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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
奈落へ昇る(仮題)
64/144

02

「……ぁ、ぁあ~……大体分かった、ウチのばかが悪いことをした」


「い、いえ」


「えーと、死体? 持って帰んの? っつってももう跡形も無いしなぁ……お前元の形覚えてる?」


「全く」


「だよな」



 肉片から見た目だけでも再現したものをと思って一応言ってみたものの、手本が無くなった今となってはそれっぽいものすら作ることは不可能だ



「あ、でもほら、魔王なんて見たことない奴ばっかだろ、肉片はホンモノ使って造型はそれっぽいの作ればどうよ(とてつもなく前衛的だろうけど)」


「……あの、す、姿は各国で、把握、してお、おりますっ、魔術でせ、宣言を受けましたので、市井の者まで姿はみ、見ているのではないかと」


「……随分自己主張が強い魔王だな」


「自己主張が強くなければ"王"だなどと自称しないでしょう」


「うん、まあ、そうだな……えっと、じゃあ、呪い……」


「見たところ咒具ですね」


「そっか、じゅぐ、えーと、お前外せるだろ、それで手打ちってことにしてもらえよ」


「だそうです」



 だそうです、と言われても困る

 どうすれば正解なのかサーシャ達には分からない


 外してもらえるのなら これほど喜ばしいことは無い筈なのだが、どうしても怖気づいてしまう

 今も化け物……いや、三つ眼の男は女を抱えたまま屈み込んで解体作業に勤しんでいる



「あの、に、肉片を、す、少しでいいので分けて、いただけないだろうか」



 グラヴスが恐る恐る言い募る姿をサーシャ達は予期していたかのように受け入れた

 彼は、志願してこの旅に参加していたからだ、グラヴスには妻子がいるが、そのどちらも余命幾許も無い、報酬として最高位の治癒士の治療を願うと言っていたのを記憶している

 その為にも、魔王の死体は絶対に諦められないだろう



「ん? いいけど、証明できそう? あと、剣の弁償だけど……」


「この咒具は恐らく貴女が使ったものよりも価値は低いでしょう」


「え?」


「俺が?」



 グラヴスの声と女の声が被る

 咒具、と言ったのか、あっけなく破壊されたとはいえ仮にも聖剣のことを



「俺、そんなもん使ったことあったか?」


「ありました、あそこまでしておいてよく忘れられますね、空洞なんですか、その頭は」


「いたいいたいいたいやめろごめんわかったわかった」


「分かっていませんね」


「ぁ、あの……」



 女の頭に顎を載せてごりごりと抉っているところに恐る恐る弓使いのエンニムが声を掛ける、彼は同じ妻帯者ということもあり話の合うグラヴスと比較的仲が良い

 思考が追いついていない様子のグラヴスに代わって声を掛けたのだろう



「これ……が、咒具、とは、一体、ど、どう、いう……」


「聞いた通りです」


「いや、内容だろ、フレーバーテキストとかステータス的な」


「持ち主の極めて親しい人物の運や健康、寿命を吸い取って力に換えます」


「……ぇ」



 ひゅ、とグラヴスが息を飲む

 彼には心当たりがあった、妻子の他にも、体調を崩しがちになった幼馴染や度重なる不運に見舞われ遂には大怪我を負った父親、他にもちらほらと親しい者達の姿がその脳裏を過ぎる



「ぁ、あー……なるほど、分かった、ソレ系のな、うん、分かった分かった、えーと、絶対その仕様じゃないと駄目か? 同じような切れ味の業物を買うとか……」



 どうも、心当たりに思い当たったらしい女は、取り繕う為にかグラヴスに話しを振った



「……ぃ……ぇ、……それには、およびま……せん」



 見る間に気力が萎えていく様子のグラヴスは、床に座り込み頭を抱えてしまい、おれのせいだったのか、と小さく呟く



「いやえっと、あー、だよな、わざと使ってるとかそうそう無いもんな、うん、いや、大丈夫、まだ最悪なことにはなってないんだろ? どうにかできるからまずは落ち着いてくれ、えーっと、あんたは後回しにさせてもらって、まずは首のソレを外そう、それがいい、うん」


「では、こちらへ」



 こちらへ、と促されたものの、足が竦み、思うように動けない

 その中でも、早々に気絶したことで大した恐怖を受けていなかった巫女のリーリアが、仲間達の安心を得るためにか前に進み出ようとしたが、それを制して従魔獣士のギディガが前に出た



「ま、まず、俺がお願いしよう」



 何かあったら逃げろ、と眼で示しながら三つ眼の男達の傍に寄る



「もっと触れるくらいこっちに来て、屈んでくれ」


「あ、ああ」



 恐る恐る屈むと、つい今し方まで解体作業をしていた手が、ぬっとその首に添えられ、ギディガはびくりと後退りしそうになるが、ぐっと堪えた



「ひっ?!」


「な、」



 小さな悲鳴が一斉に上がったことにギディガはぎくりとなるが、彼は自分の首がどうなっているか自分では見えず、より一層不安が増す


 その首を戒める咒具は、皮膚と同化し、とてもどうこうできる代物ではなかったが、手が添えられると、間もおかずぼこりと同化した部位が浮き上がり、輪状になっていく

 そして肉はぶつりと分離し、頭一つが余裕で抜ける程の大きさの輪に成長していき、最後にはだらりと肉でできた首飾りのようになって垂れ下がる



「あとは普通に外せばいいだけだから、外したらそのへんに捨てとけばそのうち壊死するんだろ?」


「します」


「だとさ、んじゃ次、こっち来てくれ」



 彼らには事もなく促す女が、悪鬼に見えた

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