10話〜魔法の勉強〜
サテラウルフとの戦闘の翌日、エリアは疲れからか八時をすぎた今も眠っている。あの大量のモンスターを相手にしたので無理もないことだ。するとドアを開けて誰が入ってくる
「.........さん、......リアさん」
「ん...誰...?」
「エリアさん、おはようございます」
そこにはシーアの姿があった。
「シーア...?どうしたの...?」
「今日は魔法の勉強をしますよ?」
昨日シーアは大魔法を二回放ち、疲れていると思っていたけれど全然その様子はない。むしろ生き生きとしているぐらいのテンションだ。シーアに促されながらエリアはゆっくりと起き上がった
「シーアは元気だね。僕なんてもう疲れて...」
「魔法を知りたいって言ってくれる人がいるんですから元気が出ないわけありませんよ。魔法は偉大なものなのです。その真髄を今日エリアさんにしっかりとご教授しようと思っています。...とその前に朝食食べに行きましょうか」
「...うん」
シーアはまだ夢現なエリアの腕を引いて階段を降りていく。ロビーまで降りたときそこにはリリーナの姿があった
「シーア...あんた一日でずいぶんとエリアと仲良くなったわね?なにか特別なことでもあったのかしら?」
「特別ってそんな...昨日は姉様が起きてこられないので二人でクエストに行っただけです。本当にそれだけです」
「それだけ...ねぇ...」
「姉様は昨日一日酔い潰れていたので知らないだけです。」
「うぐっ...それ言われると何も言い返せないわね...そうだ、二人とも今日は何するの?今日は私も着いていくわ」
「今日はエリアさんが魔法について知りたいと言われたので勉強を兼ねてクエストに行こうと思ってます」
「なるほど...どおりで朝からテンションが高いわけね...エリア、その子の魔法勉強は厳しいわよー?死ぬ気でやらないと死ぬわよー」
「えっ...」
その一言にエリアの眼はバッチリ冴えた。あのリリーナが死ぬというほどなんだから想像を絶するものであろう。エリアは震えながらシーアを見つめた
「あの...大丈夫ですよ?初心者なので優しく一からお教えしますよ」
「シーアあんたもしかして私のときだけ厳しくしてたの...!?」
「はい、姉様は魔法を使える状態だったので」
「ぐぬぅ...」
リリーナをくわえて三人は食堂へと向かった。いい匂いがする。そこには厨房に立って料理するクレールの姿があった。料理をするその姿は厨房にいても全く違和感がなかった
「おうお前ら、おはよう!」
「「おはようございます」」
「...ねぇこの人誰?」
「お!お嬢ちゃんは昨日一日寝てた子だな。俺の名前はエパメイ・クレール、クレールって呼んでくれればいいぜ。」
「私はリリーナ・フランネル、私もリリーナでいいわ」
「リリーナか、いい名前だな。改めてよろしくな!」
三人は席につく。そこにクレール自慢の料理がやってきた。エリアとシーアじゃ昨日食べてわかったのだがクレールの作る料理はすごく美味しいのである。しかも料理ができるどころか家事に錬金、やることすべてを完璧にこなすのである。さすが神だと二人は思った。今日の朝食はパンケーキのようだ
「それにしてもなんで昨日は起こしてくれなかったわけ?」
「何度も起こしました!それでも起きないのでエリアさんと二人でクエストに行ったんです...だいたい姉様二日酔いのときに無理に起こすと怒るじゃないですか...」
「...それについては反省してるわ...」
「初めて飲んだ時も同じことを言ってましたよ...」
「なぁ、嬢ちゃんら飯食うときくらいはそんな話やめようぜ?せっかく上手いもん作ってやったんだからよ。食うときは楽しく食う!これが一番だ!」
「「ごめんなさい...」」
クレールの一言に反省する二人。クレールはそんな二人を笑いながらミルクを飲む。エリアはそんな和む場を見てやっぱりギルドに入れてよかったと思うのだった。全員が朝食を食べ終わり一服してるとき、エリアはクレールの近場の店のことを聞いた
「あのクレールさん、この近くに鍛冶屋はありますか?昨日の戦闘でだいぶ傷んじゃって...」
そう言いながら取り出したダガーは昨日のサテラウルフと戦闘で付けられた爪の跡や牙の跡でボロボロになっていたのだ
「こりゃひどいな...よし!これを俺に預けな!帰ってくるまでに直してやるよ!」
「クレールさん鍛冶もできるんですか?」
「あれ、言ってなかったか?この《月詠の泉》は宿屋であると同時に鍛冶屋でもあり、道具屋でもあり、そして錬金屋でもあるんだぜ!」
「すごい...ここだけで冒険に必要なものは揃っちゃうんだ」
「なのに客足は全然でさ、なんでだろうねぇ...」
「あの...多分立地のせいかと...」
悩むクレールにシーアが答える。この《月詠の泉》は大通りではなくその横道に入った場所にある。しかもその横道に入る大通りには宿屋、鍛冶屋、道具屋...と、この店でできることは大通りの店でたいてい済ませることができるからである。それを聞いたクレールが頭を抱える
「そうだったか...どおりで全然人が来ないと思ったよ。となるとなにかこの辺にないもので客引きするしかないな。なぁお前ら今日も出かけるんだろ?ついでにこの街にない店を見てきてくんねぇか?なに、行き帰りにある店だけでいいさ」
「それぐらいならお安い御用です」
「ありがとよ。そうそう今日も日帰りだろ?弁当作っといてやったぜ」
クレールが指さす方には包に入れられた弁当が用意されている。エリアとシーアはさすがだ、という目でクレールを見ている。しかしリリーナは目の前にいるなんでも超人に驚いていた
「ねぇエリア、この人何者なの?聞いてる限りだとなんでもできるみたいだけど...」
「そっかリリーナは知らなかったね。この人は神様だよ」
「神!?なんで神が宿屋なんかを!?」
「はは...それについてはダンジョンに行く途中で説明するよ」
準備ができた三人は拠点を出て管理所に向かっていく。その途中リリーナにクレールことを説明する。だがリリーナはそんな理由でやってるわけがないの一点張りで信じてくれなかった。そんなこんなで三人は冒険者管理所に足を運んだ。
「ねぇなんで直接ダンジョンに行かないの?」
「昨日シーアと話してたんだけどただ行くだけじゃもったいないからついでにクエストも受けとけばいいかなって思ってね。」
エリアは掲示板に張り出された依頼を見ていく。その中で比較的に安全そうな採取クエストを見つけた
「これなら奥まで行かないでいいしちょうどいいかも」
「エリア!こんなの見つけたんだけどどう!?」
そう言ってリリーナが持ってきたのは大討伐系の依頼書だった。
内容は三つ首の帝王竜の討伐。一流の冒険者が三十人がかりでギリギリ勝てるような相手である
「そんなの無理だよ!第一これ辺境のダンジョンだよ...」
「残念、楽しそうだと思ったのに」
「エリアさん、この採取クエストなら一緒にできますよ」
シーアも一枚の依頼書を持ってきた。内容は〈上質な木炭〉の納品だ
「うん、これなら一緒にできるね。じゃあ僕はこの二枚を受付に持っていってくるね」
エリアは急ぎ足で受付に向かっていく。
「受付さん、これをお願いします」
「わかりました。すぐに受理処理を致しますので少々お待ちください」
受付にいたのは若いエルフ族の女性だ。その顔立ちは凛としていて、シーアのような可愛さやリリーナのような美しさではなく、どこか気品溢れるような感じだ
「お待たせしました。気をつけて行ってきてください」
「ありがとうございます」
エリアは二人の待つ管理所の外に走っていった。
「お待たせ、行こうか」
管理所を出た三人は【聖者の森林】に向かっていく。その道中、シーアは魔法の基礎をエリアに話していた
「まず魔法というのはおおまかに4種ありまして自然属性魔法、能力強化魔法、精霊魔法、神撃魔法に分かれます。それぞれの特徴としては自然属性魔法は炎や氷、風などこの世界に存在する自然から力を借りることで使うことができる魔法です。私が昨日使った加算式大魔法術もこれに当たります。能力強化魔法は自分に魔法で身体的強化を付与する魔法です。これは姉様が得意な魔法ですね」
「エリアも見たことあるやつと思うわ、なんなら今やってみせるわね。脚力付与術!」
リリーナの足が赤いオーラに包まれていく。すると思いっきり地面を蹴り上空高くまで飛び上がった。その姿を目視できないぐらいの高さまで飛んでいる
「こんな感じよー!」
「姉様...目立つので街中ではやめてください...」
数秒後、空から落ちてきたリリーナが軽やかに着地した
「ごほん...気を取り直して次は精霊魔法と呼ばれるものでこれは精霊との契約によって使うことができます。この魔法はどれも強大なものでものによっては一撃で戦況をひっくり返すほどのものもあります。属性や能力強化のようなものもありますので基本は最初の二つの上位互換と考えてもらってもいいですね。そして最後の神撃魔法は神との契約で使えるものでして他のに比べて少し変わった魔法が多いんです。二人に分裂する魔法だったり霧のように隠れたり、他には近くの果物を一箇所に集めるというものもありました」
「魔法もいろいろあるんだね」
「はい、でも後半二つは契約によって使えるようになるものですから今は気にしなくてもいいですよ。」
シーアの説明は魔法の基礎中の基礎だがエリアにはすでに奥深いイメージが根付いている。そしてシーアはバックから数枚の紙を取り出した
「これは魔法紙と呼ばれるもので自分の適正属性を調べることができます。自然属性魔法と能力強化魔法は誰にでも使えるものですが自分に相性のいい属性じゃないと魔法は発現しないのでまずはそれを調べます。やり方はこの紙をもって力を込めるだけです。やってみてください」
エリアは渡された紙に力を込める。すると瞬く間に紙の色が変化して言った