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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
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38/144

07

「なんと、偶然にも同じ船で客室も隣とは、改めて自己紹介させてくれ、私はラドゥ、これも何かの縁だ、道中仲良くしようじゃないか」


「うーん(立派なストーカーだな)」


(しかも清々しいまでにあからさまな白々しさですね)


(ああ、漂白剤を使ったような驚きの白さだな)



 晴れ晴れとした笑顔を目の前に、事前に知っていたとはいえ勇人とシリウスはすっぱいものを口にしたような気分になった


 食事の後、男は随分あっさりと身を引いたので、どうせ想像の通りだろうな、と思いつつもシリウスの索敵で観察していたところ、男は立体投影の魔具を使い、シリウスに良く似た男の姿を見せて此方の乗船する船を探っていた

 これを見てくれと言っていたが、この姿を見せたかったのだろう


 シリウスの話しによると、ああいった魔具は高級品だそうだ、投影された人物の服装からいっても貴族と判断した方が自然である為、なるほどな、という感想しかでないが、シリウスが感知した"おじうえ"という言葉から考えると色々想像できはするものの、一番可能性の高いものについてシリウスは考えたくも無いようだと勇人は嘆息する


 兎も角、男は魔具を起動したまま港を練り歩き、その姿に反応した者に絞って聞き込みをし、すぐさま目的の情報を得たようだ


 魔獣討伐の際にかなり派手に恐怖を植え付けたのが仇になったのだろう、びくりと脅えた者が何人もおり、労うように酒を与えて口を緩めてやる手腕はなかなかのものに見える


 一応、この世界でも商売には"信用"というものが大事なわけだが、大変だったな、ここは奢ろう、みんな酒に流してしまえばいい、などと高い酒を昼間から(護衛は兎も角荷の積み替えの終った船員らは久々の完全下船で休暇だから昼間であろうとも問題は無いのだが)勧められれば、精神疲労で判断力の低下している彼らは守秘義務もへったくれも無く あっさりと堕ちてしまう


 正直言ってこの男は親族の可能性だとかそんなもの以前に関わりたくないタイプの面倒な人間である



「こげな偶然もあるもんだなすなぁ」


「レプス……(こんな素直で大丈夫か心配になってきた)」


(……騙されても大丈夫なように、なるべく固めてやるしかありません)


(そうだな……)



 何をって、彼女の財産や身の守りだ



「何か浅からぬ縁があるかもしれない、一緒に夕食でもどうだろうか」


「お断りします」



 シリウスは取り付く島も無く斬って捨てると棒立ちしていたレプスを小脇に抱えて自分達の客室に入ってしまう


 男改めラドゥが閉じられた扉の向こうで困ったような仕方が無いような苦笑いを見せたのをしっかりと確認したが、シリウスには何も言うことは無い





*** *** ***





「ふむ、かなり理性的だな」



 シリウス達の姿が扉の向こうへ消えたのであっさりと自身の借りた部屋へ戻ったラドゥは懐から魔具を取り出し起動させながらイスに腰掛ける


 あれだけのことをされても怒り出さないというのは、相当忍耐力があるというか、理性的というか、よく教育された貴族でもいきり立ち、市井ならば軽く刀傷沙汰にまで発展しているだろう


 魔具の反応を待ちながらも考察は続く



(あれほど不機嫌を演じていたのに、威圧もされなかった)



 強歩で先を行くその足捌きを見るに、多少以上の戦闘経験が確実にあることは確かだ、事実、食事の後に調べたところ かなり高位のアーシャルハイヴだということでソレも裏付けられた


 それを考えると益々バランスの悪さを感じずにはいられない


 高位になるほどに人の皮を被った超自然災害だの討伐困難の神話級魔獣だのと言われるアーシャルハイヴが、ああも過保護で理性的なものだろうか

 女を両の腕に抱える姿は、仔猫の首の皮を銜えて移動する親猫の姿そのままに見える

 扱いは雑だが指一本の動きにまで気を使っているのだろう、でなければ娘を小脇に抱えた瞬間、その胴体は上と下に分断されてしまった筈だ


 まぁ、自分が今現在もこうして生きていることが理性的である一番の証明なのだろうが……


 それでも、物騒なアーシャルハイヴだという事実よりも、その姿、立ち居振る舞い、ラドゥは期待せずにはいられない


 その時、先走る思考を遮るように、魔具が反応を示した



「……ランドゥルーグです、父上」



 魔具の向こうの人物は、本人の確認がとれたのか口を開く



『ラドゥ、すまない、人気の無い場所へ移動するのに時間が掛かった』


「いえ、私こそ父上が多忙な時にすみません」


『いや、わたしの方こそお前に任せきりですまない、それで、どうした、船の遅延か?』


「遅延ではないのですが、暫く帰れなくなります」


『……何があったのだ?』


「伯父上に良く似た青年を見つけました」


『!! そんなに似ているのか』


「種族を無視するならば生き写しと言っていいほどかと」


『種族?』


「額に第三の眼があります」


『……なるほど』



 暫し考え込んでいるのか、長い沈黙があったが、やがて整理がついたのか父親から幾つかの質問が投げられる



『青年といったが、どのくらいだ、名に聞き覚えがあると言っていたか』


「外見通りとは限りませんが、見たままなら私より十数歳は下かと、聞き覚えは無いとは言っていました、嘘か真かは兎も角」


『髪と眼の色は』


「髪は濃い焦げ茶です、眼の色は一見黒く見えますが髪と同じのようです」


『ふぅむ……色は全く違うのか、その者の名は』


「シリウスと、家名は分かりません」


『此方へ来てもらうことは』


「まだ何とも……ですから療養の為に領地に引き篭もっていることにしていただきたいのです」


『分かった、そのようにしよう、交渉は頼んだぞ』


「勿論です……しかし、招くにしても問題があります」


『問題?』


「彼はかなり高位のアーシャルハイヴです、我が家だけの問題と非公式に会うようなことがあれば」


『謀反を疑われるということだな、……そうなると陛下に立ち会っていただく必要があるな、しかも大勢の前で』


「少人数では陛下を害そうとしたと言われかねませんからね、大した壁にもなりませんが せいぜい大臣や近衛にでも囲ってもらいましょう、しかしそれよりも問題はあの"魔女"です」


『ラドゥ、まだ決まったわけではない、幾ら盗聴防止の魔具を使っているとはいえ何事も確実ではない、滅多なことを言えば これ幸いと一族郎党 首を刎ねる口実にされるぞ』


「……申し訳ありません父上、ですが限りなく黒に近い白です、それもドブ臭い」


『ああ……』



 ラドゥ……否、ランドゥルーグの眼は、憎しみに染まっていた

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