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「えっとだな、実は昨夜、突発的に副収入があってだな」
「"副"ですか」
「げふんげふん! あー、いや、臨時収……その話は置いといてだなっ」
"主"があったためしがいつ? と暗に嘲うシリウスに痛いところを突くどころか貫通されて尚且つぐりっぐりに抉られた勇人は苦し紛れに言い直した
基本的に彼らの探し物の旅に収入など発生しない、何故なら奉仕活動だから
勇人だって、以前は講義の合間にバイトを入れたりしてそれなりにはやっていたが、過去の話は過去にしか留まらない
因みに、戸籍と性別を違えてしまい諸々の状態から地球でも生産的な行動を取れない勇人と違い、シリウスは地球でも高給取りになっている
その能力を悪気も罪悪感も無く使って、総ての品質において一級品の作物を栽培し出荷しているからだ
これはご近所の妬みや顰蹙を避ける為、ご近所を丸々取り込んだ上でのものであり、地域活動にも黙々と参加するシリウスは崇拝されている、コミュ障なのに
因みに生産活動をとれるだけあって、戸籍もちゃんと取得している、記憶喪失者として
更にどうでもいい話だが、戸籍取得にあたって、折角だから漢字にしようぜ! と勇人が【尻薄】や【知薄】の字を提案したところ、真顔で四十八時間一言も無く凝視される、という苦行に曝された
一体、何が"折角"なのか……
シリウスにはさっぱり分からなかったが、名前はカタカナで落ち着いた
蛇足として、勇人が下着を新調する時の資金源はシリウスに対する借金である
現在のシリウスは頻繁にサイズアウトする下着をオーダーメイドで奢り続けても何ら懐に刺激は無いが、勇人のなけなしの男としてのプライドには大ダメージだからだ
「えっと、収入……だすか?」
それがどしたんだべか? という様子のレプスに勇人は口篭る、あっさりと売買のやりとりがあった事だけを伝えればいいのか、それとももっと詳しく……言ったら脅えるだろう
一方のレプスも困惑していた、任務中に発生した収入とは、報告しなければいけない部類のことなのだろうか
勇人の雰囲気から、お布施というわけでも無さそうだが、基本的に神属者の出向任務というのは、予算を越える金額が必要になった場合、現地調達などして出向中の者が自力で補填するものであり、発生分については報告の義務が無い
本人の労働によって得た金銭は本人の物であり、もしソレが神に献上されるのだとしても、それは寸志であって賄賂ではなく、善意や敬愛、誠意によって捧げられる物だということだ
シリウスとレプスが属する宗教は、人の精神面については非人道的だが、そういった面については清廉潔白であるとも言える
清廉潔白が聞いて呆れるが
「そう、あー……えっと……この船にな、商人ギルドの幹部が乗ってたんだ、その人から依頼を受けて、この部屋にな……」
「こん部屋が代金なんだすか?!」
「じゃなくてじゃなくてっ えー……ぁー……この部屋は、依頼完遂後に、こ、厚意……で……貸してもらったんだ」
「厚意」
ハッと鼻で哂うシリウスの膝を勇人がべしりと叩く
実際には厚意ではなく恐怖だ
この部屋は客室の中でも末端に位置している
実は進められたのは最上級の部屋(隔離部屋とも言う)だったのだが、一介の超庶民として調度品に慄いた勇人が固辞したため、次善策としてこの部屋になった
部屋代も最初の部屋を含め、礼の意味も兼ねてタダでどうぞ、と言われたのだが、タダより高い物は無い
しかし、恐怖に慄き可能な限り災厄の根源から遠ざかりたいという気持ちも分からなくは無いので、最初の部屋代でこの部屋を借りることにした勇人だった
(そりゃあ、目の前で解体ショーをやられちゃあなぁ……)
最後の一滴まで血を抜かれ、見るも無残な骸となった火竜や、無残どころかSF映画でエイリアンに卵を産み付けられたクルー役なキメラの体の中から新しいミニエイリアンがこんにちゎ☆ しちゃった後の残骸だとか、活きの良い(逃げるのに必死な)タコだとか
そういった状態のアレやソレを更に観衆の目の前で「○○には無駄な部位などありません、全て美味しくいただくことができるんですよ☆」などと某料理番組を彷彿とさせんばかりに綺麗に骨や爪、牙、肉や内臓、皮なんぞを外したシリウスの姿が大層恐ろしかったらしく、懐的には良い売買だったが、現状は村八分状態になっている
因みに朝食を作る為に、シリウスでは用意できない肉や魚、卵の類いを調達するため販売所に行った折にはちょっとした騒ぎになった
「厚意だすか! きっど女神さまの慈愛に感じ入ったんだずな!!」
「んん?」
何がどう回路が繋がって"慈愛"という単語が飛び出たのか勇人には分からなかったが、とりあえずソレは置いておくことにした
「ま、まぁとりあえず、飯を再開しよう、冷めるからな」
「んだすな! せっがぐカミシロさまがつぐっで下さっだんに冷めちまっだら申し訳ねぇべ!」
「飯食って人心地ついたら、今後の行き先とか予定とかの話しをしよう」
「はいだす!」




