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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
腐り堕ちる(仮題)
128/144

02

――それは僥倖、心よりお待ち申し上げる



 戦力の通達に対し一文、ただそれだけが返された

 やはり、シリウスの名を連ねたことは正解だったのだろう


 過去、幾度と無く彼の国によって起こされた戦において、戦場のみで戦が済んだ場合とそうでなかった場合の違い

 恐らくは、他の国々も同じように宣戦布告にて戦力の通達を受けた

 ソレに対し、此方の戦力を敵に知らせるべきではない、と判断した国も、当然の事ながら存在しただろう


 そしてその場合には、彼の国は恐らくは待つこと無く、直接乗り込んで来たのだ

 そう考えれば、目的の一端が見えてくる


 敵の戦力に対し此方も相応の戦力を備える、相手はアーシャルハイヴを備え、此方もそれに対応した



「……ひとまずは、乗り込まれることは免れた……ということだろうな」


「恐らく」



 深く息を吐き出す国王に、大元帥が静かに応じ、その後 続けた言葉に国王は思わず立ち上がり掛ける



「シリウスのギルド証で調べてもらいました、あちらの戦力に列記されていたアーシャルハイヴ、彼の国がかつて戦を仕掛けた国々に雇われていたそうです」


「……なに?」


「戦半ばで消息不明になり、そのままだそうです」


「それは……まさか……叔父上っ」


「シリウスは……そういうことも、あるだろうと」


「下がらないつもりなのか!」


「……依頼は依頼だと……、魔女殿は、下がれば此処(王都)まで探しに来るだろう、……と」


「そんっ……ば、かな……」



 王は要である


 王は戦を王太子に任せて王都に残り、国を支えなくてはならない

 アーディグレフも、王を守護する為に王都に残らなければならない


 ここには祖父母がおり、その胎には子が宿っている

 シリウスには、初めから、その選択肢は存在しない



「……いいのか、……叔父上は、叔母上は、それで、……本当にいいのか」



 いいわけがない

 いいわけがない……が、



「……私も、貴方と、……同じです」



 国王は、王太子の出征を受け入れた

 息子が国を、父親と母親の生きる国を思って申し出た心を、受け入れた



「っ……、すまない、すまない叔父上っ」



 四日後、出陣式が執り行われ、そこには見送る者と見送られる者の姿があった


 王都中央、有事の際に避難民達が集まるべく各所に設けられた広場のうちの一際大きなその場所に、激励する国王夫妻達と、それを受け彼らに見送られる王太子以下 一部の兵たちの姿が集まった国民たちの前に晒されている

 本隊は王都のすぐ外で、王太子が合流するのを待っていた


 皆の眼の前で跪いた王太子が、国王から剣を賜り、深く頭を下げている



「戦争の気配を察して遊学半ばで急いで戻ってきて下さったんだとよ」


「ああ聞いたよ、そんで高名な魔女様に教えを請うて厳しい修練を積んだんだそうだ」


「お労しいことだ、ウチのガキと同じくれえじゃねえか、それなのに俺たち下々の者の為に命を掛けて下さるってンだから、頭が下がらァ」



 ひそひそと口々に交わされる言葉は、王太子に対して概ね同情的だ、国民の王太子に対する心象は現時点においてだが まずまず良いと判断できるだろう

 後はどれだけ結果を残せるかが肝になってくる

 表面だけご大層に取り繕ったところで肝心の中身が伴わなければ、取り繕った表面は逆に毒となり、身を滅ぼしかねない



「エルディアルを見送る為に集まってくれた者達にも心より感謝を言う、ありがとう、この者の力がどれほど通用するか、大見得をきることはできないが、どうか王太子と兵たち、親、兄弟、息子たち、そなたらの親しい者や隣人の無事の帰還と勝利を祈ってほしい」



 国民を労り誠実さを滲ませる国王の言葉に、集まった民衆は胸に手を当てて深々と頭を垂れる



「皆を不安にさせるようなことはない、魔女殿に才能を見出され、その厳しい修練に耐えた王太子は、皆の期待に応えることができると我は信じている!」



 国王が王妃と共に後ろへ下がりながら大きく声を張り上げると、跪いていた王太子がすっと立ち上がり、少し離れた後ろへ控えていた兵たちがそのすぐ後ろへと移動する



「そなたらの血と汗によって育まれたこの身を用い、今こそその恩義に報いる時が来た!」



 王太子がそう大きく宣言した直後、王太子らの足元が迫り上がり、見る間に岩の砦を築いていく



「お、おお!」


「すごいっ」


「あんなことがっ」


「あれが修練の成果なのか」


「我が国の次期国王は優秀な魔術師だったんだ!」



 砦に持ち上げられた王太子の年齢にそぐわない頼り甲斐のある姿に、民衆は一斉に湧き上がる

 この場での限界まで大きく聳えた砦は、その足元から地面を割って伸び出た樹木によって地面から持ち上げられ、樹木が周囲の建造物に触れない高さになると、一度巨大化を止めた砦は再び大きくなっていく

 これによって、広場に集まらなかった多くの者達の眼にも、確実にその力が誇示されたことだろう


 広場の隅に山と積まれていた物資が、皆の眼の前で人のように動く樹木によって砦の内部へ運び込まれる姿は、その場にいた者達に安心を齎した


 国民の血と汗によって己が身を育んでもらった、と

 その恩に報いる、と

 衆目の眼の前でそう高らかに宣言しその実力の一端を披露する姿は、戦争に不安を感じる彼らの心を確かに掴んだ


 現時点で民衆の信頼はほぼ得られたと考えていいだろう


 王都は歓声に湧き上がり、本隊へ合流する為にまるで人が歩くように砦を抱えて動き出した巨大な樹木の後を付き従い、王太子達に向けて無事と手柄を祈る声を浴びせ続ける


――遂に、戦が、始まった

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