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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
水のむこうを
47/144

08

「あぁ、見えてきたな……アレか」



 シリウスの眼を通して勇人も目視する


 目的地は大分遠方にあるらしい

 遠くにも浮島が点在し、その島々と地上の幾つかの水源から空中の一点に向けて水が巻き上げられ、渦巻くように巨大な繭を形成しているのが見えた



「……"水"か」


「精霊の繭です」



 中心部には何かあるらしく分厚い水の層を通して何かが光っている

 次女は水の精霊ということなのだろう、あの光が中心核のようだ



「妻の胎に宿っている筈の娘は、肉体はあの繭の中に、精神……魂は別の場所にいるんだそうです、親父が伝手を使って調べたところ、前世が人間から転化した精霊の場合によくあるという話しで」


「よくある?」


「意識が人なので多くは前世に縁のあった人やその縁者に宿るんだそうです、でも母体が力の大きさに耐えられずに害されてしまう可能性があるので宿った精霊は本能的になのか無意識に重要な部位以外の肉体の大部分を別の場所で作るんだと そう教えられました、実際、親父の調べたところ水の都にも親父が島を最初に訪れるより前に居たらしく、その当時に島を守護する精霊の更に数代前がそうだったらしいという話しです」


「それがアレか」


「ええ、でも娘は例外でして」


「普通は魂が更に別の場所にいたりはしない、ってことか」


「そうらしいです、親父が言うには娘は自縄自縛しているような状態だと」


「自縄自縛ねぇ」



 正幸の表情が陰ったことに勇人もシリウスも気がついた

 恐らくこの男は、娘がどのような状態なのか正確に父親から聞かされているのだろう


 それが分かっていても、助けに行きたくても、現状では自分達だけではどうにもできない、そのジレンマ、遣る瀬無さ、そういったものが自分自身を責め苛んでいるようだった



「それにしても、よく都合よく洞窟の繋がった先に娘がいたな」



 空気を変えるように勇人が話しを振る



「それ自体は不思議なことじゃないんです、水の都は元々はこの地に存在しているんで、あの洞窟自体は元の座標を留める楔のようなもので他にも七箇所ほど輪になるようにあるんです」



 水の都の中心地はあの堂舎で案内された最後の扉から転移した先にあった小さな集落だ

 その集落を囲むように八つの洞窟があり、その洞窟の先がそれぞれこんな風に元の座標の入れ替わった範囲外へ放射状に伸びた延長線上に位置している


 以前、シリウスがこの星の歪みの話しをしたが、それを考えればアンカーのようなものという認識で妥当なところだろう

 アンカーを無くしズレた場合、結果がどうなるかは考えたくはない



「ああ、じゃあ繭の位置取りとしては正しかったのか」


「そうです」


「じゃあどっかに溶岩の海域があるってことか」


「らしいですね、ここからは見えませんが、大概の場合 繭の位置は母体に悪影響を与えないぎりぎりの距離に形成されているそうですから、海域の大きさを考えると娘は相当に強い力を持った精霊ということになりそうです」


「生まれてからの育児は大変そうだな」


「はは、そうですね」



 それは嬉しい悲鳴になるに違いない

 たとえ人でなくても、健やかであれば、そこに何の憂いもあるはずが無い、あとはどれだけ幸せに導いてやれるか、重要なのはそれだけだ



「で、島を守護する精霊ってのがお宅の島で毎年やってる"水の精霊への感謝祭"で感謝される精霊ってことか」


「ええ、と言っても毎年のは形骸的なもので重要なのは百年単位で行われる代替わりです、代が替わると先代の精霊は役目を終えたということで大概の場合は島を離れ自由に過ごすんだそうです」


「へぇぇ、感謝祭だけで よくそんなことしてくれるもんだな、無償も同然だろうに」


「無償ってわけでもないみたいですよ」


「えっ、精霊に金って要るのか? あ、生贄とか供物的な?!」


「人間社会に紛れ込んでいる精霊もいますから金銭も価値が在るのでは?」


「紛れ込んでんのかよ、っていうかお前見たの?」


「直近では先日見ました」


「何で教えないんだよっ」


「浮気した夫を赤子を背負った状態で包丁を振り回しながら追い回していましたから」


「なにそれみたい」



 唐突に会話に入り込んできたシリウスに、俺も見たかった! と苛立ち紛れに勇人はぐいぐい肉まんを詰め込む

 正幸は顔を引き攣らせながら会話の修正を試みた



「はは、そ、その精霊は子供がいるってことは、ウチの娘と同じ人間を母体に生まれてきた身なんでしょうね、そういった場合にはお金も重要でしょうね、ただ、島の守護によって得られる対価はそういったものじゃないという話しです」


「え、じゃあ何」


「記録によれば力が増すんだそうです」


「へぇ、そりゃ凄い価値だな……さてと、休憩は終りにしてそろそろ行くか」


「あ、はい」


「正幸さん、あんたは戻って嫁さんの傍についててやりな」


「えっ」


「言っただろ、娘が盛大にグレるって、俺達はあんたらが出来ないことを請け負う、あんたはあんたにしか出来ないことをやってくれ」


「わかり、……ました」


「じゃ、結果は次女誕生で知らせるってことで」


「お願いします」

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