17話〜真意〜
赤き獣人は体が膨張した影響で力は強くなっているが動きは鈍くなっている。加えて右腕が切り落とされているので攻撃速度は半分以下にまで落ちているようだ。二人は重い一撃を避けながら少しづつその巨体に斬撃をいれていく
「グルアァァァァァ!コロス!コロス!」
「あそこまでいくと完全にバケモノね...さっきの狼型の方が可愛く思えるわ」
「それにしても硬い、魔法を纏っているのに切り抜けれない...」
「あんたはまだいいわよ、私なんて力技で無理やり切ってるんだから」
そう言いながらも刃を突き立て続ける。大きな傷は入らないものの少しづつは削れていってるようだ。だが致命傷となる一撃を入れることができない
「あーもう鬱陶しいわね!エリア!少し時間稼いでちょうだい!」
「リリーナ?...わかった!」
エリアは赤き獣人の意識がリリーナに向かないように撹乱する。
「魔法陣展開!」
リリーナの周りに魔法陣がいくつも展開される。シーアが使っていた魔法にそっくりだが根本的な魔法設定は違うようだ。しだいに魔法陣がリリーナに集まってくる
「限界解除!」
全ての魔法陣が一つに重なったとき眩い光を発した。するとリリーナの体は赤と黄色のオーラに包まれていく。さらに詠唱を続ける
「すべてを包み込む大いなる力よ!幾重千重に重なれ!我に力を!」
オーラは輝きを増していく
「連鎖的付与術開始!」
詠唱が終わったリリーナは大剣を二つに分け走り込んでいく。それに気づいた赤き獣人は腕でなぎ払おうとするが飛び上がり回避する
「力付与術・三重!」
空から勢いを増して切り込む。その一撃は硬い外皮を貫いて大きな傷を入れた。肩から斜めについた傷からは血が吹き出している
「まだまだぁ!力付与術・四重!速度付与術・三重!」
自分に能力強化魔法を重ねていくリリーナ、その剣撃はどんどん強く、どんどん速くなる。確実に刻まれていく斬撃に赤き獣人は押されていき膝をつく。それを見たリリーナは一気に押し込もうとする
「すごい...これがリリーナの力か...」
「力付与術・極限!、速度付与術・極限!」
リリーナは最大まで自分を強化していく。オーラは体の数倍以上に膨れてその力が空気に伝わってくる。草木は揺れ、地面が鳴動するほど大きな力だ。赤き獣人はその強大な力に警戒をとるが刻まれたダメージにより動くことができない
「エリア離れなさい!私が一撃で吹き飛ばしてあげるわ!!」
その声と同時にエリアは剣で一太刀を浴びせ離れる。リリーナは相手との間合いを詰めていく。赤き獣人は体が動かないためなんとか反撃をしようと口から火球を連続で打ち出してくるが強化された速度の前に火球はゆっくり動く蝶も同様、当たるどころかかすりすらしない。そして瞬く間に赤き獣人の眼前にまで近づく。それを近づけまいと殴りかかってくるが当たらない。リリーナは二本の剣を再び大剣の形に戻し構える
「消し飛べぇぇぇぇぇぇ!」
下から抉り込むように剣を振り上げる。その一撃は赤き獣人を縦に切り裂き、その剣圧でその身は粉々に吹き飛ぶ。吹き飛んだ破片も剣圧に巻き込まれて大部分は消滅した。唯一頭の半割れだけがその場に残っていた。
「終わったかしら?」
「まだ頭が残っているけどさすがにあの状態だと...」
戦闘が終わったと判断したリリーナは連鎖的付与術を解除する。エリアは魔装のおかげで動けているのでまだ解除はしない。
「それにしてもすごい魔法だね、シーアのと少し似てるし」
「すごいでしょ?連鎖的付与術っていう私専用の魔法なの。魔法の基礎はシーアの加算式大魔法術と一緒ね。でも作りが少し違ってね、私のは能力強化魔法、シーアのは自然属性魔法を支柱としてるのよ。まぁ似てるのはあのこと一緒に作ったからかしら」
「シーアのは魔法を組み立てるんだったよね?リリーナのは?」
「私の場合は能力強化魔法の重ねがけ、普通だと一つずつしかできないとこをまとめてかけるの。一つの種類に対してかけられる回数は五回、つまりそこが限界ね。でも五回も重ねると普通の能力強化魔法の十数倍の効果が出るわね、でもこの魔法にも欠点があってね...」
そう言いかけるとリリーナは頭から地面に倒れた。
「リリーナ!?大丈夫!?」
「これ使うとね...全身筋肉痛に...なるの...」
全身筋肉痛、確かに体が動かないようだ。その証拠にうつ伏せの状態で話している
「とりあえず...紫苑さん拾って...街に戻りましょ...」
「そうだね、あの助けた冒険者も街まで戻っただろうし...リリーナは僕が背負うね。紫苑さんはあっちの方だよね」
「変なとこ触ったら...殺すわよ...」
「...絶対触らないって誓うよ」
エリアはリリーナを背負って紫苑の方に向かおうとする。そのときエリアの両足に鈍い痛みが走る。なにかに足を貫かれたようだ。その痛みでエリアは崩れ落ちる
「なっ...!?」
「エリア...!?」
倒れた勢いでリリーナは投げ出される。エリアは自分の足を貫いているものがなにか確認する。それは赤い何か、エリアにはこれがなにかがすぐわかった
「やっぱりまだ死んでいなかったか...!」
そこにはさっき倒した赤き獣人の顔の半割れ、その角が伸びて足を貫いているようだ。すぐさまエリアは刺さっている角を切って抜き取る
「消エテナイト思ッタノナラトドメハ刺スベキダッタネ」
「くっ...なら今からトドメを...っ!?」
なぜか体に力が入らない。気づくと体を覆っていた炎も小さくなっている
「まさか魔力を...!?」
「ソノマサカダヨ。君ノ魔力ヲ頂イタノサ」
「モンスターにそんなことが...」
「普通ノモンスターニハデキナイサ」
「じゃあお前はどうして...?」
「...オ前ニトアル昔話ヲシテヤロウ。昔アル所ニ一人ノ魔法学者ガイタ。ソノ学者ハモンスターニツイテ研究シテイテ寝テモ研究、起キテモ研究、ト一日ノ殆ドヲ研究ニ費ヤシテイタソウダ。ソンナ日々ガ続クナカ学者ハアル事ヲ考エテイタ、ソレハモンスター同士ヲ融合サセルトイウ事ダッタ」
「...どういうことだ?」
「ソウ急グナ、融合...二体ノモンスターノ力ヲ掛ケ合ワセルトイウモノダ。ダガソノ研究ハナカナカ実ヲ結バナカッタ、根本的ニモンスターノ構造トイウモノハ人間トハ違ウ作リニナッテイル。ダカラ研究ハ上手クイカナカッタ。マァ正体ガワカラナイ者同士の融合ダ、ソウ簡単ニデキルハズガナイ。ソコデ学者ハアルコトヲ思イツク、ソレハ人間ニモンスターノ構造ヲ組ミ込ムトイウコトダ」
「そんなことをしたら...」
「案ノ定実験ハ成功シタ、ダガソノ人間ハオ前ガ考エテイルトオリシダイニ人間トシテノ理性ヲ失ッテイッタンダ。結果研究ハ廃止サレモンスターニナリカカッタ人間ハダンジョンニ捨テラレタソウダ」
「ダンジョンに...それにその詳しさ...もしかしてお前が...?」
「...ソコハ君ノ想像ニ任セルサ」
驚きの事態に動揺を隠せないエリア、モンスターの融合、人への移植、どちらも信じ難いことだった。だが事実目の前にそれを詳しく知るモンスター...きっとこいつがその学者なのだろう
「捨テラレタモンスターモドキハソコカライキテイクノニ精一杯ダッタ。ココハ弱肉強食ノ世界、弱イ奴ハ生キレナイ場所ダ、ダカラ周リノモンスターヲ取リ込ミナガラナントカ生キ残ッタ。ソノ反動デ残ッテイタ理性ハ完全ニ消エタガナ。ソシテ今回人間ヲ取リ込ンダコトデソノ理性ガ戻ッテキタノダ...魔力ヲ吸収デキルノハ研究デノ副産物ノヨウナモノダ」
「おかしいよ...研究のためにそこまでするなんて!!」
「考エ方ハ人ソレゾレダ。サテ...ソロソロ話モ終ワリダ、私ハ生キ残コラナケレバナラナイ。ダカラ君タチヲ倒シテ吸収シテイク!」
話を終えた赤き獣人の残骸は吸収した魔力で姿を変えていく。その姿は変わっていきしだいに完全な人型になった。その体にはエリアと同様炎を纏っている、さらに腕の一部を剣の形に変化させている
「...僕はお前に吸収されない、僕は...僕はお前を倒して帰るんだ!」
「ナラバドチラガ先ニ死ヌカ勝負ダ!」
お互いは距離を詰めていき剣を振る。そこからの戦いは単純だ。純粋な力のぶつけ合い、剣同士がぶつかり合い火花が散る、互いに少しずつ体に斬撃をいれていく。削り合い、どちらが先に倒れるかの勝負だ
「はあぁぁぁぁぁ!」
「ガァァァァァァ!」
振り合う剣速がしだいに早くなっていきもう目で追いきれないほどだ。しだいにエリアは押されていく、足を貫かれたダメージで踏ん張りが効かないのだ
「このままじゃ...」
「モウ限界ノヨウダナ!コノ勝負私ノ勝チダ!」
赤き獣人はエリアが怯んだタイミングで刺し込んでくる。それはエリアの腹部に刺さり血を吹き出している
「うぐっ...」
「ソロソロ諦メロ、私ニ吸収サレルガイイ!」
「諦めてたまるか...僕は生きるんだ...それにこれでお前の動きを封じることが出来た...」
「抜ケナイ...!?」
エリアの腹に刺さった剣を抜くことができないようだ。赤き獣人は体を剣に変化させていたため身動きが取れない。
「だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
エリアの剣が赤き獣人の体を貫く
「グゥ...!ダガコノ程度デ私ハ...」
「この程度で終わるなら...だろ?」
「オ前何ヲ!?」
エリアは体に力を込める、それに応じるように体から魔力が溢れ出てくる。その魔力は炎に姿を変え剣を伝っていき赤き獣人を焼く
「ガハッ!コノママ焼クツモリカ!ダガオ前ノ炎ノ魔力ヲ吸収シタ私ヲ焼キ殺スコトハ不可能ダ!」
「炎だけなら...他の魔法も合わさるとどうだ!」
エリアは自分のイメージを変化させていく、今のイメージは燃え盛る炎、そこにほとばしる雷、荒ぶる稲妻のイメージを追加していく。しだいにエリアの体を覆っている炎に加えて雷も走る、その雷は剣を伝って赤き獣人の体を焼く。剣の刺さっている場所からどんどん炭化していく
「グワァァァァァァ!!」
「消えろぉぉぉぉぉぉ!!」
さらに威力をあげるエリア、しだいに赤き獣人の体は膨張していき耐えられなくなったのか炎雷ともに吹き飛んだ