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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
ゾクブツのヨクボウ
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11

「ばーかばかばかばかばかあほうにさばてばささみ」


「それ悪口ですか、それとも生肉でも喰らいたいんですか」


「まぁまぁ」



 洞窟を三分の二ほど戻ったところで眼が覚めた勇人はずっとこんな感じであり、涼太郎は語彙力の足りない悪口によって気絶から覚醒した、なんとも微妙な目覚めである


 既に通り過ぎた擂り鉢状の洞窟内 最奥では、鉄塊が蜘蛛の巣に掛かった獲物のように宙ぶらりんに浮いていた

 その表面を太い蔦が絡め取り、蔦は洞窟内で鉄塊を中心に放射状に広がり壁面に穿たれている

 これは暫くこのままだ、通路を広げるにしても擂り鉢状のこの空間の天井をぶち抜くにしても幸治郎に処遇を判断させる方がいいだろう


 足元が滑り易い為に涼太郎は洞窟を抜けるまではシリウスの背に負われたままだが、それも間も無く終る



「ああ、やっと明るくなった、ここは逆さではないんですね」



 すぐ眼の前にある筈のシリウスの後頭部もその横の勇人の顔の輪郭すらも分からない、そんな闇の中にあっても二人の声が涼太郎を不安にすることは無かったが、それでも明かりを見れば安堵の息が小さく吐き出された


 洞窟の出口が見え、その向こうの雑木林を見て涼太郎は安心した、食い込まないように帯状の蔦で固定されてはいたが、それでも長時間同じ体勢をとっているとシリウスの癒しがあるにも関わらず体が軋むような感覚がしているらしい

 恐らくそれは気持ちの問題で、慣れ不慣れというやつだろう

 勇人にはそういった感覚は疾うに無い


 明るくなったし足元ももう濡れていないようだ、と涼太郎が歩きたがったこともあり、暫くぶりに彼は地に足を着けた

 二~三度足踏みをして確かめた涼太郎は早速歩き出す



「道が悪いので気をつけて、ゆっくり歩いて下さい、洞窟を出ても道は暫く獣道が広くなった程度です」


「ありがとう、気をつけるよ」



 出口に差し掛かると、行きに灯りと軍手を渡してくれた男がそこで待ってくれていた



「ありがとうございますっ、無事に生ま……りょうたろうおじさん?」


「君は、……康祐くんだね?」


「そ、です、お、ひさし、ぶり、です、そんな、まさか、あえるとは……っ!」



 恐らく以前の姿と似通った所は何一つ無いだろうにそれでも涼太郎は言い当てた、それはシリウスにはまるで及ばずとも一般人よりは多少良く利く眼のお陰だろう



「わたしも会えて嬉しいよ、元気だったかい?」


「はいっ、はい、元気です、小父さんは」


「わたしもこの通り元気だ、案内してくれるかい?」


「勿論です! 幸治郎伯父さんも喜びます、良かった、早苗伯母さんも元気です」


「早苗さんも元気でいるのかい」


「はいっ 実は伯母さん妊娠してまして、小父さん彼女をご祈祷していただけませんか?」


「えっ?!」



 思わず声を上げた勇人に、涼太郎は振り返る



「どうしたんですか?」


「あぁ、いえ、……えっと」


「大丈夫です、遠慮なく仰って下さい」


「えーと、いや、あの、幸治郎さん……見た感じ小学生くらいなのにって……思い……まして」


「ああ、確かに見た目は小学生くらいですが大丈夫です、伯父は長命種でしてああ見えて八十年は生きているんですよ」


「へ……へぇー……」



 現時点で子供の肉体なのに、八十年生きてるとかそんなもん関係あんのか、勇人がそう思ったように涼太郎もそう思ったらしい

 不自然な沈黙が空気を冷たいものに変えつつあった



「あ、でも早苗伯母さんは見た目の通り十四歳で初産だから皆でしっかり体調を気遣って万全の態勢を整えてあげないと、ってお袋が」


「康祐くん」


「はい?」


「この道をまっすぐ行けばいいのかい?」


「あ、はい、三~四百メートルほど進めば俺達が暮らしている集落です、元の家と似せた造りの家なんで見ればすぐ分かると思います」


「そうかい、ありがとう」



 薄ら寒い笑顔を顔に貼り付けた涼太郎は、とても老齢だとは思えない壮健さで集落に向かって激走していってしまう

 幸治郎テメェェエエエエエ!! という怒声は聞かなかったことにした勇人だった



「あ、そっか、向こうじゃ十四で結婚なんてしないんだっけか」



 康祐は走っていった涼太郎を不思議そうに眺めていたが漸く思い出したようだ、長いことこちらで生きるうちにあちらの常識を忘れていたらしい

 こっちでは十四歳と言ってもほんの少し早婚なだけだが、日本の一般常識として言えば涼太郎は何一つ間違ってはいない、紛う事無く幸治郎は有罪である

 涼太郎は神職に身を置く者として道を誤った親友を制裁……ではなく断罪……じゃなくて処刑……でもなく更生しようとでもいうのか、その顔はとてつもなく恐ろしかった



(……姿が見えなかったのは妊婦だからか)


(そのようですね、今確認してみたところ大分腹の大きな娘が彼らの傍にいます)


「(ほんとだ、でかいな)あぁ~……えーと、康祐さん? この勢いだと早苗さん驚いて早産するかもしれないから止めて止めて」


「えっ?! あ、はい!! お、おじさんっ りょうたろうおじさんまってくださいぃぃいいいっ!」


 怒声を発しながら走っていった涼太郎には驚かなかったのに、早産の可能性には驚いたようだ、どうも幸治郎が涼太郎を怒らせるのは慣れた光景だったらしい

 慌てて後を追う康祐を勇人とシリウスは急ぎもせずにゆっくり追った

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