かっている
文字通り、隷属する配偶者だ
勇人が口に出したくなかったのはこの辺りに理由がある、配偶関係にあるにも関わらずその夫は妻に対し隷属しているし、成り立ちからして お世辞にも良いとは言えないだろう
その不穏な通称から想像できる通り、彼らは元は恋愛関係ではなく、政略や見合いで出会ったのでもない
「誰かの恋人であろうが夫であろうが、例え国家の要を勤める王であろうが、魔女が気に入れば力尽くで己のものとする」
「えぇえ?! 略奪婚だべか!!」
「いや、そーなんだけど、レプス、そういう言葉はなるべくな、な?」
「?? はいだす」
「兎に角、まぁ分かる通りそこに男本人の意思は考慮されない、……というか意思があるとすら思っていないかもしれないな、見初められた男は虜囚となって魔女が飽きるまでその傍に侍り、魔女の剣となり盾となる」
(……まんま典型的魔女なんだよなぁ、表面上ここまでは)
(別に魔女の繁殖方法まで教える必要はないんですから、これ以上話しはしないでしょう)
当然のことながら、魔女はただ見栄と自衛の為に強い男達を夫として侍らせるわけではないが、今回レンレーファに赴く目的はソレとは関係ない
用事が済めばとっとと撤退する予定だ
「……あのぅ」
「うん?」
「ほんどに、そっだらとごさ行ぐんだすか? シリウスさまやラドゥさまば危ねぇんじゃ……他のとごじゃ駄目なんだべか」
「他のところとなるとなぁ、道無き道を行くことになるんだよなぁ……」
「え?」
「船の交通網の外になら"他"も居るらしいんだが、そう悠長な旅でも無いしな」
支配階級の魔族から取り出した核を加工してもらうとなると、並みの職人ではだめだろう、その為に占ってもらった一番近くに居る扱える者というのがその魔女の国の住人というわけだ
「そうだすか……」
「まぁ心配するな、噂通りの国なら毒にも薬にもなれない小さな商人すら寄り付かなくなる、ちゃんと対策があるんだよ」
「えっ そうなんだすか?」
「そうなんだ、港で入国手続きができるんだが、そこで魔具を貸与されるんだ、それ着けとけば大丈夫だから」
「それはどうだろうな」
横からの突っ込みに勇人はぐっと黙る、余計な入れ知恵をするつもりじゃないだろうなおっさん
「入国管理局で賄賂が横行していれば見掛けだけの魔具を渡されるかもしれないし、魔女によってはそんなもの通用しない場合もある、そうだろう?」
「そ、そーっすね(おぃぃいい不安にさせるよーなこというなこのくそおやじぃぃいいいいっ!)」
「しかし安心するといい、世の中にはこういうものもある」
ラドゥが厳つい手袋から抜き取って見せた左手薬指の付け根には、刺青のようなものが輪状に入っていた
魔女の国云々は別の話しで考えておいたネタです、いつになったら書き始められるか分からないのでとりあえずこのあたりにでも
薬指の刺青は懐かしいですね、超滞ってますが一応書いてます、記憶から消去されているわけではありません、すみませんor2




