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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
求めた者は
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02

「痛っ」


『ほら、余所見すっからだ!』


「丸いがら滑るんだべ、余所見すでねぇもんっ」


「そういう時は半分に割ってからにすれば滑り難いぞ、ほら、何時までも怪我を放置するんじゃない」


「うぅ、お願ぇしますだなす」



 勇人とレプスはテーブルの上に広げた食材を料理の用途別にひたすら切り分けていた

 他にも合わせ調味料の作り置きや、後は加熱するだけのものなどをただひたすらに作り、通販で一緒に購入した倉庫(東京ドーム・ザ・ミリオンサイズ)に収める

因みに東京ドーム・ザ・ミリオンサイズは商品の紹介欄に書いてあった、センスが……


 おずおずとレプスが差し出した指先をシリウスがさっと癒すと、レプスは礼を言って再び作業に戻るが、切った食材の大きさが先程よりもバラバラだ



「集中力が切れたな、休んでいいぞ」


「……そんだら、編み物するこどにするだす」


「それも気分転換にいいかもな」



 手を洗った後、客室内の自分の寝室から編み棒と編み掛けの毛糸を取って勇人が作業するテーブルに戻ったレプスは、今度は編み物を始め出す

 今編んでいるのはマフラーで、何本か編んで慣れてきたら編んだ物同士を繋げる方法を勇人が教える予定になっている


 レプスの目標としてはあみぐるみだ

 こんなのも作れるようになるぞ、と勇人が小さな猫のあみぐるみを見せた瞬間、レプスに激震が走った、女神さまは使い魔(魔?)もかわいいべ!

 モチベーションが上がるというのは上達への近道になる、猫のあみぐるみを作り、それにレースのドレスを着せたい、これがレプスの原動力になっていた


 勉強も習い事も確かに才能が必要なものではあるが、何よりも必要なのは楽しむこととやる気の二つだということをレプスが証明している



「こっぢのんは、もう仕舞ってもええだすか?」


「あ、頼めるか? 任せちまって悪いな」


「こんぐれぇなんでもねぇだす」



 切り方別に分けてあった野菜類を仕舞う為に席を立ったレプスが、背後で口を開けたままになっていた倉庫にバットごと野菜を差し入れ、再び手を引き戻すとバットは空になっていた


 この倉庫は旅の初日に勇人達が買った荷袋の強化版のようなもので中に収蔵されたものは基本的に劣化阻止の効果により腐ったり乾燥したりということは無い

 だが内部は幾つかのエリアに分かれており、冷蔵や冷凍、熟成が必要であれば熟成させる為のエリアもある


 勿論、倉庫というだけあり食材以外にも様々なものを収めることができ、内部に直接入ることも可能ではあるが、わざわざ内部を彷徨わなくともギルド窓口で借りた閲覧魔具のように楽に収蔵物を把握でき、出し入れも魔具によって収蔵と取り出しが簡単にできるようになっていた


 この倉庫は勿論 同じものをレプスの分も購入してあり、寄航毎に獲った肉や魚、加工品や調味料などの一割をレプスの倉庫に収め、普段の食事は勇人たちの倉庫から消費している



「ありがとうレプス」


「どういだすますで!」



 空になったバットを勇人の手元に戻すと、丁度シリウスが次の野菜を生成したところだった

 他人が居る場所では わざわざ荷袋から取り出すような動作をするが、身内だけの場合は取り繕うことなく異能を使う

 最初は驚いたレプスも、今ではもう特に違和感無く日常として受け入れている


 レプスや勇人の手前にあるジョッキに注がれた果汁も、小さな存在をあやすように床の一角に花畑が作られるのも、客室が豪華すぎて挙動不審になる勇人やレプスの為に調度品を視界から消すように新たな木製の壁を室内に生成してあるのも、全部日常だ



「シリウスさまみでぇにつぢのお人は、みんな豊穣の女神さまの親戚なんだべか」


「豊穣の女神?」


『ウルフィルアニムさまだす、植物に愛されだ御方だど農家のもんは皆拝むんだす』


「生き神として存在を確認された女性です、現在その消息は不明ですが存命だとしても齢万を超えるかと、血縁はどこかに存在するかもしれませんが、少なくともわたしではないでしょうね」


「へぇ、生き神」


「カミシロさまは聞いだごとねぇだすか?」


「んー、無いなぁ」



 勇人が思いつくのはネパールで選ばれるクマリくらいのもので、後は教祖だとかそんなところだ

 こちらの世界のような力を持つホンモノが地球にいるかどうかは誰にも証明できないだろう



『生き神さまん伝承ば幾づもあるんだす、豊穣の女神さまのほがにも幸運の神ヴィッドヒュリムさま、水の女神エリューファさま、知恵の神グラーヴァジェルムさま、癒しの神ヴァルグドゥガさま、まだまだおられるだす』


「水に、癒し……お前みたいな力を持った人間か、魔術に長けた人間が崇拝されて生き神と呼ばれた、ってところか」


「まぁそんなところでしょう」


「お前みたいな能力の人間は、すぐ祭り上げられて面倒なことになりそうだな」


「わたしが教祖になった暁には総ての狂信者に自害を申し付けます」


「お前が言うとマジでやりそう」


「マジでやりますよ」



 口が止まらないが手も止まらない、レプスは一杯になったバットの中身を再び倉庫に収蔵した

 切った物は勇人の倉庫だが、レプスの倉庫にも野菜や穀類はたっぷりと収められている



「だども、シリウスさまのようなお人ばいだら、もっど生き神さまは多い筈だべ、殆ど聞がねぇんはなんでだす? 少ねぇって言っでも、セラスヴァージュにはつぢのお人が他にもおられたべ、それに、何でつぢのお人だけ少ねぇんだべな」


「んー……、おら」



 暫く唸った勇人が腹に回っていたシリウスの手をぺちっと叩くと、頭上に載った顎がぐりっと抗議するように訴えた

 しかし勇人は抗議を無視し、ひたすら野菜を刻んでいる

 僅かな沈黙の後、シリウスは口を開いた



「四元素を持つ者は、セラスヴァージュ以外では全くとまでは言いませんが恐らく殆ど生まれないでしょう、あの大陸では生まれ易いというだけで もしかしたら他にも生まれ易い土地があるかもしれませんが わたしは知りません、土の属性者が他の三種に比べて極端に少ないのは――その性質の為です」

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