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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
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39/144

08

「……伯父上と伯母上は」


『義姉上は此処暫く体調を崩しておられるようだ、兄上は表面上は変わらん』


「体調を……彼が消えたのが今頃だったという話しでしたか、労しいことです」



 仕切りなおすように話題を変えれば、あまり変化の無い返答が返る



『そうだな……折角だ、占いの結果を今聞いておこう』


「あぁ……特に変わりはありませんでした」


『そうか……ところでその……シリウス……といったか、彼は』


「はい」


『お前が"療養の為に引き篭もる"必要がある程に気難しいのか?』


「……そうですね、恐らくかなり、それに目的地のこともあります」


『目的地?』


「どうも、水の都に向かうようです」


『なるほど、お前は戻った道をまた進んでいるわけだな、それにしても水の都ということは占術師か』


「かもしれませんし違うかもしれません、旅をしている以上"目的地"が存在しないということは ほぼありませんから、まだろくに会話らしい会話もしていませんが、目的が一段落か済むかするまでは、招いても応じてくれる可能性は低いように私は感じます」


『そう……か……』


「長期戦で喰らいついていくくらいの気持ちではいますが、あまり時間もありませんからね、長くなるとしても ある程度で区切りはつけるつもりです、まあ安心してください、彼の傍を離脱することになっても繋ぎは作ります」


『すまないな』


「軍属である以上は仕方の無いことです、私も、父上も、伯父上も、家族を守る男である以前に、民と国と陛下を守る軍人なのですから」



 それでも、不自由な身であっても、出来得る限り家族を守る



「できれば、誰一人欠けることのないうちに、再会させてあげたいものです」


『……ラドゥ』



 シリウスを招く口実は、もうラドゥにも彼の父親にも決まっている

 アーシャルハイヴを招く、故郷でも無いのなら、理由はもう、一つしか残されない


 家族かもしれないと言ったところで、ラドゥの言うところの"魔女"は絶対に納得しないだろう

 寧ろ、そんなことを言えば、警戒はこれ以上無いくらいに余計に高まる

 だからと言って友人という言い訳も、恐らく絶対に通じはしない筈だ


 本当は、家族かもしれない人物を"そんな理由"で招きたくはないが、それだけ影響力のある人間を招くことのできる、誰もが納得のできるもっともらしい理由は――もうそれしかない





*** *** ***





「んー……ぜんぜん見えねぇな」


「魔具か魔術かで目晦ましを掛けているんでしょう」


「まぁ貴族ならそういうアイテムも要るわな」



 ストーカーを逆ストーカーしながら勇人とシリウスは自分達の寝室で何時ものように食材を切って過ごす

 流石に盗聴しているところをレプスに見せるのは教育上よろしくないというアレだ



「……で、どこまでついてくると思う」


「どこまでもでしょう、わたしの素性が判明するまで」


「……だよなぁ」



 いざとなれば地球に転移できるので、あまり深刻ではないのだが、その際、レプスをあちらに連れて行くのは躊躇われる

 なぜって、一度便利なものを覚えたら、なかなか元の生活に戻るのは難しいからだ


 大規模浄化の時一緒に旅をした巫女たちを偶に地球に招くことがあるが、彼女たちは基本的に料理ができないのでその便利さを享受することもなく、テレビやパソコンや携帯機器もあまり興味が無いようなのでギャップに苦しむこともないがレプスは違う


 レプスは彼女たちと違い神属の外の世界で育ち、便利なものを素直に欲しいと思う普通の人間だ

 抑圧されて育ったことにより自制心が大層強い巫女たちとは違い、レプスがそういった便利さを知ってしまえばこの世界で生きる後の人生が厳しいものに変貌してしまうことだろう

 だから調理環境だの倉庫だの、教える時にはレプスの分も用意しているのだ、ずっとそれを使い続けることができるように


 それにたとえ地球に根を下ろすのだとしても、最後まで根付けるかどうかは別だ

 それは人間関係であったり、今まで当たり前だと思っていた常識であったり、義母親によって日本人そのものの教育を受けたシリウスと違い、レプスはこちらで純粋培養されている、そのギャップは相当激しい筈だ

 下手をすればノイローゼということにもなりうる


 だから、できれば、どうしても連れて行かざるをえない時以外には、レプスを連れてあちらへは行きたくない



「……どうすんだよ」


「どうしましょうね」



 ラドゥは探し人のことを絶対に諦めないだろう

 それはわざわざ思考を読まなくてもよく分かる


 だが、このまま延々と引き連れていくわけにもいかない、相手は恐らく貴族だ、貴族には課せられた義務がある、いずれは己の居場所へ戻らなければならない時が来る筈だ

 けれど、シリウスを諦めず、どれだけ時が経とうともまた再び追ってくる、必ず



「あー……とりあえず一段落したら行くか、行っときゃ間違いないだろ」


「……また貴女の所為にするんですか」


「そうだ、みんな俺の所為にしとけば問題ない、何かあったら俺を恨んどけば大抵大丈夫」


「貴女いつもそうですね、あの時もそうだった」



――義母親を死なせる決断をした時も



「だって迷ってる奴を諭せるほど俺頭よくねぇし、気も長くねぇし」


「そんなこと知っています」



 ごりっと、つむじに圧が掛かる



「不貞腐れんなよ、仕方ないだろ、お前はお袋さんが育てた通りの普通の人間で、お涙頂戴に弱いんだから」


「全く、これっぽっちも、弱くありません」


「わかったわかっぃいって! いたいっ ごりごりすんなっ やめろこら!」

サブタイの"水のむこうを"にぜんぜん間に合いませんでしたね、サブタイ変えなきゃいけなくなりましたが全然思いつかない、そして次章のサブタイどうしよう、繰り越そうかどうしようか……


サブタイはほんとに苦手です、だから数字で誤魔化してるんですけどね

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