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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
ゆっくりと沈む(仮題)
111/144

11

「……なれそめ」


「ええ」


「……なれそめ」


「うむ」


「……なれそめ」


「電子辞書によると、恋仲の者が知り合ったはじめ、もしくは男女が親しくなったきっかけ、或いは恋のきっか、」


「――ちょっと黙れ」



 スマホがオフライン状態でも使える辞書アプリで勇人に知的補足を与え出したシリウスを黙らせる為に、勇人は先程大胆に開けた徳用チョコをがっと鷲掴んで包装を解きシリウスの口にぽいぽい放り込む

 チョコは大量に口に入れると喉をさっぱりさせる為に水分も欲しくなるのでこれで若干の延長工作も図る

 酒で流し込み終わる頃を見計らって断続的にチョコを投与する作戦だ



「あー……ぇー……」



 夫人が、暗くなった空気を明るくしようと明るい話題を振ってきたのは理解することができなくもない

 理解できなくもないこともない……が



(馴れ初め、え、馴れ初め、……んん?)



 そもそも出逢った時は男女ですらなかった、というか出逢ったというよりは寧ろ"出遭った"

 "遭遇"だとか"エンカウント"だとかそういった表現を用いた方がより適切であろうと感じる


 勇人は初対面でシリウスからアイアンクローを喰らったことを今も忘れていない(っていうかハッキリと覚えている)が、まさか初対面のお宅のお孫さんに頭を粉々に砕かれそうになりました、とは流石に言えないだろう

 言ったが最後、今まで会ったことどころか存在すら知らなかった成人済みの孫のことであろうともウチの孫が申し訳ありません、と謝罪の嵐必至である


 しかし、どう頑張っても夫妻……というか夫人の求める方向性の話題を提供することは難しい……っていうか厳しい、っつーかとてつもなく無理



(何を下らないことを悩んでいるんですか、事実のまま言えばいいだけでしょう、なにも必ずリクエストに応えなければならないものでもないんですから)


(事実っておま……アイアンクローをか?)


(言えばいいと思いますよ)



 取り敢えず徳用チョコ攻撃を止めつつも夫人ががっかりするだろうなぁ、と思うと期待に応えなくてはならないような気がしてしまう勇人であったが、まぁ仕方ない

 無い袖を振ることが出来る筈もないのだから

 でもだからってアイアンクローはないだろ、と冷静な第三者からのツッコミは残念なことにどこからも無かった



「えーと、その、さっきシリウスが魔属の割合が一定を超えた時に浄化するって言ったアレですけど」


「ええ」


「ぁー……ぅー……んー……」


「浄化の力を使う為に心を持たないよう育てると言いましたが、それでもいざ大規模な浄化を、という時には精神的負担を軽減する為の処置がとられます」



 なるべくあっさりと分かり易く纏めようとするが情報量が多くどこを省くべきか、と苦心する勇人をみかねたのかシリウスが代わりに口を開いた



「処置とは?」


「力を大きく振るう大規模浄化の際にだけ、異界から浄化能力者の好ましい気質の者を呼び寄せ、依存させることで負担を減らします、カミシロはそれによってこちらへ来ました」


「まあ! シリウスの為にカミシロさんは呼ばれたのですね!!」


「いやいやいやいやいやそーゆうんじゃなくそーゆうんじゃなく!」



 巡り逢う運命の恋人たち! といったテンションの夫人に勇人は大分必死に訂正を入れようとしたが、あまり効果は感じられない

 っていうか耳から耳へと何の引っ掛かりもなく抜けてるっぽい



「カミシロはわたしの為に呼ばれたわけではありません、わたしは結局浄化の力を継承していませんから、この場合は義母を含め他の三人の神子の為です」


「まあ……」



 おばあちゃんガッカリ、といった夫人の表情にシリウスの時もやや止まる



(だろ? お前もそうなるだろ?)


(……)



 取り敢えず勇人を無視することにしてシリウスは続きを話す



「そもそもカミシロは浄化能力者の為に呼ばれたわけではなく、事故により本来呼ばれる筈だった者の代わりにこちらに来ました」


「それは災難であったな、突然わけも分からず異界へとなれば、苦労しただろう」


「そう……ですね、まあ、色々と保証はしてもらいましたが、その代わり従者のようなことをしました、主に彼女たちの為の食事の支度なんかでしたが、年端もいかない女の子たちが戦ってるのに、成人した男の自分は影に隠れているというのも情けなかったです」


「戦う為の訓練を受けた人間でもなければそれも致し方ない」


「そういえば気になっていたのですけれど、カミシロさんは元は男の方でしたのね」


「そうです」


「異界の者は此方へ渡る時に歪みの影響を受けて様々に変化するという話しを聞いたが、魔女殿もそれで女性に……?」


「いえ、最初にこっちへ来た時はちゃんと男でしたよ、こうなってしまったのはもっとずっと後、……間抜けな理由です、まあ兎に角 神殿で温和しく浄化が終わるのを待つのも精神的に辛かったんで、三人の巫女に付いて行くことにしたんです」


「……三人?」


「土の能力者の義母は保養地で癒し手としての責務を負っていましたから、カミシロが召喚された神殿にはいませんでした、カミシロたちが義母を迎えに来た時にはかなりの凍傷で壊死が酷かったのでわたしも手伝わされました」


「壊死してたのかよ! っていうかそれでお前俺の枕元にいたの?!」


「そうです」


「凍傷?」


「あら、あらあら?」



 大元帥は凍傷に反応したが、夫人は勇人の枕元という言葉に反応した



「まあシリウス、あなたまさか堪え切れずに眠っていたカミシロさんを……!」


「寝込みを襲ったか襲わなかったかで言えば、襲いました」



 アイアンクローで



「ちょ、言い方! 言い方!!」


「まああ! あら? でも男同士……道ならぬ恋ですわね、いいのです、愛とは理屈で語れないものですもの、それに今は女性なのですし、何の問題もありませんわね!」


「まってまってまってそーゆーんじゃないからっそーゆーんじゃないから!」


「腹に力を入れるんじゃありませんよ」


「誰がいれさせてんだよ!」


「まああ!」



 宥めるように勇人の下腹部を撫ぜるシリウスの姿に夫人が黄色い悲鳴をあげる



「ぁあーもぉぉおおおおっ!」



 勇人は頭を掻き毟った

本日の日付を意識してみました。

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