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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
求めたものは
5/144

01

 港町に着いた一行は食事を済ませてから旅装を調えることにした



「カミシロさま、それだけでええんだすか」


「ん? ああ、大丈夫、レプスは気にせずにしっかり食べろよ」



 具がたっぷりと入り くたくたに煮込まれた濃厚なスープ、勇人の食事はそれ一杯だけだった、そのスープも具をシリウスが食べてしまい、本当に、ただ"スープだけ"を勇人は口にしている

 後はシリウスがいつの間にか持っていた食堂のものとは違う木製のジョッキにどこかから取り出した丸々とした黄色い果実を絞り出した、その、とろりとした液体を飲むだけだった



(……もしかしてアレだべか)



 人によっても種族によっても症状や期間の長さは千差万別に違うため確信は持てないが、レプスはある一つの可能性に思い至る

 勇人が何の種族なのか、見た目で判断することは彼女にはできない、しかしシリウスのことを考えるとその考えは捨てきれない

 けれど二人の種族の違いは一目瞭然、混血の場合にその種族の通常通りの症状が出るのかも怪しい、だが、そんなことよりも気になるのはシリウスの食欲だった



(おぅっぷ……食べすぎだべ……)


――量がおかしい



 レプスは食欲が無くなってきたが、毎食たっぷりと食べられるような豊かな生まれではなかったため、食事を残すのは性分が許さず、なるべくそちらを見ないようにしながら何とか食べきった

 清貧な生活でさらに小さくなっていた胃袋にはとんでもない量に感じられるほどだ

 このような状況のためかどうかは分からないが、食事中でも膝の上に勇人を抱えているとかそんな問題はレプスの眼には違和感として映らない、何故なら彼女にとってカミシロさまは大切にされるべき尊い女神さまだから



「ごめんな、食欲失せたんだろ? 次から別々に食べるか?」


「で、だ、大丈夫だす!」



 きっとカミシロさまが汁しか飲まねぇんはこの男の所為だべ、こんなん見でだらそうなっぢまうのも仕方ねぇべさ! レプスはそう確信した――しかし後に、これでも食べる量が少なかったことを知り愕然とすることとなる




*** *** ***




「え、こん服さ駄目なんだすか?」


「うん、所属が丸分かりだからな」



 食事の後、一行は古着屋に来ていた

 神属の装束は色々と取り計らってもらえる為に便利だとレプスは考えていたが、勇人たちにしてみれば、ソレはいいことばかりではない


 確かに、この大陸で神属者は尊重される、勿論そう扱われるだけの理由があってのことだ

 だが、あくまでもソレは"この大陸で"に限ったことで、外大陸ではその限りではない


 極端な例えになるが、特にこれといった理由も無くただ目に付いただけで因縁を付けられることすらある


 勿論、宗教は多種多様にあり、それぞれ教義に沿う装束をしており、当然それらの装束は宗教の垣根を越えて同じ外観というものでもない……が、そういった装束というのは大抵同じような雰囲気を醸し出しているものだ

 そもそも目視で一般人との差別化を図る為のものなので大体は見れば分かる仕様になっている


 だからこそ"独特の衣装"は避けられるのであれば避けたほうがいい

 金持ちが金目のものをじゃらじゃらと身に纏って市井の街中を闊歩しないのと同じ理屈だ



「服さこげに……」


「旅で持ち歩ける常識的な量だよ、気にしない気にしない、女の子だし着た切り雀じゃな、洗濯もしたいだろ?」



 女の子だし、と言うわりには当の女の子であるところの勇人の旅装は華やかさに欠ける、最低限女物というだけだ

 熱心にレプスの服を選ぶその傍らでシリウスが籠の中に無言で追加した ひらひらと胸元の防御力が低そうな勇人サイズと思われる服を勇人が片手間に無言で排除する、どれもカミシロさまに似合いそうな衣服が排除される様子をレプスは酷く未練がましく眺めた



「きたぎりす? ですけんども、お金」


「必要経費必要経費」


「はいですだ! あ、でも食料さ先に買っだ方がええんじゃなかだすか?」


「食料はまだ買わない、船には食堂があるって話だからな」


「え、カミシロさまは乗っだごとなかだすか?」


「うん、シリウスに聞いただけだ……よし、最低限だけどこれだけあれば組み合わせで結構バリエーションが広がるぞ」


「ばり? ……慣れとるべなカミシロさま、流石だす」


「妹と弟がいるからな、弟は兎も角 妹は拘りがあるから」


「へぇぇ、おら、あ、わだす、わだす一人っ子だすから、うらやますいだす」



 あれこれと服をレプスに当てて本人の好みと組み合わせを確認し、あっという間に勇人に選ばれた服や繕い用にしては多過ぎる大量の色とりどりの糸、それに何に使うのか不明の革紐やリボンは、さくさくと会計を終えて先に購入された荷袋に壷と一緒に収納された

 勿論 領収書は書いてもらっている、常識的な品物であるかどうかを示すためだ

 購入した荷袋は一番容量が小さく安いものだが、食料が場所をとっていない分だけ容量には余裕がある、そこへ更に必要なものを追加して勇人たちは港へと向かった



「へぇぇ~っ、へぇぇ~っ」


「あんまり身を乗り出すなよレプス、危ないぞ」


「鏡が必要ですか?」


「近い近い近いやめろ」



 どこから取り出したのか鏡のように磨かれた金属の板を取り出したシリウスが勇人の頬にむぎゅうとソレを押し付けながら船縁に寄っていたその身体を下がらせる


 壷も、ジョッキも、果物も、そして金属の板も、レプスは一度として取り出した瞬間を見ることは無かった



「なんちゅうばかでっかい船だべ……」


「さすがファンタジー、でかいな、うん、でかいのはロマン溢れてていいんだが、ロケーションがなぁ……」



 "空"に停船する商船に徐々に近づく小船

 大きすぎて港に停船できないために、乗客は小船に乗って乗船しなければならない……ごぽっと弾ける気泡と熱風に煽られながら



「溶岩の海はねーわ」


「落ちても一瞬ですよ」


「何が? 何が一瞬なんだよおまえ眼も逸らさずに安定の無表情で毒針刺してくんのやめてくんない?」


「刺すのがご不満でしたら抉ってさしあげてもいいんですよ」


「えぐってさしあげるな、上から目線の薄ら寒い笑顔でえぐいことさらっと言うんじゃねーよおまえ、素晴らしく似合いすぎ!」


「おやおや、無表情が駄目だと仰るから施してさしあげた笑顔にすらも文句ですか、随分と贅沢で結構なことですね」


「清々しいほどの作り笑いのほどこしあざーっス! ってかソレ笑顔か? 嘲笑だよな? 嘲笑だろ、っつーか、やーめーろ~っ」


「カミシロさまのご尊顔がちゃぶれたらどうすでくれるべこん悪魔が!」



 上位挿げ替えにより謙る気皆無のレプスにびったんびったん背中を叩かれるシリウスの胸倉を掴みがくがく揺さぶる一方で顔面を鷲掴まれてめりめりと力を込められている勇人の遥か下方でごぼりと白みがかった赤い海が泡立った

章タイトルどうしよう……

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