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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
生まれ変われない(仮題)
143/144

06

「……この揺れはいつまで続くのかしら」


「まあ妃殿下、何も恐れることはありません、ここは屋外ですもの、それに現在の館はあのようになっておりますし、何かの下敷きになることはございませんわ」


「そうだす、それよりも木苺さ早ぐ収穫すねぇど、熟れきっで落ちちまうべ」


「……そうですわね」



 王妃、大公夫人、レプスの三人は、いそいそと木苺の収穫に精を出していた

 夫達に昼食を振る舞い少しの休憩をとった後、今度は翌日のデザートやジャムにする為の採取作業に勤しんでおり、すっかりこの生活に馴染んでいる


 彼女たちが居るのは後宮の最奥、王の寝所にして王太子に修行の場として利用させる為にシリウスによって作り替えられた庭園は、現在、またその景観を変貌させていた


 堅牢な密林に囲まれている状態については変わらないが、その内側には様々な可食性植物が生い茂り、牛と羊の間のような動物と採卵用の鳥が庭園をうろついており、外部からの食料が途絶えても数十年単位で耐えられる仕様になっている

 水についても王妃と大公夫人が魔術によって出せる他、魔具も備えているので問題ない


 このように籠城仕様になっているが、勿論災害に対してもある程度対応している


 災害に対してはシリウスによって王城全体もそれなりに強固なものになっているが、中でもこの後宮の庭園は特に強固で、庭園の地下には細い根が複雑に絡み合って密集しており、園内の生活空間もしっかりと根を張った火に強い大木の虚の中に築かれており、内部の家具に至っては大木の内側が部分的に奇形化したもので棚類も寝具も倒れることは無い

 因みに言うまでもなく家具類については王太子の力作である


 女性陣が団結して家事に努める一方、男達は天変地異とでも言うべき災厄に東奔西走していた



「陛下、ランドゥルーグと連絡がつきました、殿下方は此方を目指し国境を越えたそうです」


「そうか! 負傷は」


「ご無事だそうです、殿下の言によれば、今回の大量死については、恐らく咒いである、……と」


「咒い……だと……? 咒いで民が、死んだり生き返ったりするというのか?」


「生き返ったことについては状況が掴めていませんが、死んだことについては、彼ら土の能力者の力を殺ぐ為のものである可能性が高い……と」


「なるほど……」


「大量死によって大地が穢れたらしく、今後、この地を含め多くの大陸が不毛の地になるのではないか、と」


「なにっ?!」


「そこで、此方へ連絡を取る前に、ギルドへ浄化のできる者の派遣を依頼しようとして下さっていたようです」


「それで、連絡がとれなかったのか……」



 シャンガル国中枢では、突然の民の大量死によって混乱している所へ奇跡とも言うべき復活劇が国中で起こり、混乱が混乱を呼んでいた

 どうも市井で流行っていた色墨によって引き起こされたようで、そういったものを肌にいれないある程度以上の貴族階級の者にはほぼ被害がなかったようだが、国というものは貴族だけで成り立っているものではない

 貴族だけが生き残っても、そこに優劣を決める為の争いが生じ、負けた方は食い潰され、奇跡の復活劇が無ければ、やがて国は滅びていただろう


 事態がはっきりするまでは、と

 後宮に篭っている王妃達には何も知らせずにいたが、悪い報告をせずに済んだことに安堵する



「殿下方は兵は双方全滅だろうとの判断を下し戦線を離脱したそうですが……」


「……うむ、息子が後にした戦場でも、奇跡が起こっているやもしれぬな」


「此方からの情報から殿下もそう判断し、戦場へ戻るそうです」



 恐らく彼らの予想通り、双方の兵は生き返っただろう


 だが、人々が生き返っても、異変は続いている

 この地震だ、後宮と王宮については立って歩ける程度の揺れしか感じないが、城下ではその揺れは激しいものが続いており

 人々が生き返りはしたものの、揺れによる家屋の倒壊や地割れが頻発していた


 王都に残った兵たちは、地震により発生した災害の被災者の救助の為に城下を奔走している



「ところで、他の者はどうなのだ」


「ランドゥルーグと随行のラティナ殿についても無事なようです」


「……シリウスと魔女殿は、どうした?」


「恐らく狙われたのは自分たちだろう……と、殿下方から離れたようです」


「……負傷については」


「シリウスが……血を、……吐いていた、と」


「……そうか」



 国王達が状況を立て直す為に奔走している頃、王太子エルディアルも地が裂ける程の激しい揺れの中を砦を作って自軍の兵を回収し、降伏を条件に敵兵も回収して回っていた



「殿下っ、先程からのこの尋常ではない揺れは一体……っ」


「……恐らく兄上です」


「シリウスが?!」


「怒っているんですよ、兄上が」


「怒って……?」


「僕はね、ラドゥ殿、……この身が健常になればなるほど兄上を恐ろしく感じていました、兄上がひとたび感情を露わにすれば、我々只人は決して無傷では済まないでしょう、そんな自分自身を自覚し、静かに、静かに生きている兄上を、誰かが、怒らせたんです」



 兵を忙しなく回収しながら、王太子の声色は追い詰められたように抑揚を無くしていく



「ここでの回収を終えたら、道中の町や村で民を回収しながら戻りましょう、なるべく――最悪の事態に備えて」

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