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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
ゆっくりと沈む(仮題)
102/144

02

「いやしかし、本物の魔女ならばこのような場所にいることがそもそもおかしい、貴様らは魔女を騙る詐欺師であろう! いったい幾らでレンディオム家に雇われたのやら、いやいや雇われたというのも違うな、その顔、レンディオム家に連なるものだろう、一族総出で高貴なる陛下を謀るとは神をも恐れぬ悪行をよくも白々しくやってくれたものよ、そなたらの正体、陛下の御前にて白日の下に晒してくれるわ!」



 魔女が場末の酒場にいようが大衆食堂にいようが古着屋にいようが婚活パーティー会場にいようがグルメツアーの団体客の中に紛れ込んでいようが本人の勝手だろう、魔女にだって平凡な生活を営む権利がある

 こんなところにいる筈がないと言うのなら、一体どこに居れば納得するのか甚だ疑問であるところだ


 まぁ兎に角、彼らの考えでは、魔女などというものはレンディオム家が他の大公家を排し王を謀るために用意した真っ赤な偽者であり、あの若返った大元帥はレンディオム家の親族から似た顔の若者を用意し、死人のような肌も眼も魔具か何かによるもので、総て王家を傀儡となそうとした陰謀である

 その証拠に魔女の僕と称す男の顔すらよく似ている、同じく親族の中から出た実行犯だからだ、これはレンディオム家による王権簒奪劇に違いない


 よって、魔女の正体を暴き、王の眼を覚まさせるという大義名分を掲げ、レンディオム邸から二人が出たのを確認した後、手勢を集めて押し掛けてきた、というわけだ


 一応、実力を知るレンディオム家の者達に面と向かって対立する程に知能不足ではないようだが、だからといってその客人をどうにかする、というのも稚拙な発想だろう

 唯一、ゾンビを装う肌と眼についてはオマケで正解というところだ、魔具ではないが


 酒場に居合わせた面々を証人に仕立て上げる為にか、大声で大捕り物の前口上を述べる騎士を無視してカウンターで騎士の乱入に驚き手の止まった店員をせかし料理を要求する勇人は振り向きもせず、シリウスも眼の前の皿を攻略することに忙しい


 無視されたことに怒りを露にした口上主の騎士が、まずは取り押さえ易い勇人を目標に定め、抜剣して一歩踏み出した時だった



「……?」



 シリウスが立ち上がり、行く手を遮るように眼の前に立ちはだかる

 その手に武器は無く、それらしきものは衣服のどこにも見られない

 相手をただの詐欺師と完全に舐めて掛かっていたその男は、歩みを止めず、次の瞬間、視界が勝手に動き、その数瞬後に、背後でばたんと何か重いものが床に倒れたような音が響き、周囲が一斉に静まりかえった



「なんだ、ど、どうした、なぜからだがうごかない?!」



 恐怖で、誰も、動けない



「どうしたっ、なんでだれもなにもいわないっ、どうなってる?!」


「見たいんですか、見ない方が身の為だと思いますが物好きですね、頭がおかしくなるかもしれませんが、それも自己責任です」



 ぐるり、と視界が移り、男が、眼にしたもの……


 頭部の無い体が、床に横たわっていた、よく見れば、支給品の剣帯に付いた飾りは、自分のものだ

 頭部の無い体の首からは、鼓動に合わせて血が噴出していた



「ぁ、ひ? あぁ、あぁあああぁあぁあああ゛ああ゛あ゛あ゛?!」



 生理反応でびくびくと小刻みにのたうつ首の無い自分の身体を見れば、誰だって頭がおかしくなるだろう


 首は切り取られたのではない、シリウスが獲物の解体によく使う手で、能力を使って細胞同士の結合を解いたのだ

 これを使うと綺麗に解体できる、皮を剥ぐのも、臓腑を取り分けるのも、綺麗に、とても綺麗に


 頭はシリウスの能力によって生存させられているが、首から下はそうではない、この状態が続けば、どの程度で痙攣すらも無くなるか……


 目の当たりにした者達は、逃げ出したいが体がうまく動かない

 ようやく口々に化け物と洩らし始めるが、それに一体どんな効果があるのかは不明だ



「化け物? この程度で何を寝言を言っているんですか、本物の化け物はこの程度では済みませんよ」



 煩く絶叫し続ける生首の口を植物で塞ぎながら言うシリウスに、料理の載ったトレイを持って戻った勇人が特に恐怖の色も無く訊ねる



「お前、それ欲しいの?」


「これですか?」


「おう、持って帰んなら俺や世間の皆さんの精神衛生上ヒジョーによろしくないから見えないようにしまっとけよ、あと生き物なんだから世話はお前な、散歩は近所迷惑だから ひと気の無い月明かりの無い夜しか認めない」


「いりません」


「じゃあさっさと元んトコに返せ、お前一人でも結構な大飯喰らいなんだから世話するつもりもないのに余計な食い扶持増やすんじゃねーよ」


「金銭に不自由はしていない筈ですが」


「毎食毎食あの量を作る方の身にもなれ」



 勇人の口から吐かれる捨て犬を拾った子供に対するような説教は、寧ろ異様さを余計に煽った

 騎士たちは頭がどうにかなりそうだった……というか、餌……ではなく食事を与えるつもりではいるのか、あの、首に



「まじょ……まじょだ……」


「詐欺師なんかじゃ、なかった……!」



 騎士たちの眼の前で、シリウスが床に転がる体の襟首を掴んで持ち上げ、片手で掴んでいた頭部を繊細さの欠片も無く無遠慮に載せる

 若干俯き気味の為か、見上げてくる"魔女"と首を戻された騎士の眼が合った



「あぁ、えっと、こいつの顔だっけ? 大元帥若返らせた時にさ、気に入ったから作り変えたんだよ、この美しさは見るからに芸術品だよな、思わず手元に置いて四六時中愛でたくなるくらいに、あんたらもそう思うだろ?」


「ッ! ッ!!」



 何か言っているようだが、口を塞がれたままでは伝わる筈も無い

 シリウスが襟首を掴んでいた手を離すと、どさり、と騎士は再び床に倒れた

 首はちゃんと着いたようで、倒れた拍子に頭がとれることは無かったが、騎士は慌てて自分の頭を押さえる



「それで? なんだっけ? 国王の前で、俺らの正体をお披露目してくれんだっけ? なぁ?」


「ひ、ひィッ?!」



 騎士たちが埃を巻き上げ、テーブルや椅子に躓きながら慌てて逃げていく後を、床に転がって頭を押えていた騎士も急いで追いかけ、騒ぎは一応収まった



「なるほど、言ってもらえればこちらで対処したのだがな」


「夫人に負担を掛けるわけにはいかなかったからな」


「伯母上に?」



 騎士たちが店内から逃げ去ってすぐに、店主に騒がして悪いね、と勇人が声を掛ける背中に、ラドゥが言葉を掛ける


 彼はアーディグレフに頼まれて様子を伺っていたのだ


 持っていたトレイをテーブルに置いた勇人は元の席に戻ったシリウスの膝に収まり、いつの間にかトレイに埃避けとして覆い被せられていた大きな葉を取り除き、続いて荷袋から消毒スプレーを取り出して騎士の頭を掴んだ方のシリウスの手を取って消毒する

 ラドゥも酒を注文して相席させてもらうことにしたようだ

 カウンターで酒を受け取り、勇人たちのテーブルに着く



「受精卵が確認できたんだとよ」


「じゅせいらん?」



 ジョッキに口をつけながら、聞いたことのない単語にラドゥは首を傾げる



「ああ、えっと、妊娠の一歩手前ってことだ、このまま何事も無ければそのまま受胎するそうだ」



 だぱぁ、とラドゥはマーライオンした

早い、早過ぎる

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