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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
積み上げる(仮題)
124/144

10

「あの、レ、お姉ちゃん、ソレはさっきも買ったではありませんか」


「何を言うべなお、ぇ、エル、さっぎとは味が違うべ」


「え、えぇ、でも」


「ふら、食べれば違いさ分がっから」


「あの、でも、」



 また太るのでは?

 と、口には出せずに差し出されるまま王太子は串揚げを、あーん、した



(美味しい……)



 ざくり、と食むと、じゅわり、と広がる


 能力を使うようになってから、今までの食事量では到底足りず いくらでも食べられるので王太子的には何の問題もない

 土の能力者はその特性上、食べなくとも腹を満たす方法もあることは聞いているが教えてはもらえなかった

 いずれ退っ引きならない時、自然とやってしまうことだとは教えられたが、それが好ましくないということだけはなんとはなしに察する


 いざという時の為に魔術師のように髪を伸ばした方がいいという言葉から、自然とやってしまう前に、出来得る限り髪に蓄えた魔力で賄い、可能な限りソレを避けろ、ということなのだろうとエルは理解した



「美味いべな」


「はいお姉ちゃん」



 頷きながら、王太子は仲の良い姉妹がするようにレプスの手を握る

 どちらの、とは言わないが迷子道草防止の為に


 誰が見ても他人だと思う程度に少し離れた後ろに続く勇人とシリウスを気にしないように気をつけながら、王太子、名前から男女どちらでもおかしくはない風に聞こえる愛称をとってエルは、レプスと連れ立って進む


 活気づく市場を道行く人々の顔を、彼は相手の気に障らない程度に慎重に見て行く

 己が守るべき民、その顔が、少し、ほんの少し陰りを帯びているのを、長年周囲の大人たちの顔色を伺ってきたエルは見逃さなかった



(戦争が、近づいているのですね)



 この国は、大陸の中でも中央に位置する

 山の向こうには、広大な平野が広がり、その中央に、ぽつんと彼の国はあった


 いよいよ真に王太子としての、次期国王としての生き方を歩むとなった時、彼の両親は今まで不安にさせまいと口にしなかった様々なことを教えてくれた、その中に、彼の国のことも当然の様に含まれており、彼のその小さな胸を痛ませている


 元は、その平野には中小国が幾つかあったが、それは皆、今は更地へと成り果てて久しい

 彼の国、オンヴィガンが長い時を掛けて更地へと変貌させていったのだ


 平野の中心に取り残されたその地へと、人と物資が集まりつつあるという噂は瞬く間に広がり、今は知らぬ者を探す方が難しい


 その国は戦狂いで有名だった、何百年も、少しでも国庫に金が貯まれば戦争へと舵を切る

 そんな有り様だから商人との遣り取りはあっても国交は一切無い、そのような状態で一体どうやって国を維持し存続させているのか甚だ疑問だが、それが彼の国だった


 戦は相手を選ばずどの国でもいいといった態度、だた、相手側に魔術を使う者がいるのならば同じように魔術を使う者で押さえつけ、そうして戦士だけを野に放つ、まるで自らの手に依って戦わせることだけが趣味のように


 だが、趣味とも違うのでは、とエルは大人たちの言葉を聞いて考えたものだ

 ある国は滅ぶまで徹底的に蹂躙されたが、ある国では戦場だけで戦が済み、国にまでその火の粉は及ばなかったという


 そこに、どんな違いがあるのか


 オンヴィガンとは無縁のエルに想像がつく筈もないが、擦れ違う人々の腕や手の甲に付けられた色とりどりの紋様を見る度に、迫り来る戦の不安を押し殺す民の為、考えられることはないかとぐるぐる考え続けてしまう


 その紋様が何なのか、レプスがエルに教えてくれた


 幸運の導というらしいその紋様は、色墨を判のように捺した数日程度で消えてしまう一時的なもので、無病息災や安全、商売繁盛や恋の成就など、そういった願いを込めた咒い(まじない)なのだという


 人々の腕にある紋様のどれが何の紋様なのかは分からないが、その内容は一つのものが圧倒的に多いように思われた

 恐らく、安全や息災を願う、そういった系統のものが多くを占めているだろう


 今のところ、彼らを手放しで安心させてやれる手立ては何もない

 いくら王太子だと言っても、たかだか十一の子供が安心しろと言ったところで何の慰めにもなりはしないだろう


 幼い頭を悩ませて、はあ、と溜め息をついたエルの後ろで知らないオッサンがコケた

 通行人は、なんだこいつ、という顔をしながらもオッサンを助け起こさず通り過ぎて行く



「どぉすたんべ?」


「酔っぱらいですよお姉ちゃん」


「まただべか、昼間っがら景気のいいこどだなや」


「そうですね、きっと儲かっているんでしょう」



 嫌味を言いながら背後で倒れた音に振り返ろうとするレプスの手を引いて遮り、エルは足を止めさせないよう歩き続ける


 二人の背後で誰かが転ぶのはこれで四人目だ

 田舎娘が二人だけで連れ立って歩く、それも片方は美少女でもう一方は美人とはいかず凡庸だが崩れても歪んでもいない、見る者が見れば色々と良さそうな得物に見えることだろう


 その者がどういった意図で自分たちの後をつけてくるのか、分からないがニタニタとした顔が気持ち悪いことだけは理解したエルは、ついてくる彼らのつま先に ほんの小さな段差や石を出してやり徹底的に転ばせた

 エルはまだシリウスのように威圧ができないので仕方がないが、それについては今のところシリウスに怒られることもないので、彼はこれでいいのだろう、と以降の処理も同じようにする


 どうやら力試しは順調のようだ

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