01
「目的地はここ、リェンハニィーヴ」
「地図が変わったべ……」
最初に持っていた地図では納まらず、三枚目の地図が現れた
「なんだべな、こんまぁるいんは」
「水の海です」
「みずのうみ……へ? 溶岩でなぐ??」
「溶岩でなく……っつーか何だこの綺麗な円」
「人工物だからです」
「お前行ったことあんの?」
「ありません」
「へぇ、地図でこんだけデカいんだから相当なデカさなんだろうな」
「どんぐれぇで着ぐんだすか?」
「寄り道も遅延も無しで半年くらいだそうだ、途中で船の保守点検があるから乗り換えるぞ」
「はんっ?! こん早い船ででもだすか?!」
大商人の船ほど早いものはないとまで言われるが、まぁそれは兎も角、途中 転々と寄航するにしてもほぼ半年の間船上生活となると娯楽が必要になってくる
特に勇人はちょくちょく眠ってしまう為に夜中に目覚めたりしてそのあたりの時間潰しがきつい
どうせならその間に食事の下拵えくらい、とも思うが そうなると本格的にシリウスを起こすことになってしまう
(やり込み要素の多いRPGとか買うべきか?)
(貴女、すぐ攻略サイトに頼るんですからパズル系にしておくべきですよ)
(エンドレスは我に返った時辛い……)
(対戦ものは)
(絶対ぇヤダ、ってかソレじゃ本末転倒だろ、何のための一人遊びだよ、お前は気にせず寝ろ)
「それで、このレ……レ……レンニブ? で何さするんだすか?」
「リェンハニィーヴな、言い辛いけど、まぁ兎に角だ、何すんのかってのも何をしろと言われたわけじゃないからなぁ、恐らくこれに関することなんじゃないか、っていうくらいの予想なんだが」
「ギルドで調べでたやつのこどだべか?」
「うん、どうも祭りがあるらしいんだよな」
「まつり……」
レプスにとって祭りと言えば書き入れ時だ、まぁ何時もより帳簿に多く書き入れると言っても田舎の祭り程度なので他所と比べてどうかまでは知らないが、レプスは実家に纏わる嫌なことを思い出して慌てて思考を屋台に切り替えた
祭りといえば屋台料理や他所の土地の珍しい商品だ、レプスが楽しんだ祭りと言えば、人の行き来がほぼ沈静化した後の祭りなので、美味しいものを取り扱う屋台も珍しい商品も大体売れた後という寂しい状態であり、あまり楽しめた記憶が無い
まぁ珍しい商品と言っても、田舎にまで流れてくるのは大きな町で散々売った後の残りなどだろうからそれ相応のものであることは否めないが、レプスにとって純粋に客としての祭りはこれが初めてになる筈だ、是非とも祭りを楽しむべきだろう
「どげな祭りなんだすか?」
「公儀的には水の精霊への感謝祭なんだそうだ」
「こうぎてぎ?」
「秘密中の秘密らしくてな、この祭りに深く関わる依頼がギルドを通して出された記録は無い」
祭りで出す料理に必要な食材だとか屋台の建材だとかそういった当たり障りの無い系統の依頼ならあるにはあったが、それはどこの祭事でも大した差も無く大体同じようなものだろう
今回の勇人たちも、話を持ち掛けられたのは直接(と言っていいかどうか判断に困るが)だった
今までも、占い師に接触する人間に対して直に交渉していたのだろう
その内容がいつも同じかどうかは分からないが、"ボクに都合の良い未来を読んだ"と言うからには幾つか選べる未来があり、その中の都合の良いものを選んだ、ということで恐らく間違い無い
この辺りのことを考えると、シリウス曰く人工物だという海の由来も推して知るべしだろう
可能性のある未来の中から最も好ましいものを選択できる、この能力は誰もが欲しがる
となれば、この丸い海域は他所から広大な溶岩の海のど真ん中に持って来たと考えれば自然だ(実態は不自然だが)
占い師にもピンからキリまでいるだろうから、狙われるのが全員というわけではないのだろうが、彼らには必要な砦なのだろう
「だからまぁ、どういう系統のことをやらされるかってのは現段階では予想するのは難しいな」
「そうなんだすか、祭りが楽しめる余裕があればいいだすな」
「そうだな、折角 半年も掛けて遠征するんだし何か楽しみが欲しいもんな」
ただ、レプスを脅えさせるので今は言わないが、わざわざ選んだという言葉が気になる
それなりの修羅場がある可能性は高く、そうなれば祭り云々を楽しめる気力が残っているかどうか
まぁ内容によってはレプスは留守番という手も在る
内容関係なく最初から留守番一択でもいいが、生命の危険が無いのなら何事も経験としておくのもそれはそれだ
「ま、それはそれとして、だ」
「なんだすか?」
「これだ」
「糸と鈎針? こっちは太いし縒りが殆ど無ぇだすな、こっちの鈎針は大ぎいだす」
「レース編みと、編み物を習得する」
「へあ?」
「レースは出来が良ければ貴族と取引のある商人が高く買い取ってくれる、編み物は寒冷地で需要のある帽子やセーターにマフラーや手袋、他にも膝掛けとか毛糸のパンツだとかの防寒着になる」
「ふぇっ?!」
「ミサンガは基本は教えたし後はもうレプスのアイディア次第だからな、今度はこういう系でいこうと思う、ずっと同じことしてるより多少でも違うことしてた方がアイディアも生まれやすいしな、材料や体力の関係、歳をとってもできるとなるとできることは限られてくるが、収入源は色々あった方がいいだろ?」
「カミシロ」
「あとパッチワークなんかもいいかもなぁ、レース編みは俺もやったことないから一緒に勉強していこう、編み物の方は妹にテレビで出たあれかわいいから作ってって頼まれてけっこう作るから基本教えるくらいなら俺でもできると思う、田舎だとお洒落な服ってなかなか買えないからなぁ、洋裁の方は手縫いだと厳しいからな」
「カミシロ」
「ん?」
「処理しきれなくて白目をむいています」
「あ」
唐突に増えた習い事と、これからも増える可能性のある習い事の存在にレプスは現実から逃げ出した




