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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
生まれ変われない(仮題)
141/144

04

「ヤれぇぇえええぇえええ゛え゛え゛ッ!!」



 凍りついた空気を砕くような怒声に我を取り戻し、一斉に魔導師に距離を取って攻撃に移る

 先程、武器が粒子に変えられたことを覚えているのか、魔具や術による魔法弾が流星のように降り注ぐ

 先程シリウスと戦っていた時のように、塩になって崩れ去りながらも、それは隙間なく降り注ぎ、点在する塩の柱を打ち砕くが、魔導師には着弾することなく霧散していった



「くそが!」


「怯むなっ! 撃てっ! 撃てっ! 撃てぇええええええ!!」


「――おや、随分なご挨拶ですね、わたしに用があったのはそちらでしょうに」



 一歩、魔導師が足を踏み出す

 肌の上で静止していた紋様が、一歩進んだ分とでも言うように後退した



「押し戻せ! ヤツを逃がすな!!」


「ちくしょう! ちくしょう! ちくしょうが!!」


「身代わりを立てようとする程に、わたしに会いたかったのでしょう? 喜んで下さい」


「みがわり……?」


「ああ、貴方には心当たりがありませんでしたか」



 目も開けない程の光の流弾が降り注ぎ、聴覚を破壊せんばかりの爆音の中でも、流石にすぐ傍の口から発せられる言葉は勇人にも聞き取ることができるが、これはそういう類いの音では無かった

 まるで、耳元に受信機があり、そこから聞こえているように、魔導師の声ははっきりと聞こえ、それは猛攻を掛けてくる敵方にも同じ現象が起こっているらしい

 魔導師が何か口にする度に、反応を返している


 勇人の疑問の声は、極小さいものだったが、魔導師の耳が聞き漏らすことは無かった



「彼らは、杭とする素材としてわたしを一番望ましいと思っているようです、けれどわたしは[魔導師です]と看板を背負って世間を練り歩くわけでもありませんから見つけられないようで、この男のように、わたしに接触した人間を杭として狙うことが多いようですよ」


「じゃ……ぁ……しりうすは……」


「ああ、眼は開かない方が賢明ですよ、潰れますから」



 その言葉の所為なのか、勇人の眼は縫い付けられたように開かなくなる



「話しを戻しましょう、この男自身は元々杭に足りうる素材だったようですから、百パーセントわたしの所為というわけではありませんが、目を付けられたことに関しては わたしの所為もあるでしょうね、まあ尤も、目に留まるのが遅いか早いか程度の差でしょうが」



 酷い爆音の中でも、不自然な程に魔導師の声だけが聞き間違え様もなくはっきりと聞き取ることができることが、恐怖を煽るのだろう

 攻撃は激しくなり、光の流弾だけでなく、一瞬で広範囲を焼き尽くす程の炎や、魔剣による斬撃波が絶え間なく注がれ続けるが、どの攻撃も届きすらしない



「出し惜しみをしましたね、最初からそれらを使っていたならば、この身体はわたしの依代になることもなかったでしょうに、けれど完全に使い物にならないのも困りものですか、儘ならないものですね? ……ところで、気は、済みましたか?」



 瞬間、ぞっと底冷えするようななにかを感じとったのか、魔導師の視線にすら捕まるまいとするかのように、敵がその場を避けようとしたが、それは間に合うこと無く

 見られた、そう感じた瞬間、ばたり、と倒れる


 一人、また一人、地上から攻撃していた者も、魔具によって上空から攻撃していた者も



「次は私の番ですから、甘んじて受けて下さい」


「くそっ! くそっ!! くそがぁぁあああああ!!」



 眼を潰さんばかりの光の中ですら、魔導師の視線を遮ることは無く、一人、また一人、犠牲者は止まない



「安心して下さい、"正義の為"だなどと妄言を実行しているわけではなく、ちゃんとした立派な理由がありますから、喜んで下さい、純粋に、復讐です」


「ふく、しゅ……ぅ?」


「ええ、そうです」



 小さな小さな、蚊の鳴くような勇人の声を、魔導師はしっかりと拾い上げ、さめざめと語って聞かせる



「妻が、わたしや子供達の健康の為にと農薬を使わず自然のままを丹精込めて世話をしていた家庭菜園が、彼らの所為で台無しになったんです、酷いと思いませんか? 妻が落ち込む姿を見て ――殺したくなってしまいました」


「か……て……さい……ぇ……?」


「自然の状態がいいからと、結界を張らせてもらえなかったんですが、内緒で張っておくべきでした、……でもバレたら拗ねるかと思いまして、本当に惜しいことをしました、いえ、わたしの妻は拗ねたところもこの世の者とは思えない程にそれはそれは大層可愛らしいのですけれどね」


「そんなっ、くだらねぇことで!!」



 魔導師の言葉は恐慌状態に陥っていた敵の耳にもしっかりと届いたのだろう、幾人もの敵が激高して空けていた距離を一気に詰め、斬り掛かってきたが、魔導師はソレを、ずっとシリウスの手に握られたままの剣で難なくいなしていく

 やろうと思えば一瞬で命を奪えるにも関わらず、遊ばれている、その実感が、益々攻撃の手を激化させるが、一太刀すらも掠らせることすらできずにいる



「大切なものも重要なものも、人それぞれです、貴方方には下らないことかもしれませんが、わたしには重要なこと、お互い様でしょう、下を爭っても意味はありませんが、環境に配慮する分、わたしの方が上等と言えるかも知れませんね」


「環境だとぉッ?!」


「まさか、身に覚えが無いだなどと戯言を吐くつもりでしょうか?」



 シリウスから力を削ぎ落とす為に、人々を無差別に咒い殺し大地を汚染した、環境問題と言えば言えなくもないだろう



「わたしは、ちゃんと配慮して実体で来ることを控えたのですが」


「何が配慮だ!」


「立派な配慮です、苛立ったまま実体で顕れれば、その影響でこの地は消滅したでしょうから、我慢しました、その甲斐あって精々がこの身体の主がどうにかなる程度です」



「?! 待てっ、どういうことだ!! シリウスをどうするつもりだ!!」


「あぁ、安心して下さい、この男は元々わたしから受肉していますから、影響と言っても精々変化が加速するだけです、どう変化するかは知りませんが」


「で、出て行け! シリウスから出てけ!!」


「怒る必要はありませんよ、遅かれ早かれ成るべくして成る結果に過ぎま……おや、素晴らしい」


「ぇ……ぁ……?」



 魔導師が敵からの集中攻撃をいなす一方で

 未だ勇人を抱えたままの片腕の、その手の平が、勇人の下腹部を覆うようにじわりと動いた

死因→家庭菜園

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