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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
選びし道行き
24/144

01

 レプスが目覚めた時、そこは簡素だが上品に纏められた部屋だった


 窓があり、日除けの布が掛けられ、布越しに淡く光が降り注ぐ

 寝台がぎりぎり納まる程の広さしかなかった筈の部屋には、レプスの荷袋の置かれた小さなテーブルと椅子、そして収納棚とポールハンガーが一台ずつあった


 ぎょっとして上半身を起こす為に突いた手は、ずむっと寝台に沈み



「ぶぼっ?!」



 咄嗟の事に体を支えきれず、顔から着地した



「ひ、ひぃッ!」



 寝起ぎで顔なんが洗ってねぇべっ、汚すだら弁償?!

 瞬時に海老のように背中を逸らして再び起き上がったレプスはその勢いのまま二回転して上掛けを巻き込みながら床に落ちた



『マリーっ?! おおぎな音ばさせでどうすだんだべっ』


「レプス?! 何の音だっ? どうしたっ?? 起きたのかっ? 大丈夫かっ??」


「お、おっ母?! カミシロさまっ で、でぇじょうぶだなす!」



 霊体らしく閂の掛かった扉をすり抜けてきた母親に驚きながらも返事を返したレプスは、慌てて着替えだす



『落ぢ着がねぇど、そっだら乱暴にしだら服が破れるべなっ』


「わ、わがっでるべっ」


『ふんどに分がっでんだべな』


「わがっでる! 子供じゃねぇんだがら着替えぐれぇ一人で出来るべっ」


『はいはい、んだら先に行っでっがら、慌でで転ばねぇようにな』


「転ぶわげねぇべ!」



 生前のように口煩く小言を言った母親が扉をすり抜けていったのをぷりぷりしながら見送ったレプスは、そのまま勢いに任せて袖に腕を通し、直後に ぷつぷつ……、と不穏な音がした所でぎくっとなって そろそろと通したばかりの腕を慎重に抜いた



(……ど、どこだべ、今 糸さ切れる音が……っ)



 暫く、捜索を続けていたレプスだが



『マリーっ? 何しでんだっ、飯が冷めるべっ!!』


「わ、わがっでるっ 今 行ぐとごだ!!」



 扉の向こうから急かされて、手に持った服に再び慌てて腕を突っ込んだレプスの耳に、再度 ぶつぶつっ と不穏な音が届く



(ひぃぃっ?!)



 もうどうしていいか分からないレプスは、とりあえずそのまま不安の根源を慎重に着込み、動きを意識してか挙動不審気味になりながら部屋を出た


 なぜ、別の服を着ずに そのまま不安の根源を着たのか、それは永遠の謎である



「おはようレプス」


「おっ、おはようごぜぇます!」



 勢いよく頭を下げたレプスの耳に、ぶちぶちぶちぶちぶちっ と再び不穏な音が強襲し、レプスはそのまま動けなくなった



「レプス? どうした? 頭でも痛いのか? 熱は? だるいか??」



 昨夜、シリウスの用意した睡眠作用のある果汁で強制的に眠らせたことを思い出した勇人は、シリウスの膝の上から降りて頭を下げたままのレプスの顔を覗き込み、額に手をあてて熱を測る



「……熱っていうか、むしろ低いな? 大丈夫か??」



 体温が低いのは血の気が引いた所為だ



「脇腹と、背中です」


「は?」


『あれまっ まっだぐ粗忽なんだがらっ ほれ着替えでけぇ!』



 シリウスがぽつりと指摘した箇所を確認したレプスの母親が娘を部屋へと追い立てた



「ぁ……ああ、服か、いや古着ですもん仕方ないですよ、レプス、着替えたら昨日買った服全部持ってきな」


「はいだす……」



 しょんぼりとしたレプスが着替えを終えて、現在 着ているもの以外の古着を申し訳なさそうに勇人に差し出してくる



「ミシンで上掛けに縫っとけば大丈夫だろ、流石に手縫いは小学校の家庭科の授業でボタン付けしか習ってない身としては、文明の利器に登場してもらわないとな」


「これ以上 女子力が高いのも困りますからね」


「高くねぇよ」


(なに言っでっか、わがんねぇだ……)



 次々に飛び出す聞いた事の無い単語をレプスはただただ傍聴するしかない



「取り敢えず、これは一旦 預かるから、返す時にまた着替えて、今度は今着てるヤツを換わりに預かる、それまであまり大きな動作はしないように気をつけてくれな」


「そうですね、破くと誰かさんみたいに運命が捻じ曲がりますからね」


「うぐぅッ」



 服を破いて運命が捻じ曲がった勇人をシリウスが三つの眼でじとりと見た


 勇人は過去 二度ほど服を破き、その度においそれと他人様に言えない事態になっている

 一度目は必要に駆られてだが、二度目は完全に自業自得であり、それが動かし様の無い現状の原因であった



「と、兎も角、飯、朝飯にしようっ 俺が作ったんだけど、レプスの口に合うかな」


「え、あ、こ、こげに立派なご馳走ばこんなたぐさんカミシロさまがお一人で?! て、手伝わなぐでごめんなさいっ」


「いーっていーって、ほら座って、合わなかったら残してもいいから」


「そんなごとねぇだす! い、いただぎますっ」



 なるべくシリウスの方を見ないようにしながら初めて食べる異国の料理に浮き足立っていたレプスだが、ふ と思い出す



「……あのぉ」


「ん?」


「こん部屋さ、どごだすか?」


「あ」



 眠る前と違う部屋で目覚めれば、普通は誰だって不安に思うだろう


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