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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
積み上げる(仮題)
117/144

03

――自分の所為だと思っていた



 息子が、あのような奇病を患っているのは

 シャンガル国国王、アルディアムはずっとそう思っていた


 彼は、自身が幼い頃に患った熱病のせいで子供が奇形として生まれたのでは、と

 さもなくば、あの毒母の因果を自分が受けているのだろう

 自分を最も苦しめる為に、その息子であるエルディアルが苦しんでいるのでは……


 ずっとそう思い煩い、それ故に、次の子供を作ろうとはしなかった


 妻が子を宿したと知った時には、この上ない喜びが彼を満たしたものだ

 ずっと、子は持てないかもしれないと、覚悟していたのだから


 けれどもそれが、ぬか喜びかもしれないと思わさせられたのは、息子が生まれた直後だった


 乳を求め泣く息子が、襁褓むつきの不快を訴えて泣く息子が、その度に傷つき、歪に癒えていく様を見た時

 息子は、一体 何を背負わされたのか、と


 目の前が、真っ暗になった


 医師に見せても、異常も無く健康だとしか答えは返されず、占術師に頼っても、結果は同じようなものだった

 病ではなく、咒いでもない

 体が正常な為に、治療方法を占いようが無い、……それが一層の暗闇を引き寄せる


 もし次の子も同じ病を持って生まれてしまったら

 そう思うと、臣下たちが次の子を急かし、あまつさえ側室をと発せられる進言にも、絶対に頷くことはできなかった


 彼と妻にできたことは、極力 息子の感情を揺らさないように、先んじて乳を与え、頻繁に襁褓を換え、悪意にも激しい感情にも晒さないようにするだけだった


 穏やかな気持であれるように、優しい本を読み与え、笑顔を絶やさず、それは側仕えにも徹底した


 それでも常に不安は付き纏い、息子もそれを感じ取るのか、小さな傷が絶えることはない


 そして、そんな隙を見逃さないかのように、毒母の影響力は増していった


 多少血が遠退くが、傍系であるランドゥルーグに王位を譲ろうと、そんな話まで持ち上がっていたのだ


 ランドゥルーグは納得せず、従兄弟のユーディレンフを探す傍らで息子の奇病についても治療方法を探してくれていたが、次代をとなると、国の状態を考えれば あまり時間は残されてはおらず、悪戯に時が過ぎるばかり


 様々な問題が膠着してから何年も過ぎた、ある時だった


 従弟の忘れ形見と彼に寄り添う魔女によって、瞬く間に状況は一変し、息つく暇もなく対応に追われ、やっと寝所で遅い眠りにつけたという時だった


 部屋に、叔母夫婦が訪ねてきたのは



「折角お休みのところ申し訳ありません陛下」


「よい、何があったのだ大元帥、そなたらの団欒を中断してまでのことか?」


「……ここでは」


「なるほど、我の書斎へ行こう」



 茶の用意も断る叔母夫婦を書斎に案内し、三人だけになる

 二人の齎した話しは、喉から手が出るほどに渇望したものだった



「負の感情によって自壊と再生を繰り返し、一見して酷く病弱な個体になる……エディが、その、土の能力者だと?」


「シリウスはそう申しておりました」


「わたくし達に話さなかったとしても、陛下はシリウスに治癒の力があることを知っておられるから、いずれ頼まれるだろうと思っていたとも申しておりましたわ」



 思っていた、頼もうと、……思っていた


 あの者達なら、謁見の時のように、魔法のように解決してくれるのではないかと、……藁にも縋る思いで

 その為にもまずは目先の問題を、と 連日、遅くまで仕事を詰め込む日々も、辛くはなかった

 ……ただ、ぬか喜びになるのではないかという恐怖だけは、拭い去ることができなかったが



「エディは……息子は……助かるのか」


「疑いの余地も無く」


「あの子はとても優しく思いやりのある わたくし達の自慢の孫ですもの、きっと殿下をお助け致しますわ」



 耐えるように顔を手で覆い俯く甥を、夫妻は穏やかな眼で見守った



「ありがとう……叔母上、叔父上、折角の水入らずにここまで知らせに来てもらい、感謝の念に絶えない」


「今度たくさん自慢話を致しますので、是非お付き合い下さいませ、旦那様に似て不器用で思い遣りのある孫息子に優しいお嬢さん、見たこともない料理やお酒にお菓子に、クッションにコタツに美しいグラス、自慢したいことがたくさんたくさんあるのです」


「それは是非とも聞かせていただきたい」



 独り、じっくりと浸りたいこともあるだろうと、泣き笑いのような顔をして応えた甥を残し、夫妻は孫達の待つ部屋へと戻って行った


 何とか仕事を調整した あくる日の夜遅く

 呼び出した従弟の忘れ形見は、アルディアムの望む返事を与えてくれた


 自分のやり方に口を出すなということは、つまり口を出したくなるような手段を取るということなのだろう

 息子と常にその傍にいる妻や側仕え達が一体どんな目に遭うのか、それは分からないが、普段通りで良いと言うからには、日常が崩壊するようなことをするつもりだろうと察する


 事前に通達できない以上、彼に出来るのは事後に詫び、労うくらいだ

 自分を信じて仕えてくれる者たちを一時とはいえ謀るのは心苦しく、申し訳なくあるが、それを選択するしか彼にはできない


 彼にできるのは、彼らに報いること、ただそれだけだ


 彼自身が賢君であらんと努力すること、そして息子にもそうあれと教え導くこと


 ……ただ、それだけだ

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