表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
選びし道行き
29/144

06

「お待ちしておりました」


「そりゃ悪かったな」


「どうぞ、お掛け下さい」



 案内されたのは会議室らしき部屋だ

 防音性を持ち空間を弄ってあるのか違和感のある広さを持つその部屋は、依頼に当たる者達が手軽に借りられるよう中には最低限のテーブルとイスしか置かれていない


 イスに腰掛けた女と、その護衛だろうか、後ろに男が立っている


 女、と言ったが、多分、女だろう

 平安時代の女の旅装束でお馴染みの笠状の被り物からカーテンのように布が下がって顔を隠しているアレに似たものを被っていて声と体格でしか判断ができないが、その体格も被り物と体の線が出難い格好の為にいまいち不確かだ



(アレで精神感応系の力を遮断しているようですね)


(へぇ、お前対策か?)


(占術師の中には人の心を読み占いとして発言する者がいますから、自分達のやり方を熟知した上での日常的な防御策かと)


(あー、俺はいいけどお前はダメ、みたいなな)


(身も蓋も無い言い方をするならそうです)



 勧められたイスにいつものように勇人を膝に抱えてシリウスが座る……普通はそんなことはしない

 初対面で、相手の含むものが何も分からない、そんな状況で勧められるままに座るというのは、肉食獣相手に我が身を上げ膳据え膳するようなものだ


 こういった経験の無いレプスは何も疑問に思わず勧められるままに素直に座るが、シリウスの膝に座る勇人は偉そうな態度を意識して取り繕う



「で?」


「はい、失せ物探しが要りようだと存じております」


「あんたの占いで?」


「いいえ、ある御方の占いでございます」


「へぇ、ある御方ね」


「はい、わたくしの元へ仲介の依頼が来るので、その方々をこちらへ案内するように、と伺っております」


「ほぉ、それはそれは……何をやらせたいんだ?」



 わざわざこちらへ遣せと言うくらいだ、何か目的があってのことだろう、勇人は顔を覆う布の向こうを透かすかのように見据えた

 と、同時に、占い師の体がぴくりとなり、背後に控える護衛の血の気が引いていく



「わたくしには何も……」



 勇人に合わせるようにシリウスが威圧した所為だろう、もっとも、この二人にはどちらが威圧したのかなど分かりはしないだろうが



「あっそ、じゃあナシだな」


「そん、……可哀想だろう? あまり虐めないでやってくれないか?」


「ひぇっ?! 声が変わったべ!!」



 静かに遣り取りを見守っていたレプスが、驚きに思わず声をもらす

 女の声が、がらりと変わった、声だけで判断するのなら、まるで老人のようなその声は、人格すらも別物のような話し方をする



「……他人の会話に割り込むのはよくないぜ」


「ああ、すまない、育ちが悪いものでね」


「それに同意もとらずに他人の体を乗っ取るのもいただけねぇな」


「なるほど、君は育ちが良いらしい」


「まさか育ちの良い人間に会うのが初めてとか抜かさねぇよな?」


「勿論、君とは違った意味合いで育ちの良い人間となら頻繁に顔を合わせるとも、彼らは大事な客だからねぇ」


「財布の間違いだろ」


「ふふふふふ、君は可愛いなぁ」


「キモイ」


「気持ち悪ィべ!!」



 勇人とレプスの心が今正に一つになった瞬間であった



「いやいや、すまないすまない、ボクの周りは老いも若きもお上品な者達ばかりでねぇ、君達のような素直な子を見ると嬉しくなって年甲斐も無くはしゃいでしまうんだよ」


「おら、鳥肌が立っで痒ぐて痒ぐて仕方ねぇだす」


「掻いちゃだめだぞ、痕になる」


「うぅぅ、だども……」



 レプスがそわそわと両腕を擦る姿に、ふふふ、可愛いねぇ とまた笑いを溢す

 レプスは掻き毟りたくてたまらなくなった



「ふふふ、名残惜しいが若い息吹を堪能するのはこれくらいにしておこうか」


「是非そうしてくれ」



 女の体を借りた誰かは、懐からすっと三枚の船券と一枚の客室券を取り出す

 勇人たちが乗ってきた船の乗船券だ、このまま また大陸を移れということだろう



「善意ではなく利害関係から助言してあげよう、乗った方が君達のためだ」


「……何をさせる気だ」


「着けば分かるよ」


「……何を読み取った?」


「何も? ボクはボクに都合の良い未来を読んだだけだよ、君達が都合が良いから必要としているに過ぎない、それにね、間接的には流石に読めない、安心しなさい」


「安心出来る要素が何一つねーよ」


「大丈夫だ、君達なら悪い大人に騙されることはない」


「既に騙されそうなんだが」


「ボクは心清き聖人だ、信頼してもらって構わないとも」


「心清き聖人に土下座して謝れ」


「胡散臭いべ!」


「うんうん、素直で可愛いねぇ」


「ひぃっ」


「その乗船券は水の都行きだ、君達が何を探しているかは実際に会って視ないとボクには分からない、だが"水"を求める者がいることは知っている、そして少なくとも君達は"水"を求めている、そうだろう?」


「……」



 水と言えば水だが、額面通りというわけではない

 だが求める物は水に関するものだ


 やはり、地球にいるぼったくり占い師の言葉遊びとは違う



「お互いに利になることだから言おう、こちらへ来なさい、何も恐れることは無い、その男がいれば」



 その男、勿論シリウスのことだ

市女笠+虫の垂れ衣というヤツですね壷装束と画像検索すればヒットしやすいかと、前を開けずに総て閉じている状態です

和風装束というわけではありませんが、こんなもん被ってますよ程度の認識です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ