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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
生まれ変われない(仮題)
142/144

05

「片手だけとはいえ わたしの支配に抗う力があったのですね、いいでしょう、宿賃代わりに手伝って差し上げます」



 違和感すら、無かった


 その瞬間、二人を囲む敵は何かの衝撃を受けたかのように吹き飛ばされ、その後するりと下腹部を撫ぜた手が離れると、すとん、と勇人は地面に下ろされる



「オマケもして差し上げましょう、貴方のような男は嫌いではありません、――わたしに良く似ている」



 精々這い上がることです、そう言った直後、シリウスの身体から、影でできた人型の陽炎のようなものがズレるようにして顕れた

 途端にがくんとシリウスは膝を突き、大地に手を付く



「シ、ぅ、おっ?!」


「っぐ、……ヴッ」



 シリウスを中心に、まるで蜘蛛の巣のような亀裂が大地に走り、波打つ波紋のように地面が押し流され、瞬く間にクレーター状に落ち窪んでいった

 土塊の波に乗るようにして遠ざかっていく勇人は、呆然とシリウスを凝視する

 遠目にも分かる、嘗て、王太子であるエルがそうだったように、肉体に亀裂が走り、爆ぜ、分解し、再結合を繰り返していた




「お……ぃ……なにした……シリウスに何したんだテメェ!」


『殻を破ってさしあげただけです』



 陽炎の胸倉を掴もうとした勇人の手は当然の事ながら擦り抜けてしまうが、その瞳は怒りに染まっている



『魔物の眼を取り込んで己のものとする、元々そういった素質があったのでしょう、彼はわたしに似た性質のようですから、手っ取り早く処理しただけのこと』


「処理だと……っ」



 その陽炎のどこから音を発しているのか、勇人の耳には変わらず明瞭な魔導師の声が届いていたが、伝えられる内容は、勇人の怒りを煽り続けた



『心配は要りません、こういったものは慣れです、より大きな力を取り込むコツを覚えれば、後は存外容易いものです、そうなれば際限はありません……ただし、取り込めるからといって扱えるかと言えば、必ずとは言えませんが』


「……ざけんな、てめぇ」


『ほう、わたしの予想以上に随分と忍耐強いようです、まぁそれもそうでしょうね、彼が激痛に呑まれ自我を失えば、この場で一番弱い貴方は一瞬で消し飛びますから、大切なモノを大事にできているようで何よりです』


「なにがなによりだ!」



 性質だけでなく気質も良く似ている、と呟く魔導師の言葉からは、他人事という空気がしっかりと伝わって来る


 まるで話にならない


 そんなことは魔導師に言われずとも勇人とて充分に理解している

 シリウスが制御出来ない程に増大する力を、せめて外に放出しないよう耐えている結果が、アレだ

 勇人には想像もつかない程の破壊と再生を自らの肉体に留め、そしてその結果 自身の肉体が耐え切れずにあの惨状を晒している


 魔導師に支配され、それでも尚 離さなかった手を離し、なけなしの理性でもって遠ざけた

 我慢強いにも程がある


 何が普通だ、何が良い子だ


 ちっとも普通じゃない、ちっとも良い子じゃない

 痩せ我慢をし、人に心配を掛け、時に哀しませる



「おまえは、最悪なロクデナシの甲斐性無しで大馬鹿野郎だ!」


『根性ドラマですか、時には必要な要素でしょうか、折角ですから手伝って差し上げましょう』



 こういうところでこまめにポイントを稼いでおくと、後で妻が労ってくれるんですよ、と

 流れを遡るように走り出した勇人の背後で、そんな声が確かにした


 それに呼応するように、久しく最低限しか歩くことが無かった筈の勇人の足は、まるで短距離走のアスリートが長距離を全力疾走するかのように加速していく


 相変わらず土塊の波は勇人を押し流すように動き続けるが、それをものともせずに"まだ夜のように暗く、光と塩の柱が聳える中を"駆け抜けていった



「歯ァ食い縛れぇぇえええええッ!」



 シリウスは見た

 ホームベースに頭から滑り込むように飛び掛ってくる勇人の姿を

 あわや顔面から滑り込もうとする勇人を、自由に動かない腕を叱咤して無理やり動かし受け止めると、勇人の両の手ががしりとシリウスの頭を捉え、まるで拳を振り上げるかのように自身の頭を大きく仰け反らせ、勢いに乗せてシリウスの頭に打ち付けた



ゴッ



 ……鈍い音がして、唐突に静寂が訪れる

 勇人は自分の額を両の手で抑えて呻いた



「……ふざけんな……このいしあたまが、くぅ~~ッ!」


「……ばかなんですか貴女、壊れたテレビじゃないんですよ」


「うっせ、ばかはてめぇだこのばか、おまえなんかこわれたてれびいかだ、おさまったのか、おさまってなかったらもういっかいだぞ、いいかげんにしろこのばか、ばかのなかのばか、きんぐおぶおおばか!」


「……とりあえず、外的な衝撃が無ければ、……このままいけるかと」


「ほんとだろうな? うそつくなよ、うそついたらただじゃおかねぇぞ」


「嘘ではありません、大地の方は、魔導師が何かしたようで、今は穢れていません」


「そういうのはあとまわしだ」



 べたべたとシリウスの身体を確かめるようにあちこち触っていた勇人は、最後に顔色を見るようにがっしりとその顔を掴み、些細なことでも見逃さないかのように注意深く覗き込む



「……よ、」




――ドス




 よし、と

 そう、言いたかったのだろう、恐らく



「――ゅう……と?」



 瞳孔が開く程に、シリウスは大きくその眼を見開いた

 シリウスの頭部を、剣が、貫き


 その、剣は


 ……勇人の




 勇人の、頭部までもを、貫通、……していた

というわけで次回☆

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