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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
腐り堕ちる(仮題)
133/144

07

「これは……術が使えないこの場所では わたくしにはどうにもできませんわっ、今 殿下に、」


「……いくな」



 慌てて立ち上がろうとした助手の袖を引き、勇人が引き止めた



「大丈夫ですわ、すぐ戻りますから」


「そうじゃない、……いくな、いま……そんなこと、おしえれば、えるの……しゅうちゅうりょくが、とぎれる」


「何を仰ってますのっ?!」


「もうじきあいつがもどる、だから……いかなくていい」


「こんな状態で……っ、貴女、どうかしてますわ!」



 吐き捨てるように彼女はそう言うと、物資の中から何枚も毛布を引きずり出して重ね、その上に勇人を引き上げる



「そこまで言うからには、貴女の胆力をしっかりと見せてもらいますわよっ」









*** *** ***









「おい、げほっ、待……てよっ、どこ、行くんだよっ!」


「暇潰しの終わりです」



 帰る時間を足して丁度 二十五分だ



「はァ? あっ、テメッ、ごほっ、待てっつってンだろ! っつうか何か着るモン寄越せ!」


「ソレから剥ぎ取ったらいかがですか」


「真っ二つじゃねぇか!」



 手前に剣を構えていた手首を胴体ごと肩の辺りから斜めに反対の太腿まで両断されていた為にその衣服は上下とも使いものにならない

 ランヴェルドの口からはつい勢いで物理的な現実問題に対しての抗議が出はしたものの、実際に問題なのはもっと精神的なことだろう


 自分自身の死体なんぞ、とてもではないが普通は到底直視出来るものではない

 そんなものから衣服を剥ぎ取るなぞ、マトモな神経ではなかろう


 辛うじて取り乱さずにいられるのは、その死体の顔が鼻から下しかないからだ

 自分だとは認識し難く、見た目は酷いものだが逆に現実感が無いのが救いだろう


 日本とは比べようもなく物騒なこの世界にランヴェルドとして生まれてそれなりに経っている為に、事故死や病死に老衰以外の死が身近にあることも、大きな精神的衝撃を緩和する役割を果たしている

 ……全くもってこれっぽっちも有り難くはないが



「注文が多いですね」



 やれやれと言った風にシリウスが空いた片手をすっと上げる



「一枚あれば足りるでしょう」


「足りねーよっ! 何もかも足りねーよ!!」



 ぴらっと一枚、ポイントカード程の面積の葉っぱを出したシリウスに、俺のはそんなに小さくねぇよ! とランヴェルドは絶叫した


 そういう問題じゃないだろう



「っつぅかソレ寄越せよ!」


「それだけあれば充分でしょう」


「充分じゃねぇよ!」



 数分後、端から外套を貸すという選択肢を持たなかったシリウスによって与えられたバナナの葉(大っきいZO☆)を腰に巻いたランヴェルドはシリウスが腕に抱えている外套を未練がましくせびりながら突き進む彼の後を追っていた

 素足が痛いが、こんな場所に取り残されてはたまらないのでランヴェルドは必死にその後を追う


 途中、次々と襲い掛かってくるアーシャルハイヴに最初は怯んでいたものの、その度にシリウスがあっさりと片付けるので、やがて感覚も麻痺したようだ


 襲い掛かってきたのは確かにかつてはアーシャルハイヴだったが、その身体は乗っ取られて久しく、とうの昔に本人の意思は残ってはいない

 本人が操れば相応の強さを誇ったであろう肉体も、操っているのは赤の他人であり、肉体の持ち主が練磨していた武器や武術に精通しているわけでもない


 シリウスにとって、それらは ただ他よりもほんの僅かに丈夫なだけの木偶人形に過ぎないのだ



「おい、うそだろ? な……んなんだよ……あれ……ぎゃぁぁああああっ?!」



 漸くシリウスの足が止まり、ぜえぜえと息をつくランヴェルドだったが、ざわざわと何かが近付く不穏な気配と、その直後に現れた砦のような何か

 唐突に視界に現れ、止まる気配も無く此方へ急激に近付くソレの ぐばりと口を開くような動作に、ぎょっと息を呑む間もなくランヴェルドは蔦に絡め取られ、その口目掛けてぶん投げられた



「ぶっはァッ?!」



 勢いのままごろごろと転がって壁にぶち当たったランヴェルドを無視して上階に上がったシリウスはそのまま物資の合間を歩いて行き、よろよろとランヴェルドもその後を追う



「ああ、お待ちしておりまヒィ?! 変質者!!」


「ぎゃああ?! がふぅ!!」



 近付く足音に灯りを向けて見つけたシリウスの姿に、ほっと安堵の息をつこうとした助手は、その後ろから現れたほぼ全裸の男に驚き持っていた灯りを投げつけた


 ガツッっとランヴェルドに当って跳ね返った灯りを掴み助手の手へ戻したシリウスは、勇人に絡み付いていた植物を枯らせ、抱き上げて口元へ果汁を注いだジョッキを近づける



「お、お待ちになってっ、そんなもの口にできるわけありませんわ! それよりも癒やさなければっ」


「ああ、覗いたんですか」


「勿論ですわ、わたくしのこの眼は、患者の為にあるのですもの」



 助手は医療に適した透視能力を持っていた

 そして、その眼で勇人の下腹部を診た



「貴女の眼のことは初めから知っていたことです、カミシロのことを誰かに言うようならそれなりの対応をする、それだけのこと」



 砦に戻った瞬間に、この部屋はシリウスの支配下になっている

 外に注意を向けていた王太子は、シリウスを出迎えたことで砦の内部にも注意を向けたが、この場に直接足を運ばない限り、見聞きすることはできず、この部屋の出入口は今、シリウスが塞ぎ、入ることはできない



「……黙っていろと、そう仰るの? 治しもせずに、そのまま……!」


「そうです」


「その、ぐちゃぐちゃに歪んだ内臓を、そのままにすると仰るのッ?!」


「そうです」


「……なぜなんですのっ」


「――これが、正常な状態だからです」



 ガラン、と

 ラティナは灯りを取り落とした

葉っぱ一枚あればE~☆

本当に、彼は生きているだけでラッキーですよNE☆

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