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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
腐り堕ちる(仮題)
127/144

01

「オンヴィガンから宣戦布告が来た」



 一体、どの国に宛てて宣戦布告をするのか、高まる戦の気配に周辺国は戦々恐々としたが、今日、遂にそれが明らかになった


 あと数週間で六ヶ月、魔女の国であるレンレーファに依頼の品を受け取りに行くため船の予約を、というところだった


 呼び出された国王の執務室には、国王の他に大元帥と元帥、ラドゥが揃っており、着席して待っている

 限られた者しかこの場にいないのは、これが公式の会談ではないからだろう


 勇人達が着席すると、上質の紙が国王の手から大元帥を介して此方へと寄越された



「へえ、随分シンプルなもんだな、予定の場所と日取りと……戦力かコレ」


「そうだ」


「戦の理由付けは無いんだな」



 この戦はこれこれこういう問題の上で仕方なく起こるものであり、我々は我欲の為にこれを行うものではなく、此方には何ら引け目に感じるモノは無い

 ……まぁつまり、俺らが戦争に舵を切ったのはソッチが悪いんであって俺らが悪いんじゃない、と こういう前口上があるのが一般的なのだが、勇人の言う通り、これにはそういったものは無かった



「グナディガ=アンビア、スラウル=チカ、パラウィアフ・アラル=フィダ……以下延々となんだこれ」


「人名でしょう」


「見りゃ分かるっての、そーじゃなくて、何で人の名前が列記されてんのか、っつー話し」


「……それらはな、調べたところ、階級にバラつきはあるが皆アーシャルハイヴだ、シリウスのようにユェヴォルグ・ウルはおらぬようだがな」


「へえ、ってぇことは、戦力……か」



 そう、つまり此方にはこれだけの戦力がある、と わざわざ事前に教えている

 それが見栄か誇張による脅しかは知らないが、まあつまりそういうことだ


 見栄か誇張と仮定した場合、ソレらは相手に対して脅しにならないこともないのだが、相手がそれならば、と それ以上の戦力を投下してくる可能性だって充分に有り得る

 ということで余程の単細胞(素直なバカ)でない限りはあまりやらないことなのだ、が


 相手がバカの可能性も無くはない

 勿論、此方が考えも及ばないような、もっと何か別の目的が存在する可能性も充分に考えられるが



「本当にそいつらが向こうに与してるかは確認できない、か」


「うむ、その者が本当に存在するかどうかの確認はできるが、彼の国に本当に雇われているかどうかは分からぬ」



 個人情報――とまでは言わないが、一応 守秘義務のようなものはある、ギルドにそういった名前の者の籍があるかどうかは確認できるが、現在、どんな仕事を請け負って、どこでなにをしているかなど彼らには分からない


 一応、シリウスのギルド証を使えば、現在進行中の依頼は兎も角として過去のそういった情報を開示させることも可能だが、今必要なのは、今現在の情報である



「……で、ソレに見合った、もしくはソレ以上の戦力を投入してこいよ、と」


「恐らくはな」


「ふぅん……で、本題は?」


「……エディがな、出征に志願したのだ」


「だろうな」



 まだ十一歳、しかし彼はあまりにも国民との馴染みが薄い

 遊学を理由に、とはいえ生まれてより十年以上もその姿を国民に見せなかったのだ、いくらその姿を見せ国民に親しみを持ってもらおうとしても、まだまだ浅い


 であれば、出征し、齢十一の少年が国の為に命を掛けたという大層ご立派な御姿を民草に知らしめる必要があるだろう


 その志願を聞いた両親は、顔色を悪くしつつも頷くしかなかった

 求心力が無ければ、身分も血筋も何の意味も持ちはしない

 王になったところで、誰が付き従うものか

 虚飾の王になったところで先は見えており、国の未来は奈落へ沈む



「……あの子は焦っているのだ」


「そうだな、随分物騒なものをオネダリするくらいだしな」


「物騒なもの?」


「これを、欲しがりました」


「「「「!!」」」」



 シリウスが、自身の額の第三の眼を指し示すと、面々はヒュッと小さく息を飲む音をさせる



「……まどうしの」


「まさか?!」


「与えてはいません」


「「「「……はぁ」」」」



 詰めていた息を一斉に吐き出す

 ソレを得たことで今のところシリウスには不都合は生じていないようだが、王太子も同じとは言えないだろう


 彼は不用意に賭けに出てもいい身ではない



「さて、出征か……まさか前線で、っつーわけじゃないよな」


「……うむ、剣技は叔父上たちに、体術はシリウスに師事してはいるが、能力は後方支援に適するものであるしな」


「後方支援っつったって……だだっ広い平野なんだろ?」


「うむ、石の砦を作らせる、エディの能力ならば可能な筈であろう」


「あぁ、砦、なるほどな、確かにこいつじゃあな」


「失礼ですね」



 洞穴付きの岩山を作ることならばシリウスにも可能だが、じっくりと見て触って確かめられる手本が無ければ、想像だけで利便性の高いものを造作するのはこの男には厳しい


 感性というものは個々によって明確な差があり、時に致命的な欠陥を生んでしまう

 だからこそ、重要なのである



「……で、こっちも通達をしたいって理解で、いいんだな?」


「頼む……」



 そんなことの為にこの国へ招いたのではない、それは国王も充分によく承知している

 だが、状況がソレを許さなかった


 叔父に、叔母に、従甥であるシリウスに、申し訳ないと、ただ只管に申し訳ないと、頭を下げるのを食い縛るようにして耐え、国王が言い

 後日、彼の国へ向けて此方の戦力が通達された


――その中には、シリウスの名前が……あった

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