11 (■グロテスク注意、飛ばし読み可能)
■グロテスク注意、飛ばし読み可能です
ディーパガウナ……地球人が見れば大抵は元が何か分かる、恐らく地球から此方へ来てしまったタコが変異した魔獣だろう
まぁつまり、美味いのだ
エディグロワフとセレグレイブ……、あー、翼を持った見た感じ正統派の火竜っぽいエディグロワフと、二対の水牛のような角を持ち、頭部から腰に掛けては猿に似て、その頭部は犬のように鼻先が伸びており腰から下は四足の偶蹄目、蹄は炎を纏っており翼を持たない体を浮かせる要因はコレだろう、そして全体的に長毛、これでなんとか姿を想像できるだろうか、こちらがセレグレイブだ
これらを含む溶岩の海に生息する多くの肉食魔獣のアイドル、それがディーパガウナである
そんな高嶺の花を奪い合う漢達の間に乱入した第三の間おと、じゃなくて漢……ではなく、油揚げを掻っ攫う鳶……でもなく
まるで厄災が人の形を成して降り立ったように
……絶叫、とでも言うのだろう
びりびりと伝わる振動を音として認識することもできず、ただ、痛みとして享受させられる
多くの耐えられない者達が耳を塞ぎ、頭を抱え、甲板に膝を着く
既に聴覚が破壊されたか、或いは耐えている一部の人間は、瞬きすらもできずに、一方的な虐殺をただただ凝視していた
魔獣たちは恐怖に駆られ、ただ我武者羅に抗うがそれが一体何になるだろう
シリウスは茨を足場に跳び回り、それを捕まえようと掴み掛かろうとしたセレグレイブの腕は、軽くシリウスが弾いただけで関節が外れたのかごきゅりと嫌な音を立ててぶらりと下がる
続いてもう片方の腕も外すが、ぶらりと下がった腕をそれでも振り上げようとセレグレイブは振り回す
それをまた とん と、シリウスが外した骨の末端あたりを押すと筋肉の合間を掻き分けた骨が皮を破って突き出した
絶叫の中、その骨はそのままシリウスに引きずり出され、二本、三本と抗うセレグレイブをものともせずに奪っていき、ファティニの前にごとんごとんとずっしりとした音を立てながらも投げ込まれていく
これを、セレグレイブだけでなくエディグロワフの攻撃をも避けながら茨を足場に飛び回りつつやるのだ、まるで背中にも眼がついているように、前を向いた顔を一切傾けることなく
「な……んだアレ、あんなことが」
「可能なのか……?」
「いや、それよりも、あんまり追い詰めたら……っ」
少なくとも可能なことは確かだ、誰にとも無く疑問を投げ掛ける彼らに出来るかどうかは兎も角として
粗方 邪魔な腕を始末したシリウスはそのままセレグレイブと擦れ違いエディグロワフの頭に手を突くように着地し、そのままついた手で硬い鱗に覆われた表皮を べろり と、熟れてぐずぐずになった果物から皮を剥ぐように頭から尾の先まで綺麗に剥ぎ取った
切断面くらいならば見た者はそれなりにいるだろう
だが、竜の皮膚の下など、一体何人の者が見た経験を持つだろうか
剥き出しの筋肉が電流を受けたように微細動をする、その、無残な姿、一際大きな絶叫
「まさか、うそだろ?」
剥ぎ取った皮は放り投げられ、伸びた茨がそれをまるで風に飛ばされた洗濯物を捕まえるようにぐるりと巻き取り、ファティニの前にどさりと降ろす
目前に曝け出されたその内側は、無理やり剥ぎ取られたといった風ではなく、綺麗に剥離したと表現した方がしっくり来る
あまりの光景に商人は心臓が止まりそうになった
だが、自分が頼んだ物を思い出せば、皮膚一枚で終る筈が無い
助けを求めるように、無意識に勇人の方へ縋るように眼を向けるが、彼女は何かふわふわとした大きな綿玉のようなものを生やした植物を耳にあてがい、周囲のことなどそ知らぬ様子で何時の間に取り出したのか毛布に包まりビーチチェアに横になっている
因みに勇人の動体視力は並の地球人程度なので、シリウスの動きなど追える筈もない
一方で皮膚を奪われたエディグロワフの筋肉は瞬く間に白く濁っていった、恐らく熱に耐えられなくなった為だ
驚異的な再生力で完全に熱が通るのを防いではいるが、シリウスの比ではない
シリウスのように痕跡すらも残さず、とまではいかないのだろう、綺麗に剥離してしまった所為か失った皮膚までは再生できず、それがじわじわと体力を削っていく
翼は失っていないが、上手く飛べないようであちこちにぶつかっている始末だ、半ば のた打ち回っているようにも見える
それを見ていよいよ恐慌状態に陥ったセレグレイブの後頭部がぼこりと盛り上がり、更に口をがばりと大きく開く、……十字に
開いた口はそのまま胸から腹、膨らんだ後頭部から背中、左右の肩から脇腹、瞬く間に裂け目を大きくしていく
「ひぃっ?!」
あちらこちらで息を呑むような悲鳴が漏れる
セレグレイブがこの形態をとる時、それはすなわち自爆の時を表していた
これが、護衛たちがおいそれと手を出せなかったもう一つの理由でもある
命の危険を感じたセレグレイブは、膨らんだ後頭部内に核を変質させ種子とも言える分身を作りだし、内臓の殆どを溶解液へと変貌させるのだ
本来なら内臓と骨や筋肉を分ける膜の中にたっぷりと詰まった溶解液は最後には盛大に弾け飛びソレを浴びた敵も自身の肉体もどろどろに溶かす
弾ける前に始末をつけようにも膜はちょっとした刺激で破れ、迂闊に手を出すこともできない
解けきったそれらは瞬く間に固まり、残った種子の餌になるというわけだ
溶解液を浴びたものは餌として保存される為に溶岩だろうと燃やし尽くすことはできない
急激に膜を膨らませるセレグレイブの姿に船上は騒然となる
いくら結界に覆われていて溶解液を直接浴びることはないとはいえ、結界を覆った溶解液はその後固まるのだ、一体どうなるのか想像すらもつかない
だが、そんな恐怖の中でも繊細さと無縁の男が一人
膨らんだ膜を無遠慮に掴み、ぶつぶつと音をさせながらセレグレイブから引きずり出すシリウス
「ひぃっ、やめ、やめろっ!!」
引きずり出された膜の袋はたぷんと揺れ、展望台の上にべちっと放り投げられた
「ひ、ひぃ?!」
思わず飛び退くファティニ達だが、膜が破けることは無かった
その原因はシリウスが膜に手を加え、厚みを"異常"にしたことにある
種子も取り上げられ絶命したセレグレイブを茨が宙吊りにすると、そこへ一息入れるように"都合よく"ごぽりと海が大きく弾け、柱のように溶岩が吹き上がった
茨を焼きながら球体内に入り込んだ溶岩にシリウスが無造作に腕を突きこみ、引き戻された手には真っ白に白熱した長い筒状の鉄が握られていた、鉄は急激に冷え、白から赤、赤から赤黒く色を変えていく
そのまま何本か筒を取り出すと、あちらこちらにぶつかるエディグロワフの首目掛け投擲し、また絶叫が響き渡る
投げた次の瞬間には既にシリウスは動いており、ファティニから提供されたリング状の魔具がその人差し指には掛かっていた
リングには茨が絡みつき、シリウスがソレを絡めたまま引けば、リングは巨大な輪に変容する
大きく広がりきったリングの中に、エディグロワフの首に刺さった筒からどぶどぶと血液が注ぎ込まれ、そこに見えない底があるようで空中に溜まっていく
まるで悪魔の拷問を見るかのようなその光景に、誰も彼もが息すらもできずにいた
続けて残りの筒も投擲したシリウスは、茨によって逆さ吊りにされたエディグロワフも振り返らず、最後の目標に眼を定める
そこには阿鼻叫喚の抵抗劇にも加わらず、ただ只管に逃げようと茨の籠の外へと触手を伸ばしていたディーパガウナの姿があった
その触手は長さ四~五kmといったところか
飛ぶ能力を持たないディーパガウナはこの触手を使って遥か上空の獲物に取り付くようだ
先程溶岩が空けた穴は直後に塞がっていたが、そもそも穴に近づくことはシリウスに近づくも同じことなので選択肢に無かったらしい
「とりあえず、足の一本もあればいいでしょう」
たこ焼き、決定。
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