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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
積み上げる(仮題)
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02 (■グロテスク注意、飛ばし読み不可)

「誰の差し金か、お言いなさい!」


「聞きたいんですか、聞いて何かの役に立つんですか」


「まるで聞かない方が幸せだとでも言いたい様ね、そのように思わせ振りなことを言えば怯むとでも思うのですか、どうせあの方の手の者でしょう、けれどこれでもわたくしはこの国の王妃、胆力では負けませぬ!」



 王妃はシリウスの背後に王太后の影を見ていた、彼女ならば、血の繋がった孫だとしても、それがどんなに下らない理由であろうとも、可能性は充分に有り得る

 息子から気を逸らし、増援が到着するか、或いは倒れた者達が再び立ち上がるまで時間を稼ごうとシリウスを必死に煽るが、シリウスの視線は王太子からちらりとも逸れる気配すら無い


 恐怖や不安が高まっている所為で、シリウスの視線の先では王太子の皮膚のいたるところが蠢き、ピシリと裂け、見る間に歪に塞がる、そんな反応を繰り返す


 息子がどんな風になっているか、母親である王妃には振り返らずとも分かっていた

 だが、この場で振り返るわけにはいかない

 敵から、眼を背けるべきではない



「わたしが誰の差し金か……、知りたいのなら、お教えしましょう」



 あなたの――ですよ



「……そん……ま……さか」



 シリウスがその名を呟く、時が、今にも止まりそうに感じるかのように、唇がゆっくりと象るのを、呆然と、瞬きもできずに凝視する

 頭が、理解するのを拒絶するのか、酷い耳鳴りまでもが二人を襲った



「ちちぅえ……が……?」



 その瞬間、ぱんっ、と音を立て、王太子の側頭部が弾けた

 ……過大なストレスにより膨張し、破裂したのだ



「?! エ、エディッ!」



 今まで聞いたことのないような音を背後に感じ、流石に王妃は振り返った、息子の、頭が

 ぐじゅっぶぢゅっ、と血液や体液を吹き出しながら蠢く患部



「ぼくが……おかし……かゃ? ……だかゃいゃにゃいの?」


「そんなっ そんなことはありません! この者の嘘よっ、信じては駄目!」



 必死に息子を引き戻そうと縋り付き声を掛けるが、王太子の視線はシリウスの眼にがちりと合わさったまま、瞳孔は開き、涙が止め処なく流れ続けている



「……しんりゃほぉが……いいにょ?」


「エディっ わたくしの眼を見てっ! この母の声をお聞きなさい!!」


「ぼく……いきてたゃ……りゃめ……にゃの……?」


「惑わされないで!」


「さあ? ……"生きる権利"があるかどうかは人それぞれです、貴方にその権利があるかどうか、わたしの与り知るところではありません、……気は、済みましたか?」



 最後の問いを聞いた瞬間、王妃は振り向きざまに握っていた剣身をシリウスの腹に突き立てた



「逃げなさいエディ!」


「……は……ははぅえ」


「早く! 這ってでも逃げるのです!! 貴方は生きねばなりません! それが貴方の義務、この母の願いです!」



 より深く喰い込ませようと握った剣身を押すが、自らの手が喰い込み、自身の傷を深めるばかりでそれ以上はびくとも動かない



「気は、済みましたか?」



 もう一度シリウスが問う

 よく見えるように大仰に持っていた剣を持ち上げ、王妃の首に充てがいながら



「れもははぅえ……どぉしてちちぅえは……どぉして、どぉして」


「くそぉぉぉおおおお!!」



 ずん、とシリウスの剣を持つ方の肩へ、その腱を切断せんと意識を取り戻したラドゥが短剣を突き立て、シリウスの腕が止まる



「……どぉして」


「でんかっ お逃げ下さい!!」


「逃げてエディ!!」


「……先程も言いましたが、他人の生き死にの理由も権利も わたしが知るところではありませんが、"生きようとする権利"は誰でも持っています、……それを行使するかどうか、出来るかどうかもまた、人それぞれ、それこそ、わたしの知ったことではありません」


「何をぐずぐずしているのっ!」


「お早く!」


「気力を持てず母親の分まで生きようとする権利を放棄するのなら、それもまた選択の一つ、自由にすればいいでしょう、……貴方が――死にたいのなら」



 目の前で、母親の首に、ぐちり、と剣が喰い込む

 その瞬間、王太子は母親の背中にしがみつき、腕の力だけで這い上がった



「あ゛ぁ゛ぁぁああ゛あ゛ああ゛ぁああ゛あアア゛ア゛ア゛ア゛!!」



 床が盛り上がり、円錐状の土がシリウスと王妃の間を遮るように突き出てシリウスを襲う

 息子を負ぶうような状態で引き離された王妃の首は、切断されかかった患部がぼこぼこと肉を盛り上げて塞がり、寝台の向こう、開け放たれたテラスや壁を突き破って更なる岩や土が襲い掛かった

 肩に剣を突き立てたままのラドゥごと、シリウスはそれらを造作も無く避ける



「……ぇ……でぃ……?」


「でんか……、まさか」



 呆然と呟くラドゥがハッとなり辺りを見回すが、どこにも姿が見えない

 頼りどころを求めるように更に視線を彷徨わせると、不自然な程に平時と変わらず温和しくシリウスに抱えられていた勇人と目があった

 言葉は無く、けれどもにやりとした含むものを返される


 そのままシリウスが避け続けると、王太子の操る岩土の動きはより的確なものになっていった



「まさかっ」

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