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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
水のむこうを
41/144

02

「水の海域に入ってから二週間強か、随分掛かったな」


「それは仕方が無い、船は島から発信される定められた航路を通る以外は水の海をすり抜け本来の溶岩の海を彷徨うことになるという話だ」


「へ、へぇ……そうなんすか」



 知ってる、……とは言わないザ・日本人 神代勇人であった

 その情報は既にシリウス経由で仕入れ済みであったが、円滑なコミュニケーションの為には既知の情報であっても相手に語らせることは大事なことである


 因みにシリウスは何時ものように勇人を片腕に抱え上げているもののラドゥのことは総スルーだ

 お前は久々に会った親戚と打ち解けられない思春期の子供か


 そして、そんなブリザードが吹き荒れそうな空気を謀らずも共有する者達が居た、勇人たちが乗り換える前の船に乗り合わせていた一部の乗客や船員、護衛達である


 勇人たちが乗っていた前の船は保守点検の例に漏れず数ヶ月の期間を要し、その間 乗客や護衛は元より船員ですら必要最低限以外の人員は他の船に分散し仕事に戻っていく

 観光地や故郷の港でもない限り彼らの休暇は次の仕事場である船上で過ごすことが殆どだが、その休暇も連続したものではなく船上で本来得られる休暇日の他にところどころ挿し込まれるものだ


 そして、そんなささやかな憩いの日でさえ氷付けにされ破砕されているこの現状



(おぃぃいいいっやめろぉぉぉぉおおおおぉぉぉおおおおっ)


(空気読めぇぇえええぇえええええっ!!)



 恐れるものなど何も無いと言わんばかりのラドゥ改め空気を読め(ま)ない男に対し、被害者達の熱い視線が注がれるが、やはりそんな視線すらも感じ取れ(ら)ないラドゥは尚も演説を繰り広げる



「当然のことながら帰りの航路も、行きと同じように島から発信される定められた航路を辿る必要があるそうだ、外れて溶岩の海に入ってしまえば、力尽きるまで"ソコ"を彷徨うはめになるのだそうだ、勿論、ソコから還った者は存在しない、だからその話しが本当かどうかは分からない」


「ん、んー……そっすか」



 それも知ってる、しかし水か溶岩かは兎も角として海のように広い心でもって勇人は受け流した



「……だが、転移陣を扱える者が行って還ってこなかったそうだから、恐らく本当だろう」


「! へぇ」



 それは知らなかった

 シリウスの知る情報はアーシャルハイヴの権限で閲覧できるギルドに関した情報の総てだ、その為ギルドを通さない依頼や関与することのない逸話、こういった類いの情報は実際に見聞きしない限りは手に入らない


 だから占術師ギルドの本拠地にアクセスする為の行き来に必要な情報は入手できても、ラドゥが今言ったような零れ話は耳に新しいものだ


 ラドゥの言う転移陣を扱える者

 この言葉から考え付くことは幾つかある


 まず転移陣、船や馬、徒歩などの手段を使わず長距離を瞬時に移動する術だが、知識のない者が想像する程には万能ではない

 魔具ならば入り口に対して出口になる対の魔具が必要であり、魔術ならば術者の経験にしろ伝聞にしろ目的地の明確なイメージが無ければ行き先不明で空間の狭間に放り出されることになる


 勿論、泥棒に対し鍵も掛けずに扉を開け放っておく……というような愚行を犯す者はそうそういないので、人・情報・金銭の区別無く重要なものが集まる場所には容易に転移してこれないよう対策が施されているのだが、まぁそれは置いておくとして

 その陣が魔術によるものか魔具によるものかで意味合いが変わってくるわけだ

 魔術ならば、これが"確実に"扱えるというだけでかなりの使い手ということになり、それだけの能力があるのなら国家に属している可能性はほぼ無い


 術者が俗物ならば、国に属さなくとも、寧ろ属さない方が、例え多くの国家が無法に転移してこれないよう対策を講じており多少の制限があるとしても、それでも幾らでも際限なく甘露を味わうことが可能だ、一国の主になりたいだなどと阿呆なことを言い出さなければ


 反して多少の程度の差はあれど良識人ならばこの術を使えることを秘匿して国家に属し続けるか、あるいは覚られない内に身を隠す

 望むと望まざるとに関わらず多くの欲望を集め、多くの命を左右することに繋がるからだ

 それなりであろうとも良識があれば他人の命を負うのは重いと感じるのが普通だろう、マトモなら明らかな地雷を自ら踏み抜きに行く者はそうそう居ない


 対して魔具であれば国家規模で承認された物ということになる

 レプスが定期的に報告書を送ったりするが、アレは書類や中規模の荷物程度までに制限されており、一般的には人程の大きさのものが通ることも、ましてや動物植物問わず"生き物"が通ることもできない


 勿論、その理由は単純なもので、派兵や微生物を含む生物兵器、肉食性植物等の危険なものを容易に通さない為だ


 人間が通れる程の物となると国家における王族の緊急避難だとかまぁその辺りになってくる

 だから入り口に対して対になる魔具を置くということは、国内ならば兎も角、有事の際に国外へとなると、受け入れ先の国が容認していることが必要になってくるということだ


 つまりラドゥの話した転移陣を扱える者が術者であれば"個人もしくは国家以外の何らかの団体組織"による行動であり、魔具であれば"国家"主導の行動であると推測できるということになる



(流石に国家主導で誘拐とか、狙う対象が対象なだけに疑心暗鬼の上 一瞬で戦争に発展するわな)



 外部の人間に誘拐してこいなどと依頼したら国家内で済ませた場合よりも遥かに高い確率で他国にバレ(情報を売られ)るので、その可能性は低いにしても、どちらにせよ戦争のリスクは急激に高まる

 しかも一国対一国ではなく、一国対多国だ、袋叩きの末に最後には誰が戦利品(占術師)を手に入れるのかと敵味方関係なく乱戦に発展していく未来しか見えない

 占術師というのは、それだけパワーバランスを崩す恐ろしい存在なのだ


 確かに占術師にも個体差があり、そこまでの能力保持者というのはそうそう居ないが、その規模の者は皆 身を隠している


――問題は



(何故、そんな話を聞かせてくるのか、益々憂鬱になります)


(ぼやくなよ)



 そんな話しは、そうそう出回らない

 占術師を手中に収めようとするなら横取りや邪魔を考えてくどい程に情報統制をするからだ

 例え当事者でなくとも痛くも無い腹を探られることにもなりかねない


 その手の話をご丁寧にもわざわざ聞かせてくる、というのが問題の要点になる

 シリウスはうんざりした、面倒ごとは嫌いだ

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