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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
積み上げる(仮題)
120/144

06

「……つまり、エディやそなたは血筋によって発生した特殊個体ということなのだな」


「一緒にしないで下さい、特殊なのはお宅の息子さんだけですよ、わたしはいたって普通です」


(((………………普通の定義とは一体)))



 シリウスが即座に入れた訂正に一同は半眼になって言葉を飲み込む

 先祖の中に、肉体を持った精霊がいたのだろう、という見解に対して絞りだすように言った言葉だが、シリウスの素早い拒否に何とも言えない気持ちになった一同であった

 因みにシリウスに茶化すつもりなどまるでなく、彼は至って真面目である、余計に始末が悪いが

 それは兎も角、シリウスが"所為という表現を使うなら先祖"と言った理由はここにある



「そ、それで、そういった子供はこれからも生まれるのだろうか?」



 この場にいるのは、シリウスと勇人を始め、国王夫妻、大元帥夫妻、元帥と上級大将の八人のみだが、王妃と勇人を除き、この国の王族の血を引く者ばかり

 今後もこのようなことがあるのなら、予め整えておかなければならないこともあるだろう



「さあ、偶々……としか言い様がありません、ご子息はその才能があった、ただそれだけです、多くの場合はわたしのようにあの土地で受胎し生まれない限りは能力が発現することもないでしょう」



 彼らのような存在が発生するのに必要な最も安易な要素は環境か血か素質、この三つのどれかが二つ揃うことだろう

 シリウスは血と環境、王太子は血と素質、違いはその程度だ



「……だめね、ここにはそういったことは載っていないようですわ」



 分厚い古書をそっと閉じながら顔を上げて大公夫人が言う

 彼女が閲覧していたのは、代々の王族とそこへ嫁してきた者達の系譜が可能な限り記録されている書籍だ


 一体どれほど前の、どこからの血なのか、そしてこの王家に至るまでの傍系がそれぞれどこへ流れているのか、到底追うことなど出来はしない

 シリウスの"眼"を以ってすれば、見れば系譜かどうかの判断はつくが、まさか世界中虱潰しに見て回るわけにもいかないだろう

 非現実的な話になるため、勇人もシリウスもそれを口にはしなかった

 それに傍系と言ってもそこまで遠ければ存在すら知らない全くの赤の他人だ、最早 気にする方がおかしい



「……もし、あの子と同じような症状が出ていた場合には、その出生さえ秘匿されていた可能性がありますもの、仕方ありませんわ」



 王妃の言葉に、皆 沈痛な顔を見せる

 その可能性が非常に高いことを誰もが思い至っているのだろう

 当の王太子も、出生を秘匿されてはいないものの、王妃が付き添って幼いうちから国外に遊学を兼ねて治療に出ていることになっており、それは妻子を守る為に王太后もそう信じさせられていた


 先行きの見えない時間延長工作だったが、今はそれが功を奏した


 ある程度 治癒を学び、服に隠せない部位を粗方癒やし、歩行訓練を済ませた後、彼は学を修め帰国したという体裁で衆目の前に姿を表わすことになっている

 いつそうなってもいいように、学問だけは国内外からその手の書籍を取り寄せ、口の堅い教師を招き、常に備えてきたのだ


 例えラドゥが王位を継ぐことになったとしても、学んだことが無駄になることのないよう、様々な分野の学問を修めている

 ……ただ、そのどれもが書面の上でのこと、彼はこれから、今まで自分が学んできたことを可能な限り自分の眼と耳で精査していかなければならないだろう



「あ、煮えたぞー、器出してくれー」



 炬燵の上でぐつぐつと音を立てて食欲をそそる香りを漂わせていた鍋のウチの一つの蓋を勇人が布巾で掴んでがぱっと開けると、沈痛な空気は一瞬で払われ、各自が自分の取り皿をぐいっと差し出す



「熱いから火傷には気をつけて下さいね、まだ他にもありますから遠慮せずに食べて下さい、酒は各自手酌して下さいね、無礼講ですよ、そこんとこ弁えて下さいね」



 こくこく頷く面々の前に、ごそっと大胆に汁と共にたっぷりと盛り付けられて戻された取り皿には豚(のような家畜)バラと白菜(のような野菜)、ミルフィーユ鍋である

 一応、こちらの食材でいつでも再現できるように、と勇人なりの気遣いだ



「まあ美味しい」


「温まるな」


「エディにも食べさせてあげたいわ」


「また近いうちにやりますよ、今は息子さんに食べてもらう前に、じっくりと検証してみてください」


「あら、ふふふ、そうね、じっくりと翫味させていただくわ」



 時間はもう遅く、王太子は昼間の疲れもあり すっかり疲れきって仮の寝所で眠っている



「レシピが入用なら用意しますから言って下さいね」


「是非頂きたい」


「わたしも」


「こちらも」


「わたくしも」



 ラドゥ親子の食付きが一番早かった

 彼らは城詰めっぱなしと外回りっぱなしなので嫁の機嫌をとることを怠ると悲劇が襲う、死活問題というヤツだろう

 忠義と愛に挟まれ難儀なことである



「はいはい、じゃあ後で用意しますんで、今は食事を楽しみながら思い詰めずに気を楽にして今後の予定や対策なんかを詰めていきましょう」



 そう言いながらシリウスの目の前に鍋敷きを設置した勇人は、隣の鍋を持ち上げて鍋敷きの上に移して蓋をがぱっと開け、シリウスに箸とレンゲを渡してから、空いたカセットコンロの上に次の鍋をセットして琥珀色のだし汁の中に具材を詰め始めた

 次は鶏団子鍋である


 それを眼にした直後、一同は自分の取り皿を急いで攻略しに取り掛かった

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