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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
ゆっくりと沈む(仮題)
104/144

04

「このような時間にすまない」


「ごめんなさいね、こんな時間帯に訪問するのはいけないことだとは分かっているのだけれど、込み入ったお話をするにも、流石に家人の前では憚られるもの」



 手土産を渡しながらそう言った夫妻に、受け取りながら中へと促す



「わざわざどうも、あ、じゃあ一緒に食事をとりながらどうですか、馴染みのない料理ですから口に合わない場合もありますが、その時には別のものを用意しますよ、何か体質的に食べられない食材とかありますか?」


「まあ、申し訳ないけど甘えさせていただける? わたくしも夫も食べられないものについてはこの国で流通しているものなら大丈夫です、食べたことのないものは分からないのだけれど……」


「なら大丈夫でしょう、こちらへどうぞ、暫く待って下さい」


「邪魔する」


「あ、手伝いますわ」


「食器とカトラリーの準備だけですから大丈夫ですよ」



 勇人が手土産を倉庫の冷蔵室に仕舞い、次いで予備の丼とトング箸を取りに行きながらシリウスに椅子の追加をさせる

 夫妻は追加でうどんを茹で始めたレプスとその母親に挨拶をしていた

 夫妻の訪問に合わせ、室内の壁はいつの間にか蔦葉に覆われているが、その所為で夫妻は勇人たち庶民の精神衛生上の為に豪奢な壁が木の板に覆われていることに気付かなかったようだ


 この国に来て数日だが、初日以降、使用人の目もあって、この祖父母と孫であるシリウスは込み入った話をしていない


 信用している使用人達ではあるものの、うっかりということもある

 どこから漏れるかもわからないということで、使用人達は主夫妻が本当に死人となったと伝えられ、シリウスについても魔女がその顔を気に入ったためだと教えられている、だからこそ彼らの前でその血縁を連想するような話はできないのだ


 しかし、祖父母としては、自分の孫がどのように育ったのか、恵まれていたのか、辛くは無かったのか、知りたいところだろう



「これはスープだす、好きな味のスープを掛げて、こん具を好きなだげ載せるんだす」


「ありがとう、まあいい匂い、初めて見る料理ですのね」



 グラスに注がれた冷たい水を出しながら説明するレプスに礼を良いつつ夫人は被っていたヴェールをそっと取り払う

 夫人が取り出した薬包を二人して振る舞われた水で飲み込むと、数分もしないうちに土気色だった肌の色と濁った眼は元の通りに戻る


 二人の異状な体色はシリウスの用意した薬草による色素沈着効果であり、一度服用すれば一月ほどは色が抜けない

 色素以外には体に影響は無いが、せめてプライベートな空間では精神的にも休みたいだろう、と沈着した色素を中和させる効果のある薬草も渡されていた



「……美味しい、これはなんという料理ですの?」


「うどんだす」


「体が温まるな」


「基本的に寒い季節向けの料理ですから、でも暑い時期には冷やして食べるのも美味しいんですよ、暑さで食欲が無い時でも結構食べられると思います」


「まあ美味しそう」



 トング箸でちゅるりと上品に麺を口へ運ぶ夫妻が、ほっとしたように息を吐く


 ……さて、どうしたものか


 "レプス"は夫妻がシリウスの祖父母だとは知らないし、子供の頃の話をするのもエルーシャに刺激を与えることになるやもしれない 夫妻もそれを気遣っているのか、聞く内容はどこが故郷なのか、とか、どういった経緯でラドゥと出会ったのか、この国に来るまでにどのような国を巡ってきたのかなどの当たり障りのない話しを尋ねてくる


 孫の母親……の生まれ変わり(本人自覚無し)というポジション、つまりは息子の妻……いや婚姻関係は存在しないが、兎に角そのことで多少なりとも負い目のある夫妻は、レプスとその母親にも気を遣いながらこまめに話を振るという状態だ


 夕食を大体食べ終わったレプスを確認した勇人が取り敢えず片手をすっと広げると、そこへ無言で何時ものジョッキが渡される

 結局こういう方法しか思い浮かばないところに自分の脳力の低さを痛感するが、致し方ないだろう



「レプス、ずっと話してると喉が乾くだろ、ちゃんと水分摂らないとだめだ、ほらいつもの」


「ありがとうごぜぇます」



 先程 貰った手土産の菓子と共に渡すとレプスは嬉しそうに受け取る

 キミ、ダイエットしてたんじゃなかったでしたっけ?

 確かつゆを全種類制覇する為に一杯の量は少なめだけど総合的にはトッピングは半熟玉子一個半に削り節、刻みネギと茹でたホウレン草(やや少なめ)、一口大の野菜のかき揚げ二個とそれから厚切りのかまぼこを一切れに、ちりめんじゃこと胡麻、甘辛の油揚げを迷いに迷って三枚分……、一口大に切ってあったのに、三枚分……

 カロリー計算できる本とか買った方がいいのかな、と勇人はちょっと悩む



「お二人もどうですか、さっぱりとした甘さの果物の果汁です、飲みやすいですよ」


「いただきますわ」


「遠慮無く」



 菓子を配膳しながら飲み物について聞いてみると夫妻も飲むとのことなので、ジョッキではなくピッチャーでシリウスに出してもらい、古いグラスを下げて新しいグラスに注ぎ込む



「まあ、本当に飲みやすい」


「おらも毎日飲んでるだす」


「毎日でも飽きぬな」



 数分もそうして話していると、レプスはうつらうつらと船を漕ぎはじめた

 睡眠効果のある果汁が効いてきたらしい

 シリウスが勇人を椅子に降ろして立ち上がりレプスにそっと歩み寄ると、タイミングよく彼女はこてんと眠りに落ち、シリウスが椅子から掬い上げる



『気ぃば使っでもらっで申し訳ねぇだす』


「こっちこそすいません、他にいい方法が思いつかなくて」


「ご息女を除け者にするようで申し訳ない」


「ごめんなさい」


『気にすねぇで下せぇ、充分良ぐすでもらっでますがら』



 彼女も、娘が再びエルーシャと入れ替わることを危惧して気を使われていることに気づいているのだ

 エルーシャが悪いわけではないが、彼女は生き直している、頻繁に以前の人格が出ることで影響が無いとは言い切れない

 謝る夫妻に首を振った彼女は、娘に付き添うために自分も立ち上がり、シリウスと連れ立って奥の寝室へと姿を消す

トッピングご馳走様でした!

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