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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
ゆっくりと沈む(仮題)
103/144

03

 翌日、大公家のバランスが大きく崩れたことによる騒ぎを憂慮し国王の身辺警護を強化する、という名目の元 大公夫妻と魔女一行は使用人十数人を連れ、王城の最奥、後宮へと一時的に居を移すことになった

 まだ受胎したとは言えない段階では、もしもの時のことも考え大公夫人には受精の話はしていない

 いずれ悪阻で自覚すればいいだろう、ということで男たちの話は決まった


 それは兎も角として、場所は後宮……ということで、その主、つまり王妃と王太子に挨拶をしなければならないのだが、それには向こうの都合がある


 王妃と王太子だけならばすぐにも挨拶はできるのだろうが、そうもいかない

 国王による紹介が必要になるのだ


 殆どその役割を果たしていなかったとはいえ、二つの大公家がその力を失うというのはそれ相応に各方面への影響が出るもので、現在国王を始めとした国の中枢は、責任者の変更や権利の移行などそのあたりの調整に東奔西走しており、なかなか国王自身の時間がとれないでいる


 夜も更ければ国王にもプライベートな時間が訪れるだろうが、流石に休むべき時は休んだ方がいい


 護衛として国王に侍るアーディグレフ大元帥とその妻である大公夫人ユゥエルは兎も角として、雇われ指南役と言っても現状は只の賓客である勇人とシリウスは、そちらの都合がつくまでは後宮の主に挨拶をしていない身としては温和しくしていなければならないだろう



「んん……流石に作り過ぎたべか」



 大量のミサンガやあみぐるみを前にレプスが呟く、充てがわれた客室で勇人たちは温和しくそれぞれに好きなことをしていた

 あの後目覚めたレプスは、エルーシャだった記憶も無く、毒に倒れた侍女を助けてほしいと再び大騒ぎだったが、それが逆に安堵を齎したことを本人は知る由もない



「そうだなぁ……城下に降りて散策でもしてみるか?」


「大丈夫だす、おらおっ母と菓子でもつぐ、」


『あんだ、最近ふどったんでねぇの?』


「?! ぇ、そ、え?!」



 レプスの顎のラインや手をじっくりと見ながら吐かれた母親のその言葉には、なかなかの破壊力があった



「お、おら、うどん作るだなす!!」


「う、うん?」



 青褪めたレプスは大量の小麦粉を準備し始めた

 確かにうどんは蕎麦や白米に比べてカロリーは低い、うどんを捏ねることによってそれなりの運動にもなるだろう

 だが、その十キロの米袋に相当するような小麦粉の量はどうなんだろうか

 取り敢えず合わせて用意した塩の量などは小麦粉に合わせてあるようなので口には出さずに見守る


 出来上がったものについては、シリウスがいる限り余るということは無いし、なんなら倉庫で保管してもいい


 しかし手打ちにしても足踏みにしても、後々強烈な筋肉痛を引き起こしそうな量を準備するのはどうなのだろうか

 それも一回ごときで痩せられるとは到底思えない、ダイエットには継続というものが必要不可欠だろう


 それ全部、最後まで形にできんの? とは思うがやる気を削いではいけないと思い勇人は口にしなかった



(後で一旦向こうに戻ってダイエット効果のあるストレッチを検索してやろう……)


(それよりも間食を制限すべきではありませんか?)


(……そうだな)



 おやつ規制が入った場合にレプスが浮かべるであろう絶望的な表情を容易に想像してしまい、やや気まずくなる勇人である

 取り敢えず、今夜の夕食はキャンセルの知らせをしておいた方がいいだろう、通常の三人前なら兎も角としてシリウスの量を考えるとキャンセルの影響は大きい


 昼食が終わってからそんなに時間が経っていない今ならまだ厨房にも迷惑を掛けない筈だ

 キャンセルが間に合わなかったとしてもシリウスならうどんも込みで食べきれるだろうが、流石にレプスの前で食べるもの可哀想だろう


 勇人はうどん用のトッピングとつゆを数種類用意するために読みかけの本を置いて立ち上がった


 ちなみにレプスは現在箸の使い方を修行中である

 勇人としてはこちらで生活する上では別に覚える必要も無いだろう と、こういう食事用に竹製のトング箸を予備を含めて用意してあり、暫くはそれを使っていたのだが、最近は本人の希望もあり矯正箸を買ってきたのでそれで修行中だ

 更に蛇足だが最初の一膳目はあまりに力が入った為に中程でへし折れ、二膳目は落とさないうちに、と急いで口に持ち込んだ瞬間歯で箸先を噛み折り、現在は三膳目である


 うどん相手に格闘するレプスの傍らで後は揚げるだけの状態にしたトッピングなどやつゆを用意した勇人だが、ちらちら確認する様子では流石に量が多かったらしくレプスはひぃひぃ言いながら足踏み式でうどんを捏ねていた



(水入りのペットボトルでも両手に持たせてやればもっと効果があったかな)


(流石に初回からではきついでしょう、段階を踏まないと)


(まぁそうだな)



 鬼畜の所業である



 なんとか捏ね終わったものを熟成の為に毛布でくるむ、後は夕飯時になった時に製麺して茹でるだけだ、勇人が揚げ物をしている間にレプスが茹でるのだが、そのレプスは現在体力を使い切り長椅子にぐったりと横たわっていた

 ちなみに量が量なので家庭用製麺機に活躍してもらう


 うどんを寝かせること数時間、そろそろ夕食の支度を始めようかということで丁度揚げ物も終わり盛り付けというところで訪問者があった



「はい、あぁ、どうも、何かありましたか?(何で大公夫妻だって予め言わなかったんだよ)」


(さして問題があるとも思えませんが)


(あーはいはい)



 勇人が開けた扉の向こうには大公夫妻が手土産を持って待っていた

 来たのは二人だけで、どうやら食事休憩時の護衛交代を待ってこちらへ顔を出したらしい

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