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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
求めた者は
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05

 タタタタタタタタタ……



「むふ、むふふふふ~っ」


「ご機嫌だなレプス」


「もちろんだす!」


「お、おう?」


『気にすねぇでやっで下せぇまし』


「ん、うん」



 ミシン、である


 楽しいこととなると上達が早いのは人の性だが、レプスもそれに漏れずレース編みも編み物も上達が頗る早かった


 丁度、赤ん坊程の大きさのあみぐるみを霊の母親からの助言で作り上げた彼女は、レース編みを駆使してベビードレスのようなものを何着も作り始めていたのだが、服が作りたいなら洋裁をやるか? と勇人が聞いたところ、最初こそヨウサイの意味が分からなかったが、服を作ることだと理解したレプスは壊れた玩具のようにがくがくとひたすら頷き、その姿に勇人はだいぶ引いた、まぁ温度差というヤツである


 手縫いは厳しいということで、例の青狸……ではなく通販に頼りミシンを購入した勇人は、早速 体の採寸の仕方から型紙の起こし方までをレクチャーし、ミシンの使い方をレプスに教えたが、そのミシンが鋼の糸を使って金属や宝石まで直に縫い付けることが可能だと知って すげぇ! と喜びはしたものの、そんなもんどこに縫い付けるんだよ、と利用用途が思いつかず微妙な気持ちになった


 思いつくのはせいぜいトレーナーに金属パーツを縫い付けて"なんちゃって甲冑トレーナー"にして弟にプレゼントするくらいで特にアイディアも浮かんでこない

 出来るからといって総て無駄にせず使い倒せるわけでもなく、所謂 宝の持ち腐れが懸念される



「やけに張り切ってるな」


「女性は個人差にもよりますが大概は幼かろうが老いようが大なり小なり母性本能がありますから、そのせいでしょう」


「ん? あぁ、そういや聖子もおままごと好きだったなぁ」



 返事がどことなくズレているがシリウスは特に追求もしない


 歳の離れた双子の弟妹と遊んでやる時、それぞれ遊びたい方向性が違って苦労したことを勇人は思い出した

 弟の秀人の方がなかなかおままごとに付き合ってくれないこともあって、聖子を宥めるために赤ちゃん役の人形やペット役の犬や猫のぬいぐるみも作った関係で勇人の裁縫能力は同年代の女子に比べてもそこそこ上である


 ちなみに、弟向けにもタックルして遊べるタオル地の大きくふわもこな怪人人形を作ったところ、妹もなぜかタックルしており、やがて弟妹が怪人を奪い合って昼ドラ風の修羅場を演じていた記憶は何故だかとてつもなく切ない


 そのうち、どこかのスーパー幼稚園児の幼馴染の女の子のように怪人をめぐっての愛の三つ巴劇場が開幕されるようになり、勇人はおままごとを禁じた



(子供の教育について一人で悩んでいる核家族家庭の母親みたいになってますよ)


(ほっとけ)



 レプスの作った大きなあみぐるみを使って小さな存在をあやしていたシリウスにむっつりとした顔つきで勇人が呟く、同級生によく所帯染みてるなと言われたのはわりとコンプレックスだったりする記憶の一つであり

 自分でも飲み会などで無意識にテーブルを拭いたり仲間の酒量を見て水を与えたりといった行動に唐突に我に返って愕然としたことが何度もあるからだ


 一度、かわいいな、と思った女の子に告白したことがあるのだが、神代くんといると、女としての自分のレベルの低さに耐えられないから、と濁さずに言われたこともあり、その夜は缶チューハイとイカの一夜干し(自家製)をお供に夜通しレンタルしてきたDVDを見て現実逃避を図った苦い過去もある



「あー……レプス、そろそろ下船の時間だぞ、この港で乗り換えだから忘れ物には要注意だからな、次は違う船だからこの船に忘れても回収できないぞ」


「えっ、もうそっだら時間だすか?!」


『危ねぇべっ、まずハサミば片付げでからにすねぇが!』


「い、今片付げようどしだとごろだべっ」



 わたわたと型紙や裁断してあったパーツなどを片付け始めたレプスを尻目に勇人が荷袋の口を広げると、そこにシリウスがあみぐるみを仕舞いこみ、何時ものように荷袋を自分の肩に下げて勇人を片腕に抱え上げ、勇人とレプスの精神安定の為に室内に臨時に作った壁を取り払った




*** *** ***




「やっと帰り道の半分か……」



 占術師ギルドを影の統治者とした水の都と名高いレヴェンダール諸島からの帰り道、二週間待った船が漸く港に着き、男は乗船の為の小船に乗っていた


 港には大陸を順繰りに渡る商船の他に、特定の大陸間のみを行き来する船もあり、男はその船が港に着くのを待ち、二週間待って漸く船に乗り込もうとしている



「遅くともまた来年か……早めに再び訪れることができればいいが」



 自分の乗る小船と同じように、それぞれの商船に昇降する小船をぼんやりと眺め、そこに見える客の顔を無意識に確認していく


 もう習慣化してしまったそれは、哀しい習い性だ

 気付かずに擦れ違ってしまわないよう、気がつけば人の流れを眼で追っている


 視線の先では幾つもの小船が入れ替わり立ち替わり昇降していた


 荷の積み降ろし用の船は乗客の乗下船用とは別であり、乗客を乗せる小船は港で乗船下船の手続きをする建物に近い場所に集まる為、巨大な商船自体は距離を置いているが小船はみな同じ地点を目指して降りていく


 その中の一つの小船に、ふ、と眼が留まり、思わず息を飲む


 望遠魔具を持たなくとも、軍人で眼の良い男には、その顔がよく見えていた

 流石に眼の色までは分からないが、濃い焦げ茶の長い髪が緩く編まれて背中へ流れており、探している人物と髪色は違うものの、女を片腕に抱える、その、顔は



「……おじうえ」



 瞬間、男は船縁に足を掛けて跳躍し、隣の小船に飛び乗った

 そのまま飛び石を渡るように次々と船を移る行為に、次々に悲鳴が上がり、それによって此方に気付いたのか目的の人物に抱えられた女がこちらを向く


 腕に抱えられた女が懐から何かを取り出し、両の手でこちらに向かって構える姿が見え、その手前がきらりと光ったが、攻撃用の魔具だとしても男に引き下がる気は毛頭無い


 あと一艘、次だ


 最後の一艘を飛び着地圏に入ろうとした、その、瞬間



――びたんっ。



「ひぇっ! ちゃぶれたべっ」


「おぉ~、すげぇ、決定的瞬間」


「撮れましたか」


「ムービーでバッチリ」



 何か透明の硬いものに遮られ、男はその表面をずるずるとずり落ちていき、落下防止用の結界にぼてりと落ちた



「厚み何センチだよ」


「六十センチです」


「あぁ、水族館のアレな」



 シリウス手製の硝子板である

 溶岩からは金属質も硝子質も手に入り放題、元手はタダだ


 因みに勇人がデジカメを取り出そうとしてからシリウスが硝子板を生成するまでの間、念話すら無く、完全なる阿吽の呼吸である

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