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「ダンジョン」と生きていく  作者: 春 シオン
1章【始まりと冒険】
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16話〜赤き獣人〜

エリアの頭をよぎる一つのこと...


「もしかしてあのゴブリンか...?」


「ゴブリン?こいつは狼よ?」


「違うんだ、確かにあのときゴブリンは倒した、でもあいつは倒れただけで死んではなかったんだ。シーアと二人で見に行ったときに溶けていたのがずっと頭に引っかかってたんだけど...ここからは僕の憶測だ、あのゴブリンは生きていた、溶けていたのは再生しようとしていた、そして元に戻る段階で牙狼種を取り込んだからあんな姿に変化したんじゃないかと思うんだ...」


「再生って...そんなモンスター記録には存在しないのに...」


「きっと変異種か進化種...そうでもないと説明できない...」


三人は武器を構えつつ距離をとる。そのとき紫苑があることに気づく、目の前の三つ首の狼の背中に二人の冒険者が取り込まれかけていること


「た...助けて...」


「あいつは人間も取り込むのか...!?時間がないみたい、二人ともやるよ!」


エリアの掛け声とともに一斉に走り込んでいく。相手を敵とみなした三つ首の狼は大きく咆哮をあげこちらに向かってくる。牙狼種を取り込んだためかその動きは恐ろしく俊敏、そして一瞬で距離を詰め腕を振り回す。紫苑とリリーナは紙一重で避けるがエリアは吹き飛ばされてしまう。なんとか受け身を取るが木に打ち付けられてしまった。


「がはっ...!」


「エリア!?」


「よそ見してる暇なんてありません!相手に集中してください!」


懐に潜り込んだ紫苑は刀を抜き三つ首の狼の腹に切り込む。しかし強固な鱗があるためか傷はほとんど入っていない。


「硬い...!」


「硬いなら無理やり押し込むまで!力付与術(パワーエンチャント)!」


大剣を大きく振り首に一撃を切り込む。首には傷が刻み込まれるが致命傷までは至らない


「ちょっと硬すぎでしょ!」


「これはどうしましょうか...」


相手の硬さに苦戦する二人、すると体制を立て直し戻ってきたエリアが二人にあることを提案する


「見た感じ斬撃でダメージを与えるのはきつそうだね、となると...」


「魔法でやれってこと?でもあたし炎槍弾(ブラスト)しか使えないけど...エリアはともかく紫苑は魔法って使えたりする?」


「魔法...それはよくわかりませんが妖術の類でしょうか?」


「こっちも妖術はわからないけど炎とか氷とかで攻撃するの!」


「それなら私の流派に心得があります、やってみましょう」


独特な構えをとる紫苑


炎剣(えんけん)火之迦具土(ヒノカグツチ)!」


紫苑の剣が炎に包まれる。そして瞬く間に走り込んでいき前足に斬撃を入れる。炎を纏ったことで鱗ごと両前足を切り落とす


「このまま倒します!」


再び構えを取り呼吸を整える。静かに...穏やかに...紫苑の周りから音が消え去る。その瞬間紫苑は視認できない早さで相手との間合いを詰める


「九重流奥義!炎撃乱舞!!」


炎を纏った剣での高速剣撃、その動きはエリアとリリーナには瞬間移動したようにしか見えなかった。紫苑が背後に移動して数秒後三つ首の狼の体はバラバラに崩れる。体が崩れたことにより取り込まれかけていた冒険者が放り出された


「ふぅ...こんな感じでしょうか」


「紫苑強いわね」


「まだまだです。...それよりあのお二人の救助を」


三人は捕まっていた冒険者に近寄る、一人は意識がしっかりしていて怪我もほとんどないようだがもう一人はすぐに手当をしないといけない重症だった


「とりあえずこの方の手当をしましょう」


「あ、ありがとうございます...助かりまし...後ろ!!」


冒険者の掛け声に三人は回避行動をとる。そこにはさっきバラバラになった三つ首の狼の残骸が固まっている。きっと再生しようと一箇所に集まり襲ってきたのだろう。その物体に警戒をとる、そのときエリアがその物体の近くに重症の冒険者が倒れていることに気づく。回避行動で助けるのが間に合わなかったのだ。するとその物体はあろうことにその冒険者を取り込み始めた


「いけない!早く助けないと!」


「私がもう一度!炎剣(えんけん)火之迦具土(ヒノカグツチ)!」


再び刹那の速さで間合いを詰める、だが間に合わなかったようだ。その物体は冒険者を取り込み、姿を変えていく、人間を取り込んだことでその形は人型に近づいていき、最終的には三つ首の狼人間のような形になった。その姿は"獣人"というのが妥当だろう


「間に合わなかった...でもすぐに倒せば!」


そのまま一撃を入れようとする紫苑だったがその斬撃は避けられてしまい反撃を食らってしまう。脇腹に拳を入れられた紫苑は木々を折りながら吹き飛んでいく。数十メートル行ったところで止まったようだがその一撃で気を失ってしまう


「紫苑さん!」


「エリア、来るわよ!」


三つ首の狼は人型になった恩恵かさっきよりも素早い動きで近づいてくる。エリアとリリーナは構えつつ相手の動きを見ながら間合いをとる。襲ってくると思った時予想外の出来事が起こる。赤き獣人へと姿を変えたモンスターが話しかけてきたのだ


「キミ達ハドウシテ私ヲ攻撃シテクルノダ?」


あまりの唐突な出来事に固まるふたり。きっと冒険者を取り込んだことで話せるようになったのだろう...話を続けてくる


「私ハ自分ノ進化ノタメニ生キテイルダケナノニドウシテキミ達...イヤ、ソコノ赤髪ノ少年ヨ、キミハ私ヲドウシタイト思ッテイルノダ?」


「僕は...お前を倒したいと思っている...」


「ソレハ私ガモンスターダカラカ?ソレトモ人間ヲ取リ込ンダカラカ?」


「両方だ」


「ソウカ...ナラ仕方ナイ、私ハモンスタートシテオ前ヲ迎エ討トウ」


会話が終わった瞬間赤き獣人は大きな咆哮をあげる、さっきよりも大きな咆哮だ。その轟音に一瞬二人は怯んでしまう。その隙を見て赤き獣人はリリーナの背後に移動し回し蹴りをいれる。リリーナはなんとか剣で防いだが衝撃で地面を転がる


「ぐっ...!」


エリアは相手の動きを見て攻撃の隙を計る。赤い獣人は跳躍のようなステップを踏んでいる。向こうも攻撃のタイミングを見計らっているのだろう。思考をかけ巡らせる、右か、左か、前か、後ろか、考えきれることをすべて頭で考える。そして赤き獣人は飛びかかってくる


「右!」


ステップから右に回り込んで蹴りを入れてくる。エリアは回転しながら攻撃を受け流して両手の魔法剣で反撃する。人間取り込んだためか外皮は柔らかくなっておりその斬撃は赤き獣人にダメージを与える


「動きは早いけどしっかり見れば避けられる!」


「前ヨリハ動ケルヨウダナ、シカシコレナラドウダ?」


赤き獣人は距離を置き口に力を溜める。すると牙の隙間からは炎が揺らめぎ始めた。数秒で溜め終え、ほとばしる火花が轟音をあげている。そしてエリアに向かって豪炎を発射する。その大きさはエリアの視界を一面真っ赤にするほどの巨大なものだ


「避けきれない...!」


エリアは回避行動をとるがその豪炎の大きさに避けきれず右半身を焼かれてしまう。なんとか他の部分は無事だが焼かれた右側はほとんど感覚がなくなっており火傷の痛みに苦しんでいる


「がぁ...足が...!」


その様子を見ていた赤き獣人は近づいてくる


「今ノヲ半身ダケデ済マスカ...全身ヲ焼クツモリダッタノダガ、ヤハリ君ハ強クナッタノダナ。ダガソノ傷デハ動ケマイ、私ハ君ヲ殺シハシナイ。ソレガ君ニ対スル敬意ダ」


そう言って赤き獣人はその場を去ろうとする。最初のダメージも重なってエリアの意識はどんどん遠くなる。その薄れいく意識の中でエリアには何かが見える...それは自分だ


❪起きろ...❫


(お前は...僕?)


❪あいつを逃がしていいのか?今あいつを倒しとかないと何をしでかすかわからないぞ?それでもいいのか?❫


(それはわかってる...でも体が...動かないんだ...)


❪じゃあ動けたらあいつを倒すか?❫


(え...?)


❪もう一度言うぞ、動ければお前はあいつを倒すんだな?❫


(...もちろんだ!)


その瞬間エリアの体からとてつもない量の碧銀色の粒子...魔力が溢れ出す。それに気づいた赤き魔獣は警戒して身構える


「力が...いや魔力が溢れる...」


「ナンダ...!?」


エリアは立ち上がり魔獣を見据える。


「お前は...お前は絶対倒す!!」


(この感じ...今ならできる!)


エリアはイメージする。燃え盛る炎、溢れる業火、滾る灼熱、自分の中の魔力を変化させていく...熱く、さらに熱く、もっと熱く!エリアの体から炎が溢れ出てくる


(このまま纏わせる!)


周りに漂っていた炎が集まってくる。その炎はだんだん薄くなりしだいにエリアの全身を覆っている。背中には炎が揺らめいでいる


「出来た...僕だけの魔法...魔装(マジックスキン)


「恐ロシイ魔力量...本当ニタダノ人間カ!?」


エリアは痛む体を奮い立たせ魔法剣を構える。そのとき魔法剣の溝が光り出す。その溝に沿って炎の魔力が伝っていく、そして刃は炎に包まれる


「アー様が言いかけてたのはこの事だったんだ...この力ならいける!」


赤き獣人はその力に脅威を感じたのか先に動いてくる。普通では受けきれない速度で殴りかかってくるがエリアはそれを剣で防ぎ、右腕に一太刀を入れる。その一撃で腕が吹き飛ぶ


「切っただけじゃだめだ!再生させないためには...!」


切った腕に向かって炎を飛ばす。すると腕は炭と化して粉々になった


「コレ程トハ...仕方ナイ、私モ本気ヲ出ソウ!!」


赤き獣人は全身に力を込める。すると全身の筋肉が膨張し始め、瞬く間に元の三倍ほどに大きくなった。体からは蒸気のようなものも出ている


「ゴアァァァァァァァ!!」


力を解放した反動かその様子はすでに人の言葉を話せず完全なモンスターに成り果てたようだ。目の前の物を破壊するように次々に木々をなぎ倒していく


「こいつ...理性を失ったか!」


次々に破壊されていく森林、このままじゃダンジョンが丸坊主になってしまう。そう思ったエリアはすぐさま懐に駆け込み縦に切り込む。しかし筋肉が膨張したせいかその体は鉄のように硬くなっている


「硬い...!」


「エリア!大丈夫...ってなんで全身燃えてんの!?」


吹き飛ばされていたリリーナが戻ってきたようだ。少し見ぬまに見た目が変わっているエリアに驚いているが、もっと見た目が変わっている獣人に対しても驚きを隠せない


「私がいないあいだに何があったのよ!」


「とりあえず話は後でするよ!今はこいつを倒そう!」


「そうね...いくわよ!」

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