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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
ゆっくりと沈む(仮題)
113/144

13

「そ、そう怒るな、その、そんなものを使わざるを得ない状況だったのだろう?」



 心なしかむっつりとしたシリウスを宥めようと、大元帥は自領産のワインをシリウスのグラスに注ぎ込む

 ワインなのにビールのようになみなみと



「……地中深くに潜んでいた魔属植物に周囲の地面ごと腹の中に取り込まれました、わたしと同じ属性の上に浄化の力を継承できる程の個体でしたので再生能力が飛び抜けて高く、中から抜け出るのは当時のわたし達にはかなり厳しいものでした」



 お返しにシリウスも勇人の地元の地酒を大元帥のグラスになみなみと注いだ



「植物が継承を……?」


「浄化に抵抗できるだけの力がありさえすれば生物である必用すらありません」



 因みに度数は四十をオーバーしている、殺す気か



「そうか、それを魔女殿は破ったのだな」


「そんな大したもんじゃなかったですけどね、俺は一瞬動きを止めただけで結局トドメを刺したのはこいつだったって話しですし」



 勇人は最後まで見ることは出来なかったので、聞いた話でしかないが、基本的にこの男は嘘をつかないのでそのまま聞いた通りに飲み込む



「……貴女、まるで他人事のようですね」


「そ、そうか? そんなことないだろ、お前結構神経質だもんなぁ気のせい気のせい、ほらシリウス、食え、ほら、あーん、まだまだあるぞ~」



 腹に回った腕が若干締まったので、勇人は露骨にご機嫌取りに走ったが、それはアーディグレフたちが用意した手土産のチーズであり、切ることすらしていないスタンダードなコンクリートブロックサイズであった


 もしやソレで殴り付けるのでは? と一瞬疑った夫妻の目の前で、相変わらず無表情を保ったまま無言でばくばくとコンクリートブロック(サイズのチーズ)を消費するシリウスの姿に、夫妻の眉はへにょりと下がる

 ワリとどうしていいのか分からない夫妻は、やっぱり露骨に話題を変えることにした



「あ、そ、そうだわ、その額の眼はあの魔導師が関わっているのよね? その、倒した魔王が魔導師だったのかしら?」



 だとしたらウチのはスゴイですわ! とまるで自分のことのように誇らしいわけだが、勿論、そんなわけはない



「いえ、最初は単なる魔属の千里眼でした、しかし能力は兎も角として、モノがモノなので体への影響を心配した義母が、亡くなった後に魂だけの状態でこれをどうにかできる医師を探して下さったらしく、その過程でどうやら魔導師と遭遇したようです」


「まあスピカさまが、亡くなった後までもあなたの心配をしてくださったのですね……」



 話はしは逸れるには逸れたが、あまり明るい感じの逸れ方ではなかった

 スピカに対し有り難い気持ちにはなるが、空気は暗いままである



「魔導師と遭遇……肉体の無い魂だけの状態とは言えスピカ殿は無事だったのか?」


「はい、一切何事も無く次の輪廻へ」


「そうか……、それで、かの魔導師は、その眼を」


「作り変えました、額の眼だけではなく、本来の眼も」


「! 総てか……」



 本来の眼も、と続きを濁しはしたが、本来の眼については夫妻が想像したように作り変えたわけではない

 最初に魔属から千里眼を得た時、引き替えのようにしてシリウスは本来の眼球を二つとも失い、彼の能力を以ってしてもそれらを復元することは出来なかった、それが当たり前の状態になってしまったからだ


 勇人と初めて会った頃、シリウスのその眼窩はただ眼を閉じているだけのように見せる為に それらしく埋められていただけだった、魔導師と遭遇した時、その眼窩には新たな眼球が発生し、それは額の千里眼を含め異様なモノへと成り果てていた

 そしてその眼はシリウスをじわりじわりと作り変え、今もそれは止んでいない


 この眼を得てから既に五年

 五年という時間相応に肉体は老い、一応、人の体を保っているようではあるが、あらゆる種族差を差し引いたとしても既に人と呼ぶのも憚られる段階に入っているだろう


 だがかつて眼球を失っていたことも、今現在の肉体のことも、それらを祖父母に明かすつもりはないし、終ぞ義母スピカにも教えなかった、知っているのは勇人ただ一人のみ

 そんな事を今更言ってなんになる、元に戻る可能性なぞ無いに等しく、余計な心労を与えるだけだ

 実るものなど何もありはしない



「だ、大丈夫なの? 体調は? 頭は痛かったりしないのかしら?」


「大丈夫です、不調は一切感じません」



 寧ろ頗る良いとすら言えるだろうが、だからと言ってそれが何かの慰めになるかと言うと、当然のことながら何の慰めにもなりはしない

 けれど、孫がそう断言すれば、それは祖父母を確かに安心させた


 ほう、と安堵の溜め息をつく夫人は、もう一度明るい雰囲気になるように再度話題を振ることにする



「あの、ねえ? カミシロさんはどうして女性になってしまったのかしら?」



 間抜けな理由と言っていたのだから、暗い成り行きでないと信じたい

 もしかしたら恥ずかしい理由で言いたくないかもしれないが、言わないなら言わないでそれでもいいのだ

 それならそれで聞いて悪かったと謝り、また別の話題を振ればいい

 兎に角空気を変えることが重要なのだから



「あー……いや、……あの……単に勢い余って穴に落ちたんです」


「……まあ」



 確かに空気は変わるには変わった

 ちょっとカワイソウな方向に

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