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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
俗物の欲望
20/144

08

「さて、腹もいっぱいになったし、どーすっかな」



 食事を終え勘定を済ませた勇人は思案する


 依然として揺れは続いており、レプスの母親が呼びにくる可能性を考えるとあちらに戻って眠るわけにもいかない

 というか眠気はまだ訪れていないので眠ろうとしても眠れるかどうかは分からないが、いざという時には睡眠作用のある果汁をシリウスに出してもらうこともできる

 ……レプスの母親が訪ねて来た場合を考えると、起きれないこの方法は却下だが


 この騒ぎでは遊興施設は元より販売所だって開いていないだろう、食堂が開いていたのは意地なのか何なのかは悩みどころだ

 借りている客室内を明るくすることは可能だが、時間を潰せるような物も無い


 ソーラーバッテリーがあるのでスマホなら使えるが勿論通信ができるわけではないのでダウンロード済みの漫画や小説、ゲームが頼りになるわけだが、ここ最近は向こうに帰ってもそれらのコンテンツを吟味する時間も無く

 そして手当たり次第にダウンロードできるだけの資金力は無い


 というか折角なけなしの金を投入するのだからサンプルや粗筋をよく読んでなるべく好みから外さないようにしたい(それでも外れた時の脱力感と言ったら……!)

 まぁ兎に角、そういった諸々の条件をクリアしてダウンロードしたコンテンツは何度も読んでいるので頭の中にしっかりと入っており、新鮮味は全く無いわけだ


 ゲームにしたってオンライン状態なら兎も角、オフラインでは遊べるステージも限られている

 しかも、攻略中だった難易度の高いステージは何時の間にか総て三ツ星で攻略されていた、勿論 犯人は分かっている、このやろう



「観光でもするかぁ」


「営業強制停止中の船内を?」


「営業強制停止中の船内を……ををっ?!」



 どぉん! という一際大きな衝撃が走り、体勢を崩した食堂内の何人かの他の客たちがテーブルにぶつかり椅子ごと倒れる

 客席の木製の食器が床に落ち、中身がごろごろぶち撒けられ、からんと音を響かせる、流石陶器を選ばないだけのことはあった、まぁ陶器や硝子などという高級品をこんな場所で出す筈も無いが

 因みに厨房では何かが落ちる音は一切無い、職場を熟知し対応策は万全ということだろう




「釣れたようですね」


「ああ?」


「イカやタコには海中だけでなく空にも天敵がいるそうですよ」


「……何が釣れた?」


「何に見えますか?」



 視界が共有される

 タコに襲い掛かる二つの大きな存在、護衛たちは散り散りになり、船から遠ざかってしまっている、休むための陸地は無く、長引けば体力は尽き、溶岩の海に落ちることになるだろう


 溶岩の明かりに照らされた二つのソレは



「うん、立派なファンタジーだ」


「それは良かったですね」


「おう」


「それにしても次の港への寄港は確実に遅れるでしょうね」


「だろうな、あー、これ朝までに方が付くのか?」



 まさかこんなものを纏わり着かせたまま入港するわけにもいくまい、追い払うか討伐するまでは港を目視できる圏内に近寄ることすらもするわけにはいかなくなる、勿論、目視圏は人のではなくこの騒ぎの主軸的生物のものになる


 そんなものを引き連れて人の住む領域に飛び入ればどうなるか、子供にも分かることだ


 問題はレプスのことだ、旅をする以上荒事にも動じないようになってもらわなければならないが、それは初回で失敗し、彼女は取り乱し今は眠らされている

 一人立ちを急いだシリウスの失態であると言わざるを得ない

 朝には目覚める予定だが、それまでに事態が終息していればいいが、終っていなければこの騒ぎの中で朝食をとらせなければならなくなるだろう



「どうでしょう、護衛の質にもよります」


「絶対ぇ費用ケチってるぞ」


他人ひとを当てにされても困るんですけどね」


「全く仰る通りです、面目次第も御座いません」



 第三者の声に勇人ですらも驚くことはない

 その近づく姿は共有されていた視界によって既に視認されていたからだ


 費用をケチるだの他人を当てにされても困るというのも、わざわざ隠蔽用の術を解除した上で行った聞こえよがしのささやかな当てつけに過ぎない



「御機嫌ようアーシャルハイヴ殿、わたくし商人ギルド幹部を任されております、名をアヴィッド・ファティニと申します」



 護衛と思しき男を二人引き連れ、その男は猫のように目を細めた



「同席させて頂いてもよろしいでしょうか?」


「なんでだ?」


「お願いがあって参じました」


「おねがい、へえ、おねがいねぇ……断ったら?」


「勿論、港に着くことなく未来永劫彷徨うことになるかと」


「まぁ普通はな」



 にぃっこりと、笑顔を押し付けてくる自称商人ギルド幹部に勇人も笑顔で応戦する

 商売人はこうでなくては務まらない、それは分かる、だが商人同士でもないのに初っ端から脅してくるのは戴けないだろう

 しかも商人のクセに"お願い"ときた


 まぁもっとも、彷徨うのだとしても勇人達以外が、ということになるだろうが



「それは勿論、其方様方ならばこのような苦難は道端の小石程のものでもないのでしょうが、なにぶん我々は卑小な身の上ですので」


「そうかそうか、そりゃあ大変だなぁ?」


「ええ、まったく生き辛い世の中で困りものです」



 一方、自称商人ギルド幹部も思考を廻らせていた

 アーシャルハイヴ殿と声を掛けたにも関わらず、当のシリウスは商人に対しては一言も発しない

 それどころか、応じた娘は舌戦を煽ってくる


 予め仕入れていた情報よりも尚悪い


 出張窓口での様子を聞く限り、短気な男を女が諌めている風に感じられ、女が諌めるのを期待して口火を切ったつもりだったが、どうも早計だったようだ


 短気なのは女の方とみてまず間違いないだろう



「で? "おねがい"か?」


「はい、我々の"依頼"をお受けいただきたく、お願いに参じました」



 言い改めると勇人は溜飲を下げたようだ、にやりと笑って続きを促す

 商人に譲らせるとは、予定調和だとすれば本当に恐ろしいのはどちらか


 女は怒らせると怖いとはよく言ったものだ



(貴女、短気過ぎるんですよ)


(うっせ)



 勇人は以前にも躾けの悪い餓鬼相手に大人気なく接したという前科がある

女っていうかオカン

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