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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
生まれ変われない(仮題)
139/144

02

 金属が激しくぶつかり合う音が勇人の頭まで貫くように鋭い音を立てて鳴り続ける

 敵は一人や二人ではなく、何人もの手練れがシリウスに少しの息をつく間も与えないとでも言うように同時多発に襲い掛かり、シリウスの足を完全に止めてしまった


 どういった目的なのかは分からないが、その斬撃は執拗にシリウスの急所、特に頭部を狙い、勇人には見向きもしない

 どんな目的により狙われるのかは分からないが、殺すつもりであろうということだけは確実だった

 致命傷だけは避けるものの、時間の無駄だと判断した攻撃までは避けず、シリウスの負う傷は徐々に増えていく


 そんな中でも、一人、また一人とシリウスは敵を切り伏せていくが、敵の身体は命を失ったと同時に砂のように崩れ去り、その後ろから現れた別の敵が、先程まで砂ではなかった敵の持っていた得物を手にとってシリウスに斬り掛かる


 それは繰り返されるうちに、得物の形状が徐々に変容し切れ味が増しているようで、魔術は使えないまでも魔力によって強化していたシリウスの剣に刃毀れを与え出す


 シリウスが足を止められたのは半分は勇人の所為だ

 勇人に極力負荷を与えない為、無理な方向転換や姿勢をとらない

 ……そしてもう一つ



(ばかだなぁおまえは)



 せめてその動きを少しでも妨げないように、と

 じっと息を潜め片耳をシリウスの肩口に伏せる、勇人のその耳に

 ぷつぷつ、と微かな音が鳴り止まず伝わり続ける


 シリウスの、筋繊維の、切れる、音だ



 戦闘により腕を使っているからこそ伝わる音で、恐らく先程 ただ走っているだけの時も、足からはこの音がしていたに違いない

 どれ程の時間が経過したのかは分からないが、このままいけばシリウスは腕を持ち上げることすら叶わなくなるだろう


 こんな状態にあっても、魔力を用いた治癒を勇人に施しているにも関わらず、自分に対しては剣を補強する以外に使う気が無いらしい

 ともすれば、最後には更なる毒を取り込むことになろうとも、能力によって自己再生をし、それで戦い続ける気かもしれないとすら勇人は思う



(もう充分義理は果たしたってのに、こんなになってまで、守る価値のある人間じゃねーよ俺ァ)



 ご丁寧に名乗るわけでも目的を発表してくれるわけでもなく、黙々と襲い掛かってくる敵の目的は依然として見えてこないが、シリウスを此処に足止めすることが目的の足掛かりだということは察せられる

 ということはつまり、時間が経過すればする程に、"なにか"が起こる可能性があった


 "なにか"をしようとしている者の姿を確認しようとちらりと無駄に視線を彷徨わせてみるが、勇人の視界は肉薄する敵という壁に遮られ その向こうを見ることが出来ない

 出来たとしても、距離があれば勇人の視力では捉えることは出来ない上に、足止めを食っていると言っても方向転換くらいはするので視界に捉える前に別の方向を向いてしまうということもあるだろうから、どちらにせよ無意味な行為には他ならないが



(……しょーがねぇヤツだなあ)



 そう遠くないうちに"なにか"が起こることは、シリウスも予想していることだろう

 勇人を抱えての状態でも、後々丁寧に癒やさなければならない状態になることを前提とした上でそれ相応の無理を通せばこの場を離脱するくらいならば出来ることも分かっている

 そして、シリウスがソレを選択しない理由も、勇人は大体察してはいた


 地球の神社に居た肉体を持った水の精霊である水瀬藤乃が勇人に何か言おうとしてソレをシリウスが遮った、それを思い起こせば、シリウスが少しのリスクでも避ける理由は大凡の想像がつく

 あの遣り取りで、自分が一体どういう状態なのか、今までは何となくそうなのではないか程度の想定をしていた勇人は、確証を得てしまった


 衰弱程度ならば兎も角、次にそうなれば、恐らく、想定していた通りになるだろう、と



(無理に付き合うことなんかねぇのに、ほんと、ばかだなぁおまえは)



 何かが整ったのだろう

 敵の口の端が歪に釣り上がったのを眼にした勇人がしっかりとシリウスに捕まり直した、その途端

 ドン、と衝撃が二人を襲い、周囲の敵達が白く石化……いや、塩の柱になっていく


 直後に、シリウスの身体がびくりとなり、その動きが完全に止まった



「シリウスっ?! どうしたっ、おい!」



 視界を塞ぐ塩の塊が崩れ去ると、気がつけば辺りは何時の間にか夜のように暗闇に飲まれ周囲の至る所から光と塩の柱が立ち上り、自分たちを取り囲んでいる

 真横からは分からないが、それは所謂"魔法陣"と周知される形状を成していた


 シリウスのその肌に、勇人には理解出来ない、何か紋様のようなものが走り、肌をどんどん埋めていく



「――まったく、大した化け物だ、こちらは殺す気でいってさえこのザマだと言うのに」


「……誰だ、テメェら」



 何時の間にか傍に立っていた者達を威嚇するように、低く、勇人が問う



「悪ぃなお嬢さんよ、まあこうなったらもう殺そうとはしねぇから安心しな、逆に、死にたくはなるかもしれんがな」


「死にたくなる……だと?」


「ああ、あんたが心配するこっちゃねぇよ、あんたは置いていく方だ、この男を置き去りに、あっさりと死んでくだけさ」


「――成る程、やはりソレが目的でしたか」


「「「?!」」」

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