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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
奈落へ昇る(仮題)
66/144

04

(……どうすでこうなっだんだべか)



 むちゅっと妖艶なお姉さまがレプスの頬に唇を押し当てて、おっぱいたゆんたゆんの、おしりぷりんぷりんで濃密な色気を振り撒きながら去っていく姿を眺めながらレプスはひたすら手を動かし続ける



「いやぁんっ かぁ~わぁ~いぃ~いぃ~っ、あたしってばこぉんな感じなのねぇ~!」


「い~なぁ、早くわたしの番にならないかしら」


「が、頑張るだす!」


「あらいいのよぅっ、こういうのはじぃ~っくり腰を据えるほ・う・が」


「ず~る~い~っ」



 テーブルの向かいの席に座るラドゥの悟ったような生暖かく見守る眼差しがなぜだか痛い

 背後からレプスの手元を覗き込んでくる為に、非常に良い匂い(ただし、家庭的ではない)がレプスを包み込み、その後頭部には柔らかいものがむっちりと絶対的な安定感を与えてくれていた

 そんな姿が面白くないのか、連れと思われる大男が



「なんでェ カワイイカワイイって高ェ声出しやがってお前ェそんなタ「おだまり」へぶぅぅうううぅうううっ!」



 最後まで愚痴りきらないうちに泣き黒子のむっちり垂れ眼系美女によって傍にあったイスでぶん殴って黙らせられた

 比較すると背の高いシリウスよりも縦も横も一.五倍程の筋骨隆々の大男なのだが回転しながらぶっ飛ばされていく様はなんだかとても清々しく、爽やかな風を感じた……気がする


 周りの客は唐突な荒事に慣れているのか、大男がぶっ飛ばされてくる直前に阿吽の呼吸とでも表現すればいいのか、テーブルもイスもさっとどかし、進行方向先の屋台はガララと木製の車輪が音を立ててスライドした、鈍器として使用されたイスすら無傷で大男以外に被害はない



「外野は気にしないどくれ」


「ふぁい!」



 元気良く返事を返してせっせと編み物をするレプスをキャワィイ~っと女達が頬や頭を撫で回す

 レプスは彼女達をイメージしたあみぐるみを作っていた


 午前中に食料の調達を済ませた後、午後にはシリウスと勇人が危険を伴う採取作業に行くというので留守番を言い付かったレプスと、その保護者として名乗りを上げたラドゥは、翌日昼の船の出港までに戻るという勇人の言葉を疑いなく丸呑みに信じ込み

 午後には手芸店や雑貨店、食品の価格帯などを調べて夕食を購入し船の自室に戻り、翌朝は再び港に降りてざっと市場を調査した後、屋台通りのテーブル席を確保し朝食にありついた後だった


 中年とはいえ見目が相当整っていたラドゥを囲んで女達がみるみる集まり、相席で食事をしているレプスなど眼中に無いといった様子で、表面上はそうでもないが水面下では激しく争いながら粉を掛け始めるという事態になっていった、しかも、そのうちの何人かは連れ(男)がいるという、とても気まずい状態である



(まあでも、無視ばされでるんは助がるべな、まぎこまれでもすだら生ぎて帰れねぇがもすんねぇだ)



 対岸の火事なのでレプスは余裕だ、このままひっそりとやり過ごせればそれでいい

 朝食は食べ終わったが、ここで席を立つのも目立つのでレプスは時間潰しにあみぐるみを編むことにした

 ミサンガは屑石とはいえそれなりのものなのでこんな場所ではかっぱらいを気にして出せないが、毛糸ならば盗もうとする者はそうそういないだろう


 毛糸を取り出し、やっぱす美人には美人が集まるんだべな 流石モテる男は違うべ、と女達を当たり障り無く捌いていくラドゥをぼんやりと視界の端に留めながら、レプスは無心になって編み込んでいき、その小ささからあっというまに編み終わるかという頃だった



「もしかしてソレ、あたしかしら」


「へぁ?」



 ふ、と顔を上げると、おっぱい……の更に上にぽってりと肉厚でぷるんとした瑞々しさが特徴的な艶めかしい唇があり、レプスがピント調整にやや後ろに頭を引くと、今度は後頭部にぷにゅんと柔らかな感触が伝わる


 気が付くと、ラドゥに群がっていた女達はレプスに群がっていた

 当のラドゥは開放感を満喫するように葡萄酒を口にしており、更に通りすがりの売り子に声を掛けてツマミまで購入している



「上手いわねぇ、この耳と尻尾はルアニャ?」


「そ、そうだす、お、おねぇさんに耳ばくっづいてだら、かわいいべなと思っで」


「……かわいい」


「は、はいだす!」


「…………かわいい」


「そうだす!」


「やぁーだもー褒めてもなんにも出ないわよー!」


「ふむぐっ?!」



 たゆんたゆんのおっぱいがレプスの顔面を封印し、ぷにゅんぷにゅんぐりんぐりんもみくちゃにしているのを見て、遠巻きにデバガメしていた男の何人かが、鼻からたーっと醤油のように赤いものを垂らす

 呼吸ができないと知ってもこの男共は自分も同じようにされたいと思うだろうか、いや、どうでもいいけど


 編んでいたのは小動物の耳や尻尾の付いた可愛らしい姿で、来るべきレプスの女神さま出産に備え、子供に好かれるかわいい小動物のあみぐるみの修行を、と最初は作り始めたはずだったのだが、目の前の女達を見ているうちに方向性が曲がってしまったらしい


 最初は小娘が気を引く為に何か始めたと思いながら端目に様子を伺っていた女達は、その全容が明らかになるに連れあっと言う間にラドゥが眼中から外れ、レプスを取り囲んだ

 しかもかわいいとか言われるともうたまらない

 女達は美人と言われることには慣れているが、かわいいというのはまた別腹である


 結局、代金を払うので仕上がったら売って欲しいと申し出た女に続き、あたしもあたしもと依頼が殺到したというわけだ


 その後、葡萄酒を舐めながら敏腕マネージャーを務めたラドゥにより昼出航の船に間に合うように順番整理してもらい

 シリウスと勇人が合流した頃には客は捌けていたものの凄いことになっていた



「あ! お、おきゃえりなひゃいだふ!」


「……ただいまレプス、顔、すごいぞ」


「へぁ?!」



 どこの色宿に放り込まれてきたんだ、というようなへろへろの消耗具合だ、顔から首まで満遍なく女達の口紅の痕でべったりと埋め尽くされている

 女で良かったな、という感想しか出ない、男だったら幻世に堕とされたまま現世に帰れないほどの享楽を与えられていた可能性もあっただろう

 まぁ世の中には老若男女人外問わないぶっ壊れた者も稀にいるが


 娼婦のうろつく裏通りでなかったのが幸いしたといえば幸いだが、表通りをうろつく女も、大男をぶん殴る女やそれを当たり前のように認識する女は戦闘職ギルドに所属するような女傑と考えてまず間違いない


 そういう命の遣り取りが当たり前の修羅場に身を置いている女というのは生存本能が市井の女よりも強いことが多いのだ、つまりまぁ、あっちの欲が強いということだ

 特に女だけがどうこうではなく男も大体そんなもんだが


 それは兎も角、下手に庇うとムキになった女達に余計に弄られる可能性があったので、上手いこと捌いてくれたラドゥにはとんでもなく大きな借りが出来たわけだが、レプスがそんなことに思い至る筈もなく

 一見して表面上は何事も無く一行は船に戻り出航した

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