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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
選びし道行き
28/144

05

「えっ、そ、そげに高ぐ買っでいだだげるんだすか?!」


「うんうん、いただけるいただける、いいねぇこれ」


(適正価格か?)


(適正価格です)



 この数日でレプスが作ったものの中で、編目が偏らずバランスよくできたものだけを持ち込んでみたが、値段はそれなりに化けてくれた、そのデザインはミサンガながら付け足した石や木工、金属部品のお陰でちょっとした下級貴族が着けてもおかしくは無い仕上がりになっている


 このあたりの感性は恐らく、シリウスが言っていた"在りし日の影"によるものだろう

 ここ数日 食事を共にした勇人の感想でも、今までのレプスの環境からは覚える機会の無い筈の作法を披露しており、本人に自覚は無い


 トラウマは無いようだ、とシリウスは言っていたが、だからと言って思い出さない保証はどこにもない、レプスという"今"が一番守られるべきなのだから、なるべく思い出させないように気をつけた方がいいだろう


 仕上がったミサンガを雑貨店で買い取ってもらった後は手芸店も覗く、雑貨店でも既に確認したが糸や石の値段を確認する為だ


 平均的な値が分かっていれば極力 損を減らすことができる


 レプスがどこに根を下ろすにしても、これらの価格を把握しておくことは重要になってくるだろう



「書ききったか?」


「もうちょっとだす……」



 平民にしては整った筆跡を見せながらレプスが呟く、頭の中だけで覚えておくよりも書面に残しておいた方が後々楽が出来るはずだ



「窓口の方はどうだ?」


「まだ混んでいます」


「そっか、じゃもうちょっと回るか」



 新しく船が来れば、船から降りるにせよ、積荷目当てにせよ一時的に人口が増え、それに伴ってギルド窓口に出入りする人間も増える


 特に、港へ買い付けに来た遠方からの者などがついでに窓口に寄り込むのでこうした大きな商船が寄航した時には大体が相当な混雑になってしまう為、勇人たちは窓口が落ち着くのを待っていた


 何件か梯子しおおよその価格帯を確認した後、今度は青果市を回る、こちらも価格帯の確認と今まで食べたことの無いものの入手だ、果実でも薬草でも、乾燥していようが粉末だろうが関係無く、一片でも手に入れば、それを元にシリウスが生成する為に元手以降は一切金は掛からない


 だから彼らの食費はそれ以外に注がれるのだが、植物類の食費が皆無と言ってもシリウスの食事量は三食それぞれ相当な量になる

 陸地を行く旅ならば肉類や魚類の現地調達も可能だが、それでも乳製品や加工された糖類や塩類などはやはり買わなければならない場合が多く、どちらにせよ焼け石に水だ


 特に、勇人が作るようになってから、その量はレプスが初日に見た量の八倍から成っており、それでもまだ腹八分以下だという話しだった、レプスは食事中は絶対にシリウスの顔付近へ視線を向けないよう心掛けている


 四元素を扱う者は精神力は元より体力の消費も激しく、それも致し方ないことだ……が、土の属性は例え一切の食事を絶ったとしても寿命を終えるまで生き続けることが可能だ

 相性が良ければ、星が消滅するまで無尽蔵に力を消費し続けることすらできる



――出来れば、の話ではあるが



 まぁ兎に角、肉類は価格帯を確認しただけでまだ購入していない

 一度窓口に行った後に今後の動向を決めるからだ

 今日中に口利きできる占い師に当たることができなければ港を出て狩りにでも時間を割くが、今日中に口利きをしてもらうことができ、且つ別の大陸へ渡る必要があるなら降りたばかりの船にまた乗る必要も出てくる

 その場合は船内で肉類を買うことになるだろう


 蛇足だが、昨夜のタコ……ではなくタコ型魔獣――ゲロマズであった

 魔獣達にはご馳走でも人間にはその限りでは無く、完全に口の中はたこ焼きでスタンバっていた勇人とシリウスは無言で地球に帰り営業しているコンビニまで遠征(田舎なのでコンビニが遠い……深夜営業しているコンビニはもっと遠い)して たこ焼きを購入し己を慰めた、深夜のコンビニでたこ焼き買占め……切ない


 そしてやはりコンビニで買うより、たこ焼き屋で買う方が美味いなとも確信した


 ところでタコは兎も角、残り二体の魔獣も素材としては高級な部類に入るが、一方で超常的な回復力を誇るその血肉は食材としては用いられない

 食べれば病気が治りそうだったり不老不死が手に入りそうだったりと色々魅惑的な効果を期待しちゃったりするわけだが、そうもいかないのが腹事情だ


 つまり、そんな再生力の強力なものを食べれば腹の中で再生を続けられて腹を壊す、最悪の場合 再生しようとする細胞に取り込まれて逆に命を落とす、ということにもなりかねない


 悪食は身を滅ぼすのでやめよう



「そろそろ捌けそうです」


「ん、レプス行くぞ」


「はいだす!」



 三人が窓口に入ると丁度客が捌けたところだった、カウンターに依頼の申し込みをし書類を作成してもらう



「占い師、では占術師ギルドへの依頼になりますね、可能な限り依頼内容を教えてください」


「失せ物探しに長けた占い師を紹介できる占い師の紹介をお願いします」


「えー……と? つまり、失せ物探しをできる占い師ではなく、失せ物探しをできる占い師を仲介できる占い師……ということですか?」


「そうです、なるべく正確な占い結果が欲しいので、そういった能力に長けた占い師に心当たりがあり口利きしてもらえる人物をお願いします」


「ああ、なるほど、分かりました、占い師は能力の高い人は殆ど囲い込まれていてなかなかギルドからの依頼を受けてくれませんからね、了解しました、ではこの書類を確認し、ここにサインをお願いします」



 職員が手に持っていたペンを添えて今しがた書き込んでいた書類を遣り取りしていた勇人に向けてくるりと反転した

 それをシリウスが取ってサインを済ませる



「はい、結構ですよ、ではこちらへどうぞ」


「他にも何か?」


「ええ、ご依頼の占い師が奥の部屋で待機しています」


「はっや」



 流石 占い師

 もう、その占い師に占ってもらったんでいいんじゃ……そう思った勇人だった

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