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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
俗物の欲望
22/144

10

■次回、グロテスク注意

 普段は絶景の観覧席である筈の特等席も、今 この状況では色褪せる他無い


 頭上では三体の魔獣が三つ巴に争い、ファティニの目の前では半裸の男が女に髪を結わせている

 長い髪は長い三つ編みになり、三つ編みは後頭部でぐるりと纏められた


 長い髪はシリウスの性格では鬱陶しく感じるが、万一の為の命綱だ、切るわけにはいかない

 髪には神が宿る、誰もが知る通り事実ではない、では何が宿るのか


 髪に宿っているのは生命力、魔力とも呼ばれるソレは勿論 髪だけでなく肉体にも、精神にも宿っている

 髪を伸ばすとはつまり、魔力が宿る為の体積を増やす行為だ


 いつもなら下ろしたままの髪を纏めるのは場所が場所だからだ、髪が燃え落ちても焦げ落ちた部分しか異常状態とならず、土の能力でも元の長さまで伸ばすことはできない

 無理に伸ばすことは異常状態を作り出すということだ


 話は逸れるが異常状態を作り出すのならば勇人を元に戻すのではなく"男に作り変える"こともできる

 ただし、勿論それは正常な状態などではなく、その後どんな事態になるのかも定まらないだろう



「うっし、こんなもんだろ」



 勇人の合図を機にすっと立ち上がったシリウスは、上半身には何も纏わず、下半身は丈の足りないズボンのみ、脛あたりまで裾を捲り裸足だ

 耐火処理の施された服の大半が結界外に出ている護衛たちに装備されており、残ったものの大半が規格外の小ささか袖捲りや裾捲りでは対処しきれない大きさしかなかった為にこんな格好になっている

 下は腰周りが入ればなんとかなるが、上は肩幅の関係上無理をしてもどうにもならなかった


 彫り出された美しい石像のような男の半裸を前にファティニはぬるくなった茶を飲む、高級な筈なのに味も香りも感じられない

 美しくはあるが、同性に反応したら大事な何かを失うような気がしてならない、ファティニは悟りを開いたような無我の境地を極めんと(意味同じだろ)お茶を飲み込む



「まぁほどほどにな(やり過ぎて逆効果も困るし)」


「善処します」


「おお、模範的(日本人)な回答をありがとうよ」


(あまり法外な力を揮うと討伐対象になりますからね)


(お前を倒したら世界を救えそーな気がするけどな、ワリとマジで)


(流石"神に代わりし勇ましき人"は言うことが違いますね)


(うっせ、次言ったらお前の頭にゴージャスローリングなツインテール爆誕させんぞ)


(ソレ、諸刃ではなく片刃の剣ですよ)



 暗に、ソレでダメージを受けるのは勇人だけだとシリウスは告げた



「んじゃ、励めよ」


「そこそこを確約しましょう」



 目先の二人からは、やるぞ、という気概というか覇気というか、そういったものは一切感じられず、ファティニは若干の不安を覚える


 彼らがいるのは船の最上部に当たる場所だ

 都市程の規模のあるこの船に、帆柱は存在しないが展望台は存在する

 富裕層の人間を楽しませるための観覧席がそこにはあり、夜の闇の中でも遠く赤い海原を望むことができた

 甲板から見るよりも結界が近くにあり、つまり魔獣の存在はすぐ傍にある


 その観覧席の中でも、特等席とされる場所に勇人たちは陣取っていた

 観覧席は円形の三層構造になっており、その一番上にはテーブルセットや所謂ビーチチェア風の椅子が配置されている


 勇人はビーチチェアに胡坐を組んで座り、シリウスは床に直接座って勇人に髪を纏められており、ファティニは少し離れたテーブル席からソレを眺めていた


 ファティニの視線の先で立ち上がったシリウスは、ファティニから預かったリング状の魔具を勇人から差し出されると、彼女の下腹部を念入りに撫ぜてから受け取り、彼はそれだけを手に持って勇人から離れていく、……その瞬間



「「「ッ?!」」」



 勇人を中心に囲い込むように腕の太さ程もある茨の数々が絡み合うように伸び、籠のような半球状の形状を生す、茨からは指の長さ程もある鋭利な棘が無数に生え、その先端からは何か液状のものが滲み出し、誂えたように走る無数の溝に沿って満遍なく表面を伝っているのが見て取れる


 その様子に反応して茨とファティニの間を遮るように出た護衛たちを勇人が手で制した

 先程のシリウスと勇人のように、すぐ傍に居たならばその声も聞こえただろうが、流石にこの環境では少しでも距離が空くと魔具でもなければ言葉を拾い上げることは難しい

 だが、ゆっくりと読ませるように形を変える唇は、彼らに間違え様も無くその言葉を確かに伝えた



――触ると、死ぬぞ



 ファティニ達には、その茨の檻がシリウスの能力か それとも勇人の能力なのかは判断が付きかねる


 勇人を包み終えた茨は尚もその身を伸ばして縒り合わさり、円筒状の塔のようになって結界に張り付いていたディーパガウナ(タコ魔獣)を突き上げ、剥がした



 き゜ぃぃあぁああぁぁあああ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ッ!!



 一際大きな衝撃と共に耳を突き抜けるソレはディーパガウナの鳴き声だろう

 他の二体の合間を飛ばされる魔獣よりも速く伸びた塔状の茨は絡み合いながら拡散して瞬く間に船体を巨大な球状に包み込み、ディーパガウナは勿論のこと三体共に逃がさなかった


 そのまま伸び続ける茨は棘を潜め魔獣達を遠巻きに静観していた護衛達を有無を言わさず騎獣ごと絡め取って結界内に乱雑に放り込む



「化け物かよ……」



 護衛の一人が思わずといった風に私語を漏らす

 茨が船体を包む一方で、既に一方的な状況は定まっていた

 茨を用いて魔獣を拘束することは簡単だが、それではパフォーマンスとして弱い

 ある程度 力を揮い、ほどほどに恐怖を植え付ける、勿論 観客にだ


 御し易いだなどと、戯れにも思えないように

■次回、グロテスク注意

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