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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
腐り堕ちる(仮題)
131/144

05

――密林か……ヤツにしては随分と規模が小さいな


――シャンガル国の王太子が遊学から帰ってきたという話しがあっただろう


――あったな、確か魔女の弟子になったとかいう


――ソイツじゃないのか、魔女に師事したという話しにしてはいるが、ヤツが教えた可能性がある、同じ能力者だったんだろう


――しっかりと内部まで調べられれば良かったんだが


――仕方あるまい、探るような動きをすれば、すぐに気付かれる、せいぜい魔具を使って遠距離から覗くくらいだ


――それもヤツは気付いているだろうがな


――だが、魔具を使って遠距離から覗いているヤツは他にも居る、政治も戦争も覗き屋は付き物だ


――まあな、……で、肝心のヤツだが


――今は目立つ能力を使っていないようだな、索敵能力くらいでは引っ掛からん、ヤツが目に見える何かをやらないと 障害物を透過して見るこの魔具を使っても見つけるのは困難だぞ


――だが、この状況だ、いずれ大掛かりな能力を使う羽目になる


――それに使わなければ使わせればいいだけのこと


――そうだぞ、柔軟に考えろ、兎に角眼を皿のようにして見回すことだ


――ああ分かった分かった、俺が悪かった、精々じっくりと舐め回すように眺めさせてもらうさ、お前たち、それだけ言うなら分かっているな?


――ああ、ヤツが中央に来た時、合図は無し、皆、見逃すなよ


――応




 密林に降り立ったシリウスは、砦の位置を把握しながらも樹々の合間を競歩で歩いて行く

 時折出くわす交戦中の此方の兵を見つければ、状況によっては通り過ぎ様に石を投げ付けて援護してやり、そうでなければ目も向けずに通り過ぎる


 稀にフリーの敵兵に遭遇した時には、剣士らしい動きを心掛けながら切り伏せた


 もっとも、片腕が常に塞がっていた祖父の剣技は本来のものとは違うので、相応の動きになり剣士らしいと言えるかは難しいところだが

 シリウスはさながらナイフを使ったジャグリングのように、長剣を順手逆手と宙空でくるくると持ち替えながら相手の利き腕の腱を腕輪ごと斬っていく


 なんなら殺すこともまあ出来なくはないが、わざわざ殺したいというものでもない

 腱を斬った程度で怯むようなら残してある足で勝手に逃げるだろう

 良い治癒師がいれば完治するだろうが少なくともこの戦場において術や魔具による治癒はできない、腱を斬られればここでは役立たずだ


 シリウスは殺人狂ではないので相手が使い物にならなくなりさえすればそれでいい

 生母も養母も、普通を望んでいたのだから



(……妙なものをつけていますね)



 敵兵は皆 腕輪を片腕に付けている

 その腕輪を中心に、血管が盛り上がったようになっている者がちらほらと見られることからシリウスはソレを視た

 盛り上がっているのは血管ではなく、肥大化した神経系であり、腕輪を中心に異状発達しており、加えて思考力が著しく低下している


 気にはなるが、深追いするほどでもないシリウスは、砦から離れ過ぎないよう進行方向を修正しつつ移動していく

 そして腕輪を狙って破壊していくその行為が目についたのだろう、シリウスの索敵に近付く者の存在が掛かった



(この腕輪、やっぱ魔具だったのかよ……っ)



 その名はランヴェルド、小国の貧乏男爵家三男のこの男は、己の食い扶持を稼ぐ為、大してどころか素人に毛が生えた程度の身にも関わらず最低限の寝床と食事を保証する兵力の募集に釣り上げられてこんな戦場に立っている


 ランヴェルドを雇った国は、おかしな国だった


 国民は兵の募集のことを知らず、自国出身の兵もいない

 国王は臣民を大事に思っており、危ないことはさせないという

 国民は慈悲深い国王を慕い、何世代にも渡り国に留まり、外国を知らないという

 商人との遣り取りは国が行い、国が仕入れたものを国内の商人が国民に売るのだという


 死ぬのは余所者だけでいいという、その状況に疑問を持たない

 そんな国民のいる国だった


 飯屋と酒場と宿屋のフリーパス代わりだという腕輪を付けられたランヴェルドは最初こそタダ酒を喰らって上機嫌だったが、雇われ兵たちによって戦争の気配が濃厚になっていくにも関わらず何の不安も無いような国民たちの様子を異様に感じ

 雇われ仲間や酒で口を緩ませた国民の情報を集めるにつれ、不安を募らせ、夜中にオンヴィガン国から逃げようとしたが、ついぞソレは叶わなかった


 検問も見張りの兵も居はしないのに、集められた王都から出ることができない

 この国に来た時と違うことと言えば、この腕輪くらいのものだ


 この腕輪のせいかもしれない、と

 記憶を頼りに、石鹸や軟膏、糸を使ってみたが抜けなかった

 それらは指輪が抜けなくなった時の対処法だが、この腕輪は接合部も無く、指輪のように隙間なく嵌っていたからだ


 最後には切断も考えたが、腕輪程の金属を切断できる道具となると鍛冶屋に行かなければ存在しない

 そんな所を訪ねて腕輪の切断を依頼すれば、バレる可能性があると、それは実行に移せなかった


 残す機会は戦場だった


 戦場に出る、つまりオンヴィガンの国外へと出る、その後はひっそりと戦場からフェードアウトすればいい、と

 そう考えていたのに



(やっべぇな、クソ……!)



 ランヴェルドの意思に反し、腕輪に引き摺られるようにして移動する

 そうして連れて行かれた先には、片腕に布で包まった人のようなものを抱えた男の姿があった

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