6話〜帰還〜
本来モンスターというのは致命的なダメージを受けると消滅してしまうものなのだがさっき倒した赤いゴブリンは体が三つに切り裂かれてるというのに消滅する様子がないのだ。それを見ていたエリアは苦い顔をしつつ二人のあとについて行った
「それにしてもさっきのやつなんだったのかしら」
「見たことないゴブリンでした..."変異種"ってところでしょうか...」
「それにしてもこんな一階層に出るものかしらね...」
「最近はダンジョンの内部でも変化が増えてきているそうですし...何が起こっても不思議じゃ...」
「それもそうね、まぁ無事だったんだしいいじゃない...ちょっとエリア!わざわざそんな後ろを歩かなくてもいいんじゃないの!?可愛い女の子が二人もいるのよ?」
「っえ!?あ、うん。そうだね...」
そう言われエリアは足を急がせ二人の近くまで駆け寄っていく。シーアは何かを考え込むエリアを見て話しかけてきた
「エリアさん、なにか気がかりなことでもあるんですか?」
「うん...さっき倒した赤いゴブリン、あんな状態になっていたのに消滅していなかったんだ。普通あそこまでバラバラになってたら消滅するのに...」
「確かに不思議ですね...」
話を聞いたシーアも考え込んでしまう。二人の様子を見たリリーナが呆れながら呼びかけた
「あんた達二人揃ってなに唸ってんの?もう入口に着いたわよ?」
考えている間に気付かず入口まで戻ってきていたのだ。引き戻されるようにそのことに気づいた二人は息が揃ったように
「「いつのまに...」」
「とりあえずここを出ましょう。『命選の精霊』に会いに行くわよ!」
リリーナが二人の手を取って走り出し、ダンジョンを脱出した。初めてのダンジョン...滞在した時間は二時間にも満たないが短いようで長い時間だった
ダンジョンからの帰り道、エリアはあることを思い出した
「そういえばアー様、拠点探しに行くって言ってたけどどこいったんだろう」
「え?あんた達のホームまだ決まってなかったの?」
「うん、それで探してくるからお前はダンジョンに行ってこいって...」
「...ふぅん、そうなんだ」
「今頃どこにいるんだろう...」
エリアは空を見上げて何処にいるだろうアー様の行方を考えていた。するとリリーナが疲れているだろう、ということで酒場にでも行こうと提案してきた。シーナはあまり乗り気じゃなさそうだがエリアも行こうと言うのでしぶしぶ行くことを決めた。三人はまだ日も高い時間だが酒場へと向かった。酒場《深海の楽園》そこは街の大通りを中心地に向かっていく途中にある酒場。さすがは大通りに構えているだけあってその外見は立派なものであり、この場所では昼でも夜でもたいてい冒険者がバカ騒ぎしてるのだ。
「いらっしゃい!」
店に入ると店員の元気な声が響く。活気が溢れていて冒険者たちが酒を飲み交わし、笑っている。リリーナは空いている席へと足を進めていく。シーアは姉に縋り付くように服を掴んでいる。やはりこういう場所は苦手なのだろう。そう思いつつ二人の後ろを歩いていた。
「あーもう!離れなさい!歩きづらいでしょう!?」
「だ、だって姉様...」
そんなことを話しながらもカウンター席に並んで座った。すると奥の方から熊のような店主がやってきて三人の前に立った
「らっしゃい、注文はなんだい?」
極悪囚のような顔立ちをしているにも関わらずその表情はニコリと微笑んでいた、その見た目とのギャップに三人は同じことを考えていた
(((似合わないなー...)))
「じゃ、じゃあ私はエール!」
「私はレモンプランで...」
「僕もエールにしようかな」
「あいよ!」
注文を聞いた店主は奥の方へと入っていった。飲み物を待っている間に改めて辺りを見渡すと女性冒険者が多いことに気づいた。この酒場では昼は女性が多く、夜は男性が多いのがここの特徴らしい
「リリーナはここにはよく来るの?」
「初めてよ」
「へ、へぇ...」
「それよりあなた...今いくつ?お酒飲んでもいい歳なの?」
「身長見て言ったでしょ...16だよ」
「うそっ!?私より年上だったの!?」
この国の法律で飲酒が認められるのは15歳と定められているのだ。リリーナは完全に年下に見ていたのか明らかな驚きを見せている、無理もない
「こんな小さいのに」
「余計なお世話だ」
上から見下ろすようにクスリと笑われた。そんなやりとりをしているうちに注文していた飲み物を店主が持ってきた
「お待ちどうさま」
ジョッキいっぱいに注がれた冷たいエールが二つ、細いグラスに注がれたレモンプランが一つ、三人の元に運ばれた。全員が飲み物を持ったことを確認するとリリーナが乾杯の音頭をとる
「二人ともお疲れ様、乾杯!」
「「乾杯」」
リリーナは勢いよくエールを流し込んでいき、ものの数秒で飲み終わっていた。シーアはその様子を見ながらも少しづつレモンプランを飲んでいる
「マスターもう一杯!」
「姉様...そんな勢いで飲むと体に悪いですよ」
「何言ってるの!これがいいんじゃない!」
エリアはそんな二人を眺めつつ自分のエールを飲んでいた。こんなやり取りが続けられ、しばらくしてエリアが話を切り出した
「ねぇ、二人が冒険者になったのっていつ?」
「今日ですね」
「今日!?それなのになんであんなに強いの?」
「私たちは幼い頃から訓練を受けていたので...」
「そうらのよー、わたひたちむかひからつおいのー」
リリーナは完全に酔っ払っていて話せる状態じゃないのでシーナが話を続けた
「昔からお父様とお母様が「人を導く立場にいるのだからそれ相応の力を持ってなくてはいけない」ということで物心ついたころから戦闘訓練をさせられていたんです」
「人を導くって...?」
「そう言えば言ってませんでしたね、私達はこの国の王エイブラム・フランネルの娘、わかりやすく言えば"お姫様"という立場にあるのです」
エリアは飲んでいたエールを軽く吹き出しむせた。確かにそこで酔っ払っているのは少しあれだけどシーアからはどことなく気品を感じる
「そのお姫様がなんでダンジョンなんかに?」
「それは...お話できません...こちらにも事情がありますので...」
「事情...か、わかったよ」
そう話すシーアの表情が少し暗くなっているのに気づいたエリアはそれ以上聞かないことにした
「じゃあそろそろ出よっか、マスター勘定置いとくよー」
「そうですね、姉様起きてください、行きますよ」
「んー、おしゃけのみほうだい...」
「どうしよっか...」
「どうしましょう...」
とりあえずエリアはリリーナを背負うことにして二人は酒場を後にした