7話〜拠点〜
酔い潰れてしまったリリーナを背負って酒場を出た二人はニアサス・アーウェルンクスがいそうな場所に向かって移動することにした
「姉様がすいません...」
「ははは...大丈夫だよ...」
「姉様はお酒に弱いのにやたらたくさん飲むんです...」
「うん、弱いんだなってのは見ててわかったよ」
リリーナは最初の一杯を飲み干した時すでに顔を真っ赤にし呂律が回らないくらいになっていたのだ。酒場に行こうと言ってきた張本人があんなに酒に弱いのか、なんてことを考えながらエリアとシーアは笑っていた。しばらく通りを歩いているとシーアが、酔って寝てしまったリリーナを運び続けるのは大変だろうという事でどこかで休もうと提案してきた。確かにこのまま背負い続けるというのも大変だな、と思いエリアは静かな場所ということででクロノス神殿へと向かうことにした
「ではエリアさんはそこで『命選の精霊』であるニアサス・アーウェルンクス様と出会ったんですか?」
「そうだよ、いつものようにお祈りに行ったら偶然出会ったんだ。向こうは僕のことを見てたみたいなんだけどさ。不思議なこともあるんだね」
「お祈り...ですか?どんなことをお祈りしていたのですか?」
「...身長のこと...」
「あっ...だっ、大丈夫ですよ!ま、まだ伸びないと決まったわけじゃ!」
「...ありがとう」
通りを歩く二人に気まづい空気が漂った。シーアには聞いちゃいけないこと聞いてしまったという罪悪感が襲い、エリアは気を使われてしまったということに肩を落としていた。そんな雰囲気のままクロノス神殿に到着した
「とりあえずリリーナは椅子にでも寝かしとくか」
「...完全に熟睡してます...起きるまで待ってたら日が暮れそうですね...」
「うーん、リリーナは起きないしアー様は見当たらないしどうしたものか」
「呼んだかしら?」
悩む二人の背後にニアサス・アーウェルンクスが立っていた
「わっ!?アー様いつの間に!?」
「この神殿の情報ならいつでも私の元に入ってきてね、それでエリアが神殿にいたから飛んできたの。私もあなたのこと探していたのよ?」
「この方が『命選の精霊』ニアサス・アーウェルンクス様...」
「あら?エリアこの子は?」
「この人はシーア・フランネル、ダンジョンで助けてくれたんだ。そしてそこで酔い潰れているのがリリーナ・フランネル、シーアのお姉さんだよ」
「あなたこんな可愛らしい娘を二人もゲットするなんてなかなかやるわね?」
アーウェルンクスは少し不満そうにエリアを見て苦笑した。それを聞いていたシーアは私ゲットされちゃったの!?みたいな顔でエリアを見ている
「ゲットって...そんなんじゃないよ、二人はうちのギルドに入りたいんだって」
「ギルドに?...ふーん、いいわよ?二人ともちょっと訳ありって感じみたいだし」
アーウェルンクスにはシーアが隠していることがすぐわかったようだ。
「まぁとりあえずはおかえりなさい。無事でよかったわ」
「そういえばアー様拠点探しどうなったの?」
「あ、そうそう、そのことで私もあなたのことを探してたのよ」
「それでいい場所が見つかったんですか?」
「ええ、あなたがダンジョンに向かってから数十分ほどでね。でも見つかったというよりは譲り受けたっていう方が妥当かしらね」
そのなにか引っかかる言い方に疑問を感じたが、あまり聞かない方がいいだろうと直感で思ってしまった。さっそくそこに行こうとアー様が案内してくる。エリアとシーアは置いていかれないようにその後ろをついて行った。熟睡しているリリーナはまたエリアが背負っていくことになった
「その拠点...ホームってどこにあるんですか」
「大通りのとある酒場の近くにあるわ。ええっと、《深海の楽園》って酒場だったかしら」
「そこってさっき僕達がいた酒場...だよね?」
「そうだと思います」
「エリア...私があなたを探していたのにあなたは呑気にお酒を飲んでいたのね...」
アーウェルンクスは目を細め軽蔑の眼差しでエリアを睨んでいる
(なんだろう...すごい睨まれてる...)
「そ、それよりも酒場に着きましたよ」
気付かぬうちに先程いた酒場の前に戻ってきていた。そのことに気づいたアーウェルンクスは軽くエリアの膝裏に蹴りをいれて裏道をついてくるように告げた
「こっちよ」
言われるがままにあとをついていく。
裏道に入って数分歩くとある一件の宿屋に着いた
「ここよ、ここが今日から私たちの拠点よ」
「ここってでも...宿屋ですよね?」
「そうよ?見ての通り宿屋よ。とりあえず外で立ち話を続けるのもあれだから中に入りましょう」
その建物の壁には《月詠の泉》と書かれた看板が吊り下げられている。見た目は和風と洋風を合わせたような外観で綺麗な建物だ。いざ中に入ると中は外見よりも広く、そして豪華なものだった
「クレール、今戻ったわよ」
アーウェルンクスがそう叫ぶと受付の置くから一人の男性が出てきた
「なぁ...本当にここ使うのか?」
「?当たり前じゃない」
彼女がクレールと呼ぶ男性、名前はエパメイ・クレール。軽い白髪混じりの黒髪のいかにもって感じの渋いオジサマだ。見た感じはだいたい40代ぐらいだろう
「まったくいきなり押しかけてきてここを使わせてもらうって言うから何言ってんだこいつって思ったけど本気だったとは...」
「私が冗談なんて言うと思う?いつだって本気よ」
「...やれやれ」
二人の会話を聞いていたエリアがアーウェルンクスに問いかける
「あのぉ...あの方はアー様のお知り合いの方ですか」
「そうよ、紹介しておくわね。こいつの名前はエパメイ・クレール、こんな辛気臭い顔してるうえにおじさんだけど一応神様よ」
「ひどい言われようだな...まっ、いまこいつが言った通り一応神をやっている。神様とか呼ばれるのは性にあわねぇから気軽にクレールって呼んでくれや」
「えっと...クレールさんは神様なのに宿屋の主人をやっているんですか?」
「あぁそうだよ。どうも天界での管理職ってのは性にあわなくてさ、こーゆーことやってる方が気楽で好きなんだよ。ま、たったさっきそこの小娘にこの宿を乗っ取られちまったけどな」
「人聞きの悪いことを言うのね、私は手伝う代わりに宿を提供しなさいって言ったのよ?それを人を強盗みたいに...」
「うそつけっ、ほぼほぼ居座り強盗みたいなもんじゃねぇか」
そう言ってくるクレールの足をかかとで踏みつける。相当強く踏みつけられたのかクレールは足を抑えて転げ回っている
「話してるとおり今日からここを拠点にして活動するわ。それとシーアって言ったわね、あなたの登録はさっき済ませておいたから今日からあなたも一応ギルドの一員よ?」
「あっ、ありがとうございます...」
「ふぅ...私疲れたから今日はもう休むわね。
エリア、明日からはあなたが自分で考えて行動するのよ?」
そう言ってアーウェルンクスは上の客室の方に上がっていった。エリアとシーアの二人は足を抑えているクレールのそばに近寄った
「あの...大丈夫ですか?」
「大丈夫...と言いたいところだが正直相当痛い」
「一応治癒呪文かけときますね...」
「ありがとよ...」
シーアは呪文を詠唱し始める
「クレールさんは見た感じアー様とお知り合いなんですよね」
「知り合いっていうか...完全に腐れ縁だな。あいつが幼い頃から面倒見てやってるし。どうしてあんなひねくれちまったのかなぁ...今日だって突然押しかけてきて、この場所使わせてもらうから、の一言だったしな」
「苦労してるんですね...」
「お前らもあいつと付き合ってるとじきにわかってくるさ。ま、これからは苦労仲間としてよろしくな...ええっとお前ら名前は?」
「僕はエリア・グラディウスです」
「私はシーア・フランネルといいます」
「おう、エリアにシーアな、これからよろしくな」
なんだか申し訳ない気もするがクレールさんの宿を拠点として活動することになった。それにしてもクレールさん、なんだかんだ言ってアー様には甘そうな気がする...