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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
水のむこうを
42/144

03

「シリウスさまですね、案内させていただきます、お連れ様もどうぞご一緒に」



 タラップを渡って港に降り立ったシリウスたちを小人族らしき男性が待ち受けていた

 最初に憑依した占術師の眼を通して確認した容姿を予め伝えてあったのだろう


 祭りの準備の為か人通りが過密になっており、人の海を割るように案内人がまっすぐ進んでいく

 彼が案内する者はギルドの要人と知っているのかも知れない、皆 取り込み中であっても道を明け渡していった



「……馬が一頭も見当らねぇべ」



 過積載の荷車でさえ馬でなく人力を用いている姿が気になり、レプスがぽつりと呟いた



「誘拐を警戒しているんだ、荷車は人力でもさして力は要らない構造になっている」


「へぇぇ、誘拐、占い師さまをだすか? だっで、船ば乗っでも案内がねぇと帰れねぇっで言っでたべな」


「それを信じない者も居るということだな、レプス嬢、人一人を抱えて逃げるというのは相当力が要るものだ、どんなに力自慢でも大抵は小さな子供を抱えた程度でさえ行き先を阻まれながら突き抜けるというのは難しい、彼のような人間はそうそういないのでそこは勘定から外すとして、だ」



 彼と仄めかしてシリウスに視線を向けるが、ラドゥも恐らく自身と同じ程度の体格の人間を抱えたまま戦闘行為をすることは可能だろう

 自分のことは棚に上げるなこのオッサンと勇人の眼は据わっている


 まぁ、占術師をわざわざ誘拐に来るような人間は恐らく"そうそういない"とされる類いの人間なので、ほんの少しでも機動力を削ぎたいということなのだろうが



「そこで人を抱えたまま逃げる為の手段としては馬というわけだが、馬に乗ったままこのような人込みを駆け抜ければどうなると思う?」


「ぁ……んじまうべ」


「そう、つまりこの島の者達は誘拐騒ぎに慣れているということだな」


「そっだらもん慣れたぐねぇべな」



 荷馬車の為の馬となると、乗馬の為の馬よりも遥かに体格が大きく脚力も凄まじい

 そんなものに蹴散らされればひとたまりも無いだろう

 それに馬は臆病な生き物だ、背に乗られなくても騒ぎに驚いて走り回るということも充分考えられる


 馬のことは兎も角として、この面子の中では索敵能力のあるシリウスと何度も訪れたことのあるラドゥしか知らないことだが、他にも建物や露店の配置も作為的なものがあり、蟻の巣状になっていて、どの通路に逃げ込んでも最後にはどこにも繋がっておらず行き止まり仕様になっていた



「中へどうぞ」



 大きな堂舎の前で案内人の足は止まった、脇に身を避け、中へと促してくる

 神殿を彷彿とさせるようなその建造物は、口を開いたように薄暗いその咽喉奥を覗かせていた



「これより先はわたくしめがご案内させていただきます」



 声の質が、顔つきが、男か女か判断に迷う、体型も白い装束に隠れて分からない、その言葉を発した人物は、シリウスの後ろに目を向けると僅かに瞠るが、それは一瞬のことですぐさまその面貌は消え失せた

 どうぞ わたくしの後に、と言われてその背を追う勇人は、以前にも似たようなことがあったな、とうんざりする



(……なんで宗教施設でもねーのに、モロそーいう雰囲気醸し出してんのかね)


(宗教にしろ占い信者にしろ英雄崇拝にしろ根幹は似たようなものでしょう、どれも慕情・羨望・敬愛、そういった類いのものの濃縮還元したものです)


(どろっどろだな、不健康度MAX)


(血管が詰まりそうですね)



 くらだない与太話を脳内でキャッチボールすること暫し、ようやく目的の部屋に辿り着いたのか、案内人が扉を開けて横に控え、中へと促してきた



「どうぞ中へ、まっすぐお進み下さい、それから申し訳ありませんが……」


「ああ、分かっている、私は此処で待たせてもらおう」



 ラドゥが皆まで言わずとも分かっていると、軽く片手を挙げて制し、案内人がご配慮感謝いたします、と僅かに頭を下げる


 勇人達が扉を潜ると背後で静かにそれは閉ざされた

 まさかこんなにも早くお会いするとは思いませんでした、とその向こうで交わされる言葉を、何の感慨も無くシリウスの耳は拾う


 探し人の為にこの島に来たことがあったのだろう、それも極最近



「あれ、また扉だべ」


「日本家屋の門構えだな」


「にほんかおくのもんがまえ?」


「建築様式のことだ」


「え、あれ、どこさ行ぐだすか? へ、そっだらとご開ぐんだすか??」



 大きな両開きの扉に向かわず、その横に設けられた小さな出入り口から入る勇人とシリウスをレプスは慌てて追った



「あぁ、いらっしゃい、聞いてるよ、そこを行った先の縁台に座っている」


「あ、どうも」



 じゃりじゃりと音をさせる玉砂利に驚いていたレプスだが、シリウスが飛び石を渡るのを見て自分もその後をついていく


 そこに居たのは、十にも満たない子供だった




「やあ、良く来たね、そこに座るといい、茶を持ってきてもらおう」


「いやいいよ、本題に入ってくれ」


「せっかちだなぁ、短気は損気だよ」


「引き摺っていいなら幾らでも引き摺るぜ」


「ふふふ、それは困るねぇ、正幸、佳代子さんを呼んできなさい」



 子供がそう言うと、建物、縁側の向こう、座敷の影が立ち上がりレプスはびくりとなった、まるで気付けなかった、人が、いたのか


 程なくして戻ってきた人影は男性で、気遣うように女性を連れていた、見た通りならば妊婦だ



「この子を迎えに行ってもらいたい」


「え」



 レプスは思わず声を出す

 この子、子供がそう言って、妊婦の腹を指し示した

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