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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
積み上げる(仮題)
119/144

05

「陛下」


「ミ、ミーフェミア」



 声は猫撫で声の如く、顔はとろけるように優しく甘やかなとてつもなく素敵な笑顔だ

 いっそ恐ろしい程に、素敵で麗しく、凄絶に、凄まじい



「わたくし、一言くらいあっても良かったと思うのです」


「ん、ぅ、うむ」


「そこのところ、如何がお考えでございましょうか?」



 ぎりぎりぎりぎりぎり



「愛妻家ってか、恐妻家じゃねーか」


「本人が自負する通り胆力はあるようですね」


「腕力もな、まあ姑が姑だから、必然的に嫁も強くなるわな」


「精神的に強くなければ、わたし達のような子供は育てられません」


「そりゃそーだ」



 崩壊した寝所の前の荒れ地……ではなく更地……でもなく庭園跡地でテーブルと椅子を配置しガーデンカ……いや素晴らしいまでに開放感のあるオープンカフェである


 妻に胸倉を掴まれ笑顔で凄まれる国王を背景に、一同は ほっと一息ついていた


 勇人はシリウスから出してもらった何時もの果汁を飲みながら、テーブルの上のウェディングケーキ(全長二メートル超え)みたいなケーキと鬱陶しい程に豪華な薔薇(のような花)のテーブルフラワーは恐らく国王から王妃へのご機嫌取りなんだろうな、と察する

 全然全くこれっぽっちも効果は無いようだが


 因みにウェディングケーキ(仮)は、特に名札があったわけでも注意されたわけでもないので、一段目の一番綺麗だった部分は既にシリウスの胃袋に消えていた(これによって王妃の怒りに燃料が注がれたような気がしないでもない)


 更に蛇足だが、一段目の中央にデコレーションされていた星を模したようなチョコ菓子をシリウスが一口で食べたところ、中から小粒の月晶石と思わしき宝石があしらわれた美しい装飾の指輪がでてきた(もうイロイロと取り繕えない感がぷんぷんだが、恐らく一番の怒りポイントはコレ)が、現在その指輪はテーブルの一角に小皿に載せられ大分美しくない感じにチョコとクリームまみれで哀愁が漂っている


 騒ぎの直後にテーブルの用意が始まり、用意が整った頃合いをみて現れた国王に文句の一つも言ってやろうとした王妃を、まあまあと宥めた国王が、まずは落ち着いて話をしようとテーブルに向き直させた結果がコレだった

 準備中にちらっと見た美しいケーキがちょっと眼を離した隙にコレでは一言どころか二言・三言はおろか普段の分の愚痴だってたっぷりくどくど言いたくなるだろう


 幸い(?)なことに、食い千切られず歯型もないので恐らくギリギリのボーダーラインは死守されたものと思われる(思いたい)

 だからサプライズは諸刃の剣と成り得るのだ


 良い子の皆はよく見極めてからにしようネ!



「……では、エディはその土の能力を有しているというのですね、あの者が仕込んでくれると」


「うむ、事前に話せず 恐ろしい思いをさせてすまなかった、しかし」


「いえ、分かっております、あの子の心に衝撃を与えるには、確かに的確な方法でしたもの」


「治療方法をいくら占っても、分からなかった筈だ」


「……ええ、必要なのは、力の使い方を学ぶことだったのですものね」



 そう言って王妃は息子が塞いだ首の傷を撫ぜた

 未だ歪に盛り上がったままのその傷跡は、最初は初めて息子が癒してくれた痕だから、とそのままにすることを王妃は希望していたが、勇人の提案により、上手く癒せるようになったら息子が癒やし直すということになった、彼女もその方が息子の成長が実感できて嬉しいと快諾する


 当の息子はラドゥに抱きかかえられて庭の跡地中央に立つ、その外見的に目立つ側頭部をシリウスに癒され、外見上は以前と変わりない

 寧ろ髪で分かり難い頭部の歪みも治されているので以前よりもすっきりとしているだろう

 他人の体を癒やす前に、自分の体を満足に癒せるようにならなければならない、だから長く放置できないと判断された頭部の歪みと目立つ傷跡だけシリウスが癒やし、後は本人の操作精度の熟練度によって順次自分で癒していくこととなった


 二人の視線の先では、息子がシリウス監督下で地面の一部を蠢かせている

 まずは岩土を最低限自分の指先のように思う通りに動かせるようになることから始めるのだそうだ、ある程度熟したら今度は植物に力を注ぐ訓練に入り、それが一定の練度を越えない限りは人体に対して一切力を使ってはならない、という話しだった



「精神制御についてはコツを掴めば今のままでも充分問題ないだろうという話しだ」


「ええ……かわいそうに、あの子は我慢することに慣れておりますから」



 索敵によって予め王太子の普段の様子を見知っていたシリウスからの言葉を告げた国王に、王妃は少し悲しそうに頷く


 自身が傷つく度に泣きそうな顔になる両親を見て育った息子は、それはそれは温和しく我慢強い子に育ってしまった

 王族の子が子供らしく過ごせる時は短い、けれど息子は、それ以上に抑圧された生活を強いられてきた


 だが、だからこそ、王太子はここまで育つことができたとも言える

 胎児期に難を逃れることができたのは、王太后を警戒した国王が王妃が嫁いできた直後から彼女を隠すようにして守っていたからだろう、というシリウスの見解を聞き、一同は納得した


 今までとは異なり力を内ではなく外へと向けられるようになった今、その影響は自分の肉体ではなく周囲の環境に対して発露し易くなっているだろうということだが、だからといって人形のように振る舞うのも鬱積が溜まり、いざという時に一気に感情が爆発するという懸念がある


 その辺りを上手く小出しに発散させ消化していくコツを掴まなければならないのだそうだ


 今は今まで我慢していた分、訓練を兼ねて感情を素直に出せる期間を設けるという話で暫くはシリウスが能力を制御しているが、彼がここに居るのは半年にも満たない短い期間だ、それまでに自分自身で満足に制御できるようにならなければならない



「たった半年足らずだと思うと、普通なら気が急いてしまうのだろうがな」


「今までを思えば、随分と身も心も軽くなったような気が致しますわ」


「そうだな」



 ぎこちなくも精一杯の笑顔を見せる息子が、夫婦にはとても眩しく見えた

 出口の見えない暗い迷路の中を彷徨っていたような今までに比べれば、あの笑顔はやっと与えられた月明かりのようにすら感じる


 あの笑顔をもっと明るく、沢山見たいと思う、翳らないようにしていきたいと、……心からそう思う

ケーキごちそうさまでした!

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